第2話 オーク砦の隠し穴
「ぐおおおお!」
俺は、オークのボスを倒していた。
因みに、これで23体目だ。
どうやら、このボスは部屋を出ると復活するらしい。
なので、何回も出入りを繰り返し、何度も倒し続けていた。
勿論、目的はレアドロップだ。
「もう、もういいでしょ……」
「ええ。どうやらこいつは何もドロップしないみたいね。
いや、でももしかしたら……やっぱり、もう少し……」
ルカは無言でその場に三角座りしてしまった。
仕方ない、流石にそろそろ終わらせるか……
と、普通なら思うところだが、俺はその限りでは無い。
とりあえずもう一度……と、思ったところ、再び神の声が頭に響いた。
「フォフォフォ、全く予想以上じゃな。素晴らしい限りじゃ」
神は朗らかに笑っている。だが、俺は納得が行かなかった。
「ちょっと、どういうことですの!? このゲーム全然手ごたえがありませんわ!」
「フォフォフォ、すまんのう。まぁ、これはまだ序盤じゃ。その内にもっと強い敵がでてくるぞい。
それに、そなたと同じようなプレイヤーキャラともいずれ出会う筈じゃ」
何……! プレイヤーキャラだと! それはつまり、俺のような他の世界から来た者達の事か。
そういう事は早く言って欲しい。ようやくモチベーションが上がってきた。
「それと、がんばっておるそなたに、一つアドバイスをしてやろうかの。
アナライズの呪文を使えば、敵が落とすアイテムがわかるぞ」
そ、そんなものがあったのか! そういえば、魔法はまだ一度も使ってなかった。
早速部屋を一度出て、ボスオークと再び戦う。
ルカが白い目で見てくるが、最早気にしない。
ボスオークが現れた! ので、早速呪文を唱えてみる。
「アナライズ!」
すると……オークの能力とドロップ品が頭に浮かび上がる。
なるほど、こいつもオークの魔石を落とすらしい。だが、落とすアイテムはそれだけのようだ。
残念ながら確率は表示されないが、まぁその方がやり応えがあって言いだろう。
情報は調べたので、ボスオークをさっさと倒す。
「まったく、雑魚ばっかりでつまらないですわね」
「フォフォ、お嬢様キャラが板についてきたようじゃな?」
そ、それは……
「フォフォフォフォ……」
神の声は聞こえなくなった。何故最後にあんな事を言うのか。嫌がらせとしか思えない……
気を取り直し、砦を探索する。だが、たいした物は見つからなかった。
所詮は序盤のダンジョンか。まぁ一応、裏口からも入ってみるか。
ルカに頼み、裏口の鍵を開けてもらう。しかし、この娘もよく愛想を尽かさず探索に付き合ってくれたものだ。
生まれる世界が違えば、きっといいゲーマーになれただろう。
「よしっ、開いたよ」
ルカは慣れた手つきで自作の鍵を挿し、容易く扉を開ける。
素晴らしい。良い盗賊は冒険には必須だ。やはり、彼女と出会った事は幸運だった。
さて、中は……ん、階段がある。これは……どうやら洞窟になっているようだ。
「あれ~、おっかしいな……砦の中には繋がってなかったんだ」
元々この裏口から砦に侵入しようとしていたルカは残念そうに呟く。
だが、俺は新しい探索ポイントが増えて好都合だ。
早速入ってみよう……
流石に、洞窟の中は薄暗い。俺は砦で見つけた松明を取り出す。
すると、なんと松明には勝手に火が灯った。どうやらそういう仕様のようだ。
その灯りを頼りに、周囲を見回してみる。
……どうやら、狭い一本道がかなり先のほうまで続いているようだ。
俺は松明を左手に持ちなおし、狭い洞窟内での敵襲にそなえ、右手に剣を構えた状態で進む。
「ひええ……ボク、こういうとこ苦手なんだよな……」
「盗賊ならこのくらい我慢しなさい。こういう所にこそお宝が隠されている物なんだから」
「そ、そんなこと言ったって……ひゃっ!?」
ルカが突然悲鳴を上げる。どうやら何かに躓いたようだ。
松明を近づけて足元を確認してみると、それは人間の頭蓋骨だった。
「ひゃああああ!?」
ルカは腰を抜かし、がたがたと震えている。
すると、彼女の悲鳴を聞きつけたのか、目の前の道から人影がこちらへと向かってきた。
