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第8話 トカゲの仇返し

 第2層を進む俺たち一行は、未だ重苦しい空気に包まれていた。

 ただ一人を除いては。


「むほほほほ……」

「爺さん……」


 ジジイは鼻の下を伸ばし、アホ面のまま歩いている。

 ……ミールはそれに気付いたのか、恥ずかしそうに目を伏せた。

 そんなに恥ずかしいのなら、何故そんな格好をしているのか。

 何か、余程の理由があるのかもしれない。そう考えると、少し気になってくる。


 しかし、本人がどうしても話せないというのなら仕方ない。

 俺は気を取り直し、第2層の地図を記すため、新しい紙を取り出した。

 すると……俺がマッピング作業を行っているのを見て、ミールが話しかけてきた。


「あの……それ、地図ですよね? 貸して頂けませんか?」


 俺は少し不安だったが、言われたとおり彼女に紙を手渡す。

 すると……彼女はなにやら紙に手をかざし、魔法を唱える。


「これで、私が持って歩くだけで、道を記録する事が出来ます!」


 その言葉の通り、彼女が紙を持って歩いているだけで、まっさらな地図に道が記入されていく。


 ……どうやら、彼女を仲間にして大正解だったようだ。

 少々ゆとり仕様になってしまったような気もするが、便利であるに越した事は無い。

 どこから敵が襲ってくるかもわからないしな。


 ミールに地図を託し、道を進んで行くと、四角形の開けた部屋にたどり着いた。

 壁際には二対の鎧が飾られている。その反対側にも、同じように鎧が二つ。

 明らかに怪しい。と思っていたのだが……


「んー、なんだこの鎧?」

「あっ駄目!」


 ルカは反対側の鎧に触ってしまったようだ。

 すると……鎧は突然その身をガタガタと揺らし、ルカを見つめるように兜を傾けた。


「うわっ!?」


 ルカは慌てて背後に飛び退く。やはり罠だったようだ。動き出した鎧は、剣を構え、ゆっくりとこちらに近付いてくる。

 俺は緩慢な動作の鎧に、先手を取って剣を打ち付ける。鎧は大きくよろめき、かなりダメージを受けたようだ。


 すかさず、今度は素早く二度斬り付ける。傷ついた鎧は地に膝を着くと、ガシャン、と音を立ててバラバラに崩れ落ちた。

 普通の鎧に戻ったのだろうか。


 何故、鉄の鎧に対し、剣でダメージを与えられるのか?

 ……それは、ゲームではよくある事である。


「う、上になにかいます!」

「ケケケ! また間抜けな侵入者が来たようだな!」


 ミールが叫んだ通り、その甲高い声の主は、俺たちの頭上にいた。目玉に蝙蝠のような羽が生えた小型のモンスターだ。奴は素早く動き回り、残っている3つの鎧に順に触れていく。


「さあリビングアーマーよ、侵入者どもを始末しろ!」


 目玉モンスターの号令で、鎧たちは一斉に動き始める。これは少し面倒だな……

 だがその時、一体の鎧が、何故か仲間を攻撃し始めた。


「お、お前、何やってんだ!?」

「フハハ、馬鹿め! この俺様の変装を見破れなかったようだな!」


 なんだかよくわからないが、チャンスだ!


「はぁっ!」


 俺は反乱を起こした謎の鎧と協力し、残り二体の鎧を打ち倒す。


「ちっ、ここは撤退だ!」

「逃がすか! 疾風のダガー!」

「グェッ!!」


 ルカが勢いよくダガーを振るうと、風の刃が飛び去ろうとするモンスターを切り裂き、両断した。


「……別に武器の名前は叫ばなくてもいいんじゃぞ?」

「う、うるさいな! わかってるよ!」


 それで、鎧の正体は一体何者なのだろうか?

 なんとなく嫌な予感がするが……


「ククク、俺だよ!」

「げぇっ、お前は!? ゲラン……だっけ?」

「ゲラトーだ!! こないだは、よくも恥をかかせてくれたな!!」


 そこには、見覚えのあるトカゲ顔があった。

 なんでこいつがここに……


「気になっているようだから、特別に説明してやろう。実は、俺はこのダンジョンを隠れ家にしていてな……お前達がウロウロしているのを見かけたから、先回りしてここで待っていたんだ」


