第102話 4人の持ち物
私達4人は、ダンジョンの入り口で持ち物検査をする。入ってしまえば、次に出てくるのは数日後になるのだ。中途半端な装備では、命の危険さえも出てくるのだ。全員の手持ちの荷物を確認してこそ、長い冒険の成功が確実なものとなるのだ。
「じゃあ、ローレンからね。かなりの大荷物だけど、何を持ってきたのかしら?」
「いきなり私?」
「ええ、どうせ使えない物ばっかりでしょうけど、最初ならショックも少ないからね。使えない荷物は、入り口前にゴミとして捨てるだけだもの。1つでも使える物があれば、褒めてあげるわ。さあ、その背中に背負っている荷物を見せてみなさい!」
「おいおい、ダンジョン内においては史上最強に使えるアイテムを集めてきたつもりだ。この中に無駄な物など何1つない!」
私は、リックサックを開いて中のお宝グッズを見せる事にした。それらは、私がダンジョン研究において調べた実用的な道具ばかりなのだ。大半は鍋や包丁まな板といった調理器具だが、ある本と組み合わせる事で無限の可能性を生み出すのだ。
「うわー、『ダンジョン飯』だ。鍋やら包丁といった調理器具が多いと思ったら、これを参考にして荷物を整理していたわね。それ以外には食料も非常食もなしか……。やっぱり最初に見て正解だったわね」
ハンナは、荷物を捌くって、ため息を吐く。捨てるほどではないが、使える物も少ないのだ。ベネットも呆れた感じで、私にいろいろ渡してきた。ダンジョン内のモンスターを食料にするのは賛成らしいが、それでも必要な荷物が欠けていたようだ。
「あんた、せめて米と調味料くらいは持参して来なさいよ。ほら、私の用意した米と調味料を持たせてあげるわ。小麦粉も入ってるからパンも作れるし……。このキノコとサソリ鍋とか美味しそう……」
「ありがとう、重いけど……」
米と小麦粉1キログラム分を手渡され、私の荷物はかなり重くなった。でも、調味料や米、小麦粉は必須アイテムだ。私は仕方なく、それらをリュックの中へ放り込んだ。
「じゃあ、次は問題児その2のベネットね。ローレンよりはマシな物を持ってきてると思うけど……」
「失礼ね、私の荷物は全ての女の子に必要な備品を揃えているわ。あなた達もきっと私に感謝する事でしょう!」
次は、問題児と呼ばれるベネットが荷物を開ける番になった。いったいどんな物を持っていたのだろうか? ハンナとステラが手分けして荷物のチェックをする。ベネットには、少しの不安も感じていないようだ。得意な様子で2人が確認するのを眺めていた。
「一応、寝袋は持参しているのか。それと、鏡と化粧道具……」
「当然よ、どんな場所でも美しくなければ、女の子とは言えませんもの。それだけでは無く、簡易シャワーも準備していますわ。水のある場所なら、いつでもどこでもシャワーが浴びれる優れ物よ!」
ベネットの荷物を見て、私は興奮していた。これで女の子全員の入浴シーンを見る事が可能になるのだ。水の残りが少ないからと、一緒に狭い個室でシャワーを浴びる事だってできる。狭い個室の中では、お触りだって仕方のない事なのだ。
「ベネットちゃん、天才! 今夜は一緒にシャワーを浴びて、一緒の寝袋で寝ようよ!」
「うふふふふ、よろしくてよ! バラの花のかおる寝袋で極楽気分を堪能させてあげますよ。もっとお褒めなさい!」
「ベネットちゃん、可愛い! スタイルも良いし、超美人!」
「うふふふふ、正直なローレンね。馬鹿でアホな子だと思っていたけど、少しは人を見る目があるようね。なかなか気に入ったわ!」
こうして、私とベネットは打ち解けあっていた。盛り上がる私達を尻目に、ハンナとステラが荷物のチェックを終えていた。彼女のバックの中身はほとんどが美容用品であり、冒険に使えそうなのは簡易シャワーと寝袋くらいなものだ。
「この子もやっぱり問題児ね。この洗顔フォームとリップは貰っておくけど……」
「私もこの香水とシャンプーはパクっておくか……」
冒険に全く関係のないものでも一方的に奪われていた。どれも彼女が高い金を払って買った高級品なのだ。それは、女の子(ローレンは除外される)なら誰でも手に入れたい夢のアイテムであった。たくさんあるので1つくらい無くなっても気付かないらしい。
「さてと、頂上決戦と行きましょうか? どちらがよりダンジョン内の冒険に適した荷物を用意したか、勝負よ!」
「受けて立ちましょう。あなたとは、いずれ決着を付けなければいけないと思っていました。ダイアナ理事長のお気に入りはいませんけど、学力トップクラスのあなたならば戦う価値もあります!」