「ひ、人……! よ、よか……!?」
人影が俺たちの目の前まで近付くと、松明の灯りによってその姿があらわになった。
皮製の鎧を着込み、右手には剣が握られている……だが、首が無い。
さらに、剣を持つその手は白骨化している。ルカはその異形の姿を見て、またも絶叫した。
「で、でたーっ!!! うわあああああ!!」
ルカが素早く俺の背後に隠れると、そいつは彼女の足元に落ちていた頭蓋骨を拾い上げ、乱暴に自らの首元に押し付けた。間違いない、こいつはスケルトンだ。自らの頭を取り戻したスケルトンは、よろめきながらこちらに向かって剣を振るう。
俺は咄嗟に自らの剣で攻撃を受け止め、鍔迫り合いの状態になる。が、骨だけの体とは思えぬほど、その力は強い。
「ひ、ひええ……早く倒してよ!」
「それなら少し離れて!」
「やだー!!」
くそっ、ルカが俺の背後にぴったりとしがみ付いているせいで、攻撃を回避する事ができない。
仕方がない、俺はスケルトンの体を蹴りつけ、よろめいた隙を突いてそのまま剣で押し切った。
スケルトンの鎧が裂け、真っ白い胸骨が露わになる。
そのまま、俺はさらなる追撃を加え、スケルトンの背骨を両断するように切り裂く。
「や、やった……!?」
スケルトンの上半身が地面に落下すると、少し遅れてその下半身もその場に倒れた。
「ふー、まったく、ビビらせやがって! 流石サマナ……」
その時、ルカの足首をスケルトンの腕が掴んだ。白骨の冷たい感触に気付き、ルカは声にならない声で絶叫する。
怯えるままにその手を何度も蹴りつけ、ルカは何とか解放されるも、スケルトンの方は体が元通りに復活してしまったようだ。
「こ、これって倒せないんじゃ……」
多分、こいつを倒すには条件があるのだろう。なんとなく予想はつくが……
恐らく、今は倒せない。ということは……
「逃げますわよ!」
「りょ、了解!!」
俺はスケルトンを蹴り飛ばし、ルカと共にその場から走り去る。
幸い、スケルトンの歩みは早くは無い。このまま逃げててしまおう。
だが、ある程度距離が付いたと思ったところで背後を確認すると、なんと、何時の間にかスケルトンがかなり近い距離にいる。
しかし、その歩みは先程と同じ程度の速度だ。確実に振り切れている筈。
それなのに何故……理由はわからないが、とにかく、ルカには背後を振り返らないように言い、ひたすら走り続ける。
すると、今度は何かが落下するような音が聞こえた。俺は走りながら、ちらりと背後を確認する。
すると、なんとそこには、スケルトンの頭蓋だけが落ちているではないか。
それに向かって体の方も背後からずるずると吸い寄せられてくる。
それらが合体し、何事もなかったかのように再び歩き始める……
なんということだ……こうやって付いてきていたのか!
「ね、ねえ……もう後ろ見てもいい?」
「駄目!!」
こんなものをこいつが見たらパニックに陥るのは間違いない。
絶対に後ろを振り向かないように釘を刺し、ひたすら走り続ける。
やがて、目の前に仄かな光が見え始めた……
「で、出口……!」
「やった、出られる!!」
ついに、俺たちは洞窟の出口に辿り着いた。
だが、スケルトンはしつこく外にまで付いてきている。
「も、もう追ってきてないよね……ぎゃああああ!!!」
ルカはスケルトンの姿を見て、パニックに陥ってしまう。
どうするか……そう思っていた時、空から僅かな光が注いだ。
太陽の光だ! スケルトンの全身からは煙が噴出し、初めて苦しむ様子を見せる。
「今ですわ!!」
俺は華麗な剣捌きでスケルトンを切り裂く。すると、その骨の身体はバラバラ砕け、消滅した。
なんとか倒す事に成功したようだ。
「うわああああああ!!」
「落ち着きなさい!!」
それに気付かず、未だパニック状態のルカを一喝し、正気に戻す。
彼女はようやく安堵した様子で、その場にへたり込んだ。
「はぁ……助かった……あ! あれ見て!」
空が明け始め、周囲の様子がより鮮明になると、近くに町が見えた。
どうやら、危険を冒してあの洞窟を通ったのは、正解だったようだ……