第104話 ダンジョン内に潜む凶悪なモンスター
私達はダンジョン内を冒険し、目に付く美味しそうなモンスターを狩猟し尽くしていた。コカトリスやハーピィーなどの鳥類から、宝虫といったオヤツまで調理して堪能していた。時刻は夜の8時になり、テントを張ってキャンプをする事にした。
「ふう、食った、食った。ダンジョン内で持ってきた物選手権は、調理器具と『ダンジョン飯』を持ってきた私の単独トップという事で決まったようですね。
ハンナちゃんはカンパンとテントも持ってきたけど、カンパンは必要なかったし、テントは寝袋さえあれば事足りるもん。
ベネットちゃんは、普通乳のオッパイを持っている以外は役に立ってないよ。化粧しなくても美人だし……。戦闘で役に立っているからチャラだけど……。
ステラちゃんの水分は美味しいけど、ダンジョン内に水が有ったからのチャラね。私が持ってきたインスタントコーヒーで代用できるもん。それに、ダンジョン内に入った瞬間に消滅するほど量も少なかったし……」
私が自分の持ってきた鍋を洗いながら勝利を宣言していると、他の3人が怒り出した。3人ともプライドが高く、下手に挑発すると凄まじいほどのクレームを言付けてくる。まずは、一番不必要な物を持ってきたと言われたステラが反撃してきた。
「それは、あんたらが全部飲んじゃったからでしょう! 少しはあんたらに分けてあげて、後はゆっくり自分で大切に飲むつもりだったのに、一気飲みするとか信じられない! まあ、おかげで荷物は楽になったけど……」
「じゃあ、良いじゃん! ステラちゃんが最下位ね」
「良くない! 本当は、私は浄水の綺麗な水しか受け付けない体なのよ。それが、3日間もろ過して沸かした水しか飲めないなんて耐えられないわ。くう、そのコーヒーくらい私に飲ませなさいよ。糖分が足んなくてイライラしてるのよ!」
ステラは、私のコーヒーを奪い取るように飲み始めた。良いとこのお嬢様らしいが、上品さではベネットの方が数段上だった。おそらくベネットは最上級レベルの上品さを持っており、ステラは下級貴族といったところだろう。
ベネットは、怒りを抑えられないステラを説得する。自分の姉妹と思っている彼女が、下品な振る舞いをする事を良く思っていないようだ。たとえベネットが私と一緒になって、ステラの飲み物を飲んだとしても、そこだけは注意しなければ気が済まないらしい。
「ステラ、自分の持ち物を守れないのは、あなたのミスよ。さっきまで上品な振る舞いをしていたあなたが、この程度の困難で本性を露わにしてしまって悲しいわ。たとえ死地にいようとも、最後まで上品良く華麗に振る舞うのが本当のレディーよ」
「おお、さすがはベネットちゃん、話が分かるし、優しい! やはりできる女の子は違いますなぁ。とは言っても、3番目の実力でしたけど……」
「ふふ、ローレンさん、ちょっとばかり自分の持ってきた物が活用できたからといって、調子に乗りすぎですよ。私の荷物が役に立つのは、ここから。簡易式のシャワーに、虫除けスプレー、夜食のケーキを持参しているわ。まさか、要らないとでも言うのかしら?」
「どうやらベネットちゃんが一位で、私が二位、オッパイ以外はクソ雑魚のハンナちゃんとステラちゃんが最下位争いをする事になりそうだね。ベネットちゃんは素晴らしい。特に、夜食のケーキを持ってきたのは尊敬に値するよ」
「おっほっほっほっ、もっと褒めなさい! 私を女王のように讃えて平伏す事を許可してあげるわ!」
「まあ、それはしないけど、ケーキは多めに頂戴ね」
私とベネットが意気投合していると、オッパイだけ強者のハンナが私を見て、鋭い眼光を向けてきた。私の脳裏に、死という文字が浮かぶ。少し調子に乗り過ぎたようだ。そう気付いた時には、首根っこを掴まれ、彼女の顔がアップで映し出されていた。
「おい、ローレン、誰がオッパイだけの雑魚だって? この前の戦いでは、敵を撃退できたからって調子に乗ってない? ってか、乗ってるよね。あれは、私と敵の相性が悪かっただけだから。私は接近戦タイプなのに、相手は遠距離タイプだったからね……」
「あの人、接近戦でも強かった……、ぐわあ、息が……、ごめん、死ぬ……」
「うふふ、これ以上この話題をしないというのなら、ここで解放してあげる。次は、手元が狂ってギロチン状に切断しちゃうかもね。私、風属性の賢者になりつつあるから……」
「放して……」
私は、決死の思いでその一言を言えた。どうやらハンナには、この前の戦闘で圧倒的な実力差でボロ負けした事がトラウマになっているらしい。更に、私がオッパイだけの雑魚と言ったことで殺意を抱いているようだ。これ以上の挑発はヤバイ!
