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となりの世界の郵便局  作者: 瀬戸内 凪
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それはまるで

冬の空は高く高く続いてゆく。

私はすぅと息を深く吸い込んだ。冷たく澄んだ空気が肺にたまった暖房でカサカサに乾いた空気を押し出してゆく。

きーこきーこ。

心地よい良い風を斬りながら呑気に壊れかけの自転車は街頭の間をすり抜けてゆく。街頭だけがぽつんとたち、少し寂しそうに光っている。

見慣れた街並みのはずなのに、人がひとりもいない真夜中というのはどうして胸が高まるのだろう。まるで、自分ひとりが知らない街に迷いこんでしまったような。

きーこきーこ。

私はふっと息をはいた。昼間なら白く濁る息も闇にのまれてかききえてしまった。

マフラーに顔を埋めると、すこし湿気ったかんじがして、あ、生きてるんだって思えた。こんな死んだように静かな街にいるけれど。

きーこきーこ。

壊れかけの自転車の音だけが響く。

冷たい空気を切り抜け、壊れかけの自転車は街も抜け丘を駆けあがる。

あー、お母さんにバレてなかったらいいけれど、帰るときも気付かれないようにドアを開けるときは注意しなきゃいけないな。

きつい坂道をのぼる時は坂のことを考えちゃいけない。何か他のことを考えていたら自然と早く着く。そういうものだ。

きーこきーこきー。

壊れかけの自転車は止まった。

私はその場に寝転がった。コートが汚れることなんて考えもしなかった。

これから始まるショーに心臓は鳴りやまなかった。まるで私の心臓の中がオーケストラの会場になったかのようだった。

冷たい空気が火照った体をさましてゆく。同時にさっきまで布団にくるまって閉じかけていた私のまぶたを無理やりこじ開けてゆく。


きらり。


一瞬光が現れて消えた。かと思うと、あたり一面、きらりと光る光一面になった。

冬の空は高く高く続いてゆく。

その高い高い所をたくさんの星が流れていった。

私はずっと見たかったその光景を目に焼き付けようと瞬きひとつしまいと見ていた。そのわりには、流しそうめんみたいだな、くらいの表現しかできない自分の語彙力のなさに腹がたった。

言葉に表しきれないそれは、私の心にすっと染み込んできた。

すこし目がちくっとしたのもきっとあまりにキレイなので目が耐えられなかったのだろう。

流しそうめんのようなそれは、すっと現れてすっと消えてゆく。

星の大きさなんて、この丘から見たら大して変わりはしないけれども、きっと一つひとつ違って、一つひとつが大事なかけがえのない光に見えた。

一瞬で命を燃やすそれを、せめて私だけは覚えておいてあげよう。

ひとつ一つ。


冬の真夜中2時、私が高校一年生のころのことだった。


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