 随分面倒臭いことをするんだな……もし俺たちが途中で諦めて、そのまま来なかったらどうするつもりだったんだろうか。


「で、なんで今回は助けてくれたのさ?」

「フン、勘違いするな! 助けたわけでは無い! 貴様らを倒すのはこの俺だ! あんな連中にやられてもらっては困るからな!」


 なんかライバルキャラみたいな事を言っているが……俺は別に、コイツに対してそれ程の思い入れは無い。


「と、いう訳で、この俺が少しだけ道案内をしてやろう。この階層には詳しいからな!」

 どういう訳だ。俺としては、弱いリザードマンなんていらないんだが。


「トカゲさん、ありがとうございます!」

「おや、これは可憐なお嬢さん、キミのような子なら幾らでも助けてあげよう!」

「おいトカゲ! ミールに色目を使うんじゃない!!」


 なにやら、ミールが姫プレイのような事をしている……本人にはその気は無いようだが。

 それに、ジジイとトカゲにモテても仕方が無いな。



「おっと、ここはこっちだ。逆の方向には宝箱があるが、微妙なアイテムだから行かなくていいぜ」

「いや、宝箱があるなら寄りましょう」


 トカゲの反対を押し切り、宝箱を探しに行く。

 中身は、MP回復のポーションだ。


「ちょっと! 全然微妙じゃないじゃないの!!」

「は? MPとかどうでもいいだろ?」


 このトカゲはわかっていない。MPが数字として目に見えないからか、それとも奴がただ脳筋なだけか……

 HPポーションは最早、ルカが飲料水感覚で常飲しているが、MPポーションは絶対に無駄に飲まないように言ってある。

 必ず必要になる時が来るからだ。具体的に言えば、ボス戦用である。


「ケッ、そんなもんいらねーだろ……」


 何れにせよ、MPポーションが微妙などとんでもないことだ。このトカゲはわかっていない……


「そうだトカゲ、宝箱の位置、全部教えなさい」

「それが人に物を頼む態度か?」

「あら? 貴方、人だったの? それは初耳ですわね」

「てめぇ……やっぱり、さっきぶっ飛ばしておけば良かったぜ……」


 どうにもこのトカゲとは気が合わないな。

 さっさと次の階層に進んでおさらばしたい。


「あ、あのっ、敵が来ます!」

「え、何もいなくない?」


 ミールの言葉に、皆周囲を見渡すが、敵の姿は見えない。

 だが、遠くに足音は聞こえる。何かが迫ってきていることは確かなようだ。


「チッ、コボルトの群れか。気をつけろ、結構な数がいるぜ」

「わかってますわ!」


 現れたのは、犬のような頭を持つ獣人、コボルトの群れだ。

 その数は8体。かなりの数だ。


「奴らは、一体一体はそれほど強くない。各個撃破していくぞ」

「……わかっていますわ。一々命令しないでくださるかしら?」


 ゲラトーはコボルトの前に立ち、攻撃をサーベルで受け止めた。

 俺はその隙を付いて、敵を側面から斬り付ける。


 まず一体。仲間がやられ、奴らは僅かにだが動揺している。

 俺はそれを見逃さず、魔力で剣に炎を纏わせ、周囲のコボルトたちを威嚇するように一度振るう。


「今!」

「わかってんだよ!」


 コボルトが炎に怯んだのを見逃さず、ゲラトーは俺を飛び越え、敵の群れに突っ込む。

 そして着地と共に一体、返す刀でさらに一体のコボルトを切り倒す。


「出過ぎですわよ!」

「うるせえ! 指図すんな!」


 一体、また一体と、俺たちは競うように敵を倒していき、すぐに全てのコボルトを倒しきった。


「フォッフォッフォ、仲が良いのう?」

「よくねえよクソジジイ! ぶっ殺すぞ!」


 全くだ。……おや、アイテムがやたらと落ちている。

 背後を見ると、ミールがにっこりと笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「あの、使っておきました! 例の魔法!」


 おお、例のアイテムを落としやすくする魔法か! これは気が利くな。

 どこかのトカゲ野郎とは大違いだ。


 ……だが残念ながら、余りたいした物は落ちていないな。

 気になるのは、この巻物くらいか。


「もういいか? さっさと行くぜ」


 ゲラトーは早くしろ、といった風に手招きをしている。

 全く、せっかちな奴だ。仕方ない、幾つかのアイテムを袋に仕舞いこみ、その場を後にする。



 そうして、再び彼の指示通りに歩いていくと、階段の前へと辿り着いた。


「さて、着いたぜ。3層には、超おっかねえモンスターが居るから気をつけろよ」


 超おっかないモンスターとは一体……?

 まあ、いずれにせよ、コイツのお陰で探索が捗ったのは事実だ。

 少しくらいは感謝してやろうか……


「おい! いいか、てめえをぶっ殺すのは俺だからな!」

「ふん、出来もしない事を口に出すと、後で後悔するんじゃないかしら? あなたこそ、ダンジョンで野たれ死ぬんじゃないですわよ?」


「なんなんだあいつら?」

「よくわからん連中じゃのう」


 ……やはりこのクソトカゲとは気が合わないな。さっさと行こう。

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