「ふふ、よかった♡ せっかくの親友を失うのは悲しいもんね。貧乳のローレンちゃん♡」
「くう、ベネットちゃんが一位で、ハンナちゃんが二位、ステラちゃんが大負けに負けて三位、私がベリのドベのクズで良いです。挑発してすいませんでした」
「後、ドサクサに紛れてオッパイ触った♡」
「ひいいい、事故だったんです! もう勘弁してください!」
「うん、許してあげる♡」
こうして、私は呼吸が止まりかけたが、なんとかハンナの温情によって解放された。一瞬意識を失ったが、なんとか蘇生できて良かった。ステラは、私とハンナのケンカを見て疑問を感じていた。どうやら私が電撃を使わなかった事を不思議に思っているらしい。
「うーん、ローレンはどうして反撃しなかったんだろう。たしかに、首を掴まれたらヤバイけど、電撃という高速技なんかを使えば解放くらいできたはずなのに……。まあ、とっさの不意打ちでそんな余裕もなかったか」
「それは、彼女がローレンちゃん対策をしていたからよ。ハンナちゃんのあの手甲は、絶縁性の素材でできているわ。それによって電気を通さないように工夫して、彼女の反撃を防いでいたわけよ。本来は、電撃という最強クラスの相手に良く戦っている方だわ」
「ベネット、なんという洞察力。やっぱり、あんたも天才の部類なんだね……」
「ステラちゃん、あなた、ローレンちゃんの電撃を受けて頭がおかしくなったの? こんな素直に人を褒めるなんてしない子なのに……」
「私は純粋にすごいと思った事には褒めるよ。あんたが普段はうるさいから褒めてないだけで……」
こうして、私達の荷物の順位が決定して、しばらくは落ち着いて眠る事ができると思っていた。そこに、謎の2人組が話しかけてきたのである。
「はーい、君たち。僕たちのダンジョン内でずいぶん楽しく女子トークをしているね。僕たちも混ぜて欲しいな。僕は、思春期だからハーレムとか大好物なんでね。ガールフレンドのウサミミも可愛いけど、君たちも僕のハーレムに加わって欲しいよ♡」
突然の登場人物に、ステラやハンナが警戒する。私は、地面に倒れてけいれんしていたので、しばらく戦闘態勢を取ることができないでいた。ハンナの剛腕から解放されてはいるが、すぐに回復するほど簡単なダメージではない。
「なによ、あんたら?」
「どうやらこのダンジョンのボスキャラみたいね。ローレン……は、放っておいて、私達だけで迎撃するわよ。全く、肝心な時に役に立たないんだからローレンの奴は……」
「さすがに、この状況でそれは可哀想よ。せめて、すぐに回復できるくらいにダメージを抑えてしつける事はできなかったの? 白目をむいて、とても美少女には見えない可哀想な姿をさらしているわよ?」
「ちょっと怒りで手元が狂った!」
ベネットが私を介抱して、他の2人が敵と対峙する事にした。ベネットは、私に膝枕をして、白目をむいている目を閉じさせる。青白い顔をしていたが、彼女の化粧によって、可愛い美少女に回復させられていた。それでも、起き上がる事はできない。
「さてと、そろそろ私も参戦しますか。ハンナちゃんやステラちゃんでは、負ける事はなくても苦戦するかもしれないからね。私が参戦すれば、一気に敵を一網打尽にできるわ。ローレンちゃんは、ここで私達の勝ちを信じて待っていなさい」
「死んでない……」
とりあえず私が会話ができるくらいに回復したのを見て、ベネットが戦況を確認しながら敵に近づいて行く。ハンナとステラは、2対2の戦いで勝っているのだろうか? 低学年用のダンジョンだと油断していれば、殺されかねないのだ。