ハンナとステラの一騎討ちが始まっていた。どちらがより役に立つ道具を持ってきたかで勝負が決まるのだ。本来ならば、どちらも公平な見方をできないはずだが、2人は意気投合して客観的な判断で勝負するようだ。
私とベネットは、その戦いを見守る事もなく、2人の微妙な世界に突入していた。ベネットが私を綺麗に化粧する代わりに、私は漫画を貸して友情を深め合っていた。私はドサクサに紛れて、ブラジャーを確認したり、オッパイタッチをしたが彼女は怒らなかった。
「ローレン、化粧をするとかなり可愛くなるわね。これは、可愛くしたくなっちゃうわ。素材は良いけど、手入れを怠り過ぎよ。せめて化粧の基本くらいは覚えておきなさい。まあ、この数日のうちに叩き込んであげるけど……」
「私もお礼に好きな漫画とかアニメを貸してあげるよ。グロリアスやらアリッサさんが私の部屋に置いていくから、無料で見る事ができるんだよ。この前は、ゲーム機本体も使わないからって置いてきたし……」
「ふふ、ガキ共が夢中で遊んでいるゲームや漫画、アニメか……。ちょっと興味があるわね。私並みに可愛くて綺麗なキャラクターがいるのかしら? アニメ製作委員会と連絡を取り合って、ヒロインのレベルを上げなきゃいけないわね!」
「たしかに、ベネットちゃんって可愛い上にオッパイも大きいもんね。ちょっと揉ませてよ!」
「ふふん、このナイスな体を目撃しなさい。どう、私の髪の色とブラジャーとパンティーが同じ色になったスペシャルコーディネイトよ。まさに、女神の領域に足を踏み入れたほどの美しさじゃないのかしら? 私の美貌をその目と記憶に焼き付けなさい!」
「うおおお、柔らかい! これは、ハンナちゃんより小ぶりだけど、十分な弾力と張りがあって病み付きになりますな。はう、手が止まらない!」
「ほっほっほ、ただオッパイが大きいだけではないのよ。肌の質や乳首の色なんかも全てにおいて計算され尽くしているわ。まさに、芸術的な黄金の体ってわけよ!」
ベネットは、褒めれば褒めるほど何でも触らせてくれた。男子が土下座して頼めば、キスやハグくらい簡単にさせてくれそうだ。彼女の将来が気になりつつも、その美しい体を堪能させてもらった。私の攻撃がことごとく効かないのは、同級生では初めてだった。
「アイツらは、放っておこう!」
「ええ、勝手に盛り上がっていれば良いわ」
私とベネットを無視して、ハンナとステラはお互いの荷物をチェックする。2人とも寝袋を持っているのは、冒険者としての基本だった。ダンジョン内では暗い場所も存在している。その為、電池さえいらない最新式のライトを持参していた。
「むう、引き分けか……」
「やるわね。後は、食料品をどれだけ持っているか……」
ハンナは、大量の缶詰やらカンパンなどを大量に購入していた。お腹が空いていたところにお菓子が出されたので、私とベネットは意見を言いつつ食べ始めた。
「ボリボリボリ、あなた、被災者なの? 思春期の女の子が缶詰とカンパンで数日間を生活するなんて、栄養バランスが悪いわよ」
「バリバリバリ、こんなんじゃ1時間も保たねえよ! もっと美味しいお菓子持ってこい!」
私とベネットがハムスターのように食べる姿を見て、ハンナは殺意を抱いていた。本人的には1週間ほど保つ食料も、私達育ち盛りからしてみたら全然足りない。特に、ベネットはマトモに成長すれば、ハンナを超えれるほどの逸材なのだ。
ダンジョン内で生活するとはいえ、彼女のスタイルを崩すような事はしたくない。それに、カンパンや缶詰ばかり食っていたら、すぐに飽きてしまう。やはりダンジョン内での狩猟をして、栄養バランスを整えないといけないのだ。
「ふふ、ローレンとベネットの2匹は、ダンジョン内の凶悪モンスターにやられて死んだ事にしておくわ♡」
ハンナは、味方に向けてはいけない技を使って攻撃してきた。ベネットは彼女自身の技を使って避けるが、私はオッパイタッチと引き換えに強力な一撃を喰らってしまった。ハンナのオッパイが弾んだと思った時には、私の体は空中をさまよっていた。
「ぐっは、お腹痛い! 腹パンされた!」
「ちっ、掠っただけか。一応、殺すつもりで攻撃したんだけど……。ベネットの方は、攻撃さえも当たらなかったの? タイミング的には完璧だったはずなのに……」
「ふふん、私を倒したいなら、直線的な攻撃では効果ありませんよ。風の力を纏った突撃技のようでしたけど、私の賢者魔法とは相性が悪いんですよ」
「ちっ、問題児だけあって、実力はかなりあるわね。ローレンも自分の能力を使い熟して来て、意外と実力者になっているし……。まあ、今回は腹パン程度で許してあげるわ」
ハンナは、ベネットを睨み付けていた。問題児ということは、実力がないという事ではない。ダイアナ理事長が簡単には制御できないと判断したので、私とベネットは問題児扱いされているのだ。潜在能力だけなら、ハンナやステラを軽く超えるかもしれないのだ。
「ゴキュゴキュゴキュ、プッハー。私達の実力を見て驚いたかしら?」
「おお、こんな所にコーヒー牛乳が! 他にも一杯バッグの中に入っているよ!」
私とベネットは、ステラの荷物を漁って、飲み物を無断で飲み始めた。本来は、ダンジョン内で確保できるかどうかも分からない貴重な水分だ。水はあっても、すぐに飲んでも大丈夫な水とは限らない。命の水ともいうべき飲み物を、私達はガブ飲みし始めた。
「おい、こら! 何、当然のように飲んでるんだ? そのコーヒー牛乳は、私の風呂上がりの一杯に飲む予定だったんだよ。テメーら、2人には飲ませる気なんて一切なかった。それを、勝手に私の荷物を漁って飲んでるだと!? マッパになる覚悟があるって事だよな?」
ステラは、本気でブチ切れていた。おそらく私にコーヒー牛乳を奪われたためので、カルシュウムを取れなかったのが原因だろう。ベネットは、ハンナと同じように避けようとするが、彼女の事を知り尽くしているステラには通用しなかった。
「くう、足が動かない……」
「そのまま跪きなさい。コーヒー牛乳を飲んだ罰、たっぷり味わいなさい!」
「くう、高貴な私がこんな屈辱的な格好をさせられるなんて……。それに、コーヒー牛乳を飲んだのは私ではないわ」
「ベネットは、可愛いお尻を突き出した状態で四つん這いになっているか……。尻パン程度で勘弁してやるか!」
「ああん、許してステラちゃん。居候だからって、ちょっと調子に乗っちゃただけなの。本当は、あなたの家に厄介になってる事を感謝しているのよ」
ベネットはステラによって、ちょっとセクシーな格好でお尻を叩かれていた。さっきまでお嬢様タイプの女の子だと思っていたのに、プライドをへし折られるようなドMなプレイだ。早く拘束を解いて欲しいのか、魅惑的なお尻を振り続けていた。
「さてと、私の風呂上がりのコーヒー牛乳を飲んだ罪は重い! ローレンには、ベネット以上のセクシーな格好になってもらうわ!」
「ええ、あれ以上!? ちょっと期待しちゃう♡」
「コイツ、変態なのか? なら、普通に放置プレイで良いや。罰を考えるのも面倒」
「ええ、そこはちゃんとけじめを付けないと! 早く私の両手両足を縛って、ゆっくりと服を脱がして行くんだ。できれば、マッパよりも上下お揃いのブラとパンティーを支給してください。
ハンナちゃんのブラとパンティーじゃあ、サイズが合わなくてブラチラしちゃうの。勝手にパクってるんだけど、なかなかサイズの合う良いブラが無くて……。パンティーもズレ落ちちゃってるし……」
「もう何も履かなくて良いじゃない。将来マニアみたいな男の子が興味を持ってくれると思うわ。たぶん……」
「そんな……。そこは、ブラとパンティーを同情心から支給してくれるシーンじゃないの?」
ステラは、完全に私を無視し始めていた。どうやら放置プレイと完全無視という悪の所業に徹するつもりらしい。その後、解放されたベネットが彼女の代わりに姉らしさを発揮していた。ブラはサイズが合わないのでノーブラになったが、パンティーはなんとか履けた。
「あなた、ダンジョンに来るなら勝負パンツくらい用意してきなさいよ。いつモンスターに襲われるのかも分からないのよ。股間だけは破けない仕様になっているけど、元々の装備がダメなら守ってはくれないのよ。あなただけでなく、私達にも危害が及ぶんだからね!」
「わあ、ダンジョンでも勝負パンツが必要なんだ。まあ、イケメンの男の子が助けてくれるかもしれないしね!」
こうして、私のパンティーがグレードアップして、私達4人の持ち物検査は終了した。ハンナの勝手な独断により、ハンナが一位という結果になった。二位がステラで、三位がベネット、勝負パンツさえ装備していなかった私がドベという結果に終わった。
「絶対に私の『ダンジョン飯』の知識が一番役に立つよ。この勝負は、ダンジョン内に持ち越しだね。いずれは、私の装備が一番役に立ったと全員が納得するはず……」
「はいはい、寝言は寝て言ってください。個人的に、ベネットちゃんは優秀かもしれない。簡易シャワーやシャンプーなんかは物凄く助かる。ダンジョン内に高級化粧品なんかを持ち込むのはどうかと思うけど……」
こうして、この4人でダンジョン内を旅する事になった。さっきから戦っていたスライムが私達の周りを取り囲む。弱いモンスターだが、ダンジョン飯で知った内容によると乾燥させるととても美味いらしい。コイツを捉えて、私が優秀である事を証明するのだ!