表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/25

第20話 友情パワー(物理)

 神経を研ぎ澄まし、改めて城内の気配と魔力を探っていくと、ある一点にオーク達の存在が集中しているのを感じた。

 周辺に気配を感じなかったのは、城内の殆どのオークが、ここに集まっていたからだろう。

 それならば、目指すべき場所は一つだ。


 奴らが居るのはかなり高い位置、恐らく最上階だ。

 だが一箇所に集まって、何を行っているのだろうか?

 考えていても仕方が無い。僅かに感じる気配を辿りながら、広い城内をひたすら走っていく。


 そして三つ目の階段を上ろうとしたその時、何者かが行く手を阻んできた。


「俺は暴虐のヴィルグ! 言わなくてもわかるだろうが、四天王の一人よ!

 ゲヘヘヘ、お嬢ちゃん達、俺と遊んでくれや……!」


 成る程、やっといかにもな感じの奴が出てきたな!

 俺は槍を斜めに構え、相手をじっと見据える。


「ゲヘヘ、おいおい、なんだよその格好は、誘ってんのか……

 って、てめぇ! ティルじゃねぇか!?」

「……? 誰だオマエは!」


 ヴィルグはティルの姿を見て、異様なほどに怯えている。

 いや、その理由は大体想像がつくが……


「なんでてめぇが侵入者と一緒にいるんだ!」

「簡単な事だぞ! GODはわりといい奴だが、さまなーの方がもっといい奴だったからだ!」


「……クソッ! だから俺は言ったんだ! あんなわけわからん奴制御できる筈ないって……!」


 どうやら、こいつも相当酷い目に逢わされたらしいな。

 ならば……


「ティル! やっておしまいなさい!」

「アイアイサー!」


「う、うわああああ! く、来るなっ! うぎゃぁっ!」

 よしっ! これで先に進めるぞ。


 ……いや待て、何かがおかしい。何故こいつはわざわざ一人でやって来たのか?

 そして特に策も無く、あっさりとやられるとは。これは明らかにおかしい……


「サマナ! 聞こえる!?」


 俺の思案を遮るように、頭の中に聞き覚えのある声が響く。


「ルカ!? どうして……」

「ギルドの魔術師に協力してもらって、念話っていうので語りかけてるんだけど……」

「さまなー、どうした?」


 なるほど、電話みたいなものだろうか?

 ティルにはルカの声が聞こえていないらしい。特定の相手だけに聞こえる仕組みなのだろうか。

 念話についても気になるが、ルカはそれよりも、急いで伝えたい事があるようだ。


「大変なんだよ! セレスの洗脳を解く事はできたんだけど……

 どうやら、ギルドの女騎士とセレスは別人らしいんだ!」

「なんですって!?」

「オーク要塞で捕らわれた女騎士の名前は、セレスティーナ・クライスハート。

 彼女の種族はエルフ! セレスは人間だ! 二人は、全くの別人なんだよ!」


 なんだと……それでは、人間違いをしてしまったという事か?

 いや、それは正しくないだろう。恐らく、これも奴の思惑通りだ。俺達はまんまと騙され、別人を連れ帰ってしまったわけだ。


 だが、そうまでしてセレスティーナをこちらに渡したくないのは何故だろう?

 彼女を捕らえた事には、奴らにとってなにか重大な理由があるはず。

 そして、わざわざ別人を用意したり、部下を少しずつ送り込むのは……


「時間稼ぎ……!」

「え?」

「不味い……早くセレスティーナを助けに行かないと!」


 目的はわからないが、奴らは時間稼ぎをしている!

 そうとわかった以上、急がなければならない。


「ルカ! わたくし達は、GODを倒しに行きますわ!」

「ええ!? 大丈夫なの? ギルドからの援軍を待ったほうがいいんじゃ……」


「急がないと大変な事になりますわ! 奴らは、セレスティーナを使って何かをやろうとしている!

 全てはそのための時間稼ぎだったのよ!」

「そ、そうなの!? でも、気をつけてね! 出来るだけ急いでそっちに行くから!」


 奴らの気配は、既にはっきりと感じる。最上階までは、それ程遠くは無い筈……

 俺は全力で城内を駆けるが、十数体のオークがいきなり目の前に現れ、行く手を阻む。

 あからさまな足止め……こちらが意図に気付いた事を知っているのか?


「ティル!」

「あいあい!」


 ティルは勢いよくオークの群れに飛び掛っていく。

 その勢いのままに素早く大剣を振るい、ニ体のオークの首を刎ねるが、他の者達は皆、ティルの攻撃をかわし、距離を取って散開する。そして全員が同時に盾を構え、じっと待ち構え続ける……

 誰一人、反撃に移る気配はない。奴らはただ、守りだけに専念しているようだ。


「チェストー!!」

「ぐっ……!」


 巨大な鉄塊の衝撃を全身で耐え、オークは素早く背後に飛び退く。

 こいつら、今までの連中とは明らかに動きが違う。間違いなく精鋭だろう。

 それだけでは無い。このまま守りにだけ集中されたら、幾らティルでも、殲滅するにはかなりの時間を要するだろう。


「はぁっ!」

「ふん!」


 俺は側面から一体のオークに対し奇襲をかけるが、すぐさま別の二体が目の前に立ち塞がり盾を構え、壁を作る。

 槍を受け止めたオーク達は、決して反撃には移らず、じりじりと後退していく。

 くそっ、これは非常に不味い……


「よし! さまなー、ここはあたしに任せろ!」

「な、なにを!? うわっ!?」


 ティルはそう言うと、俺の胸倉を掴み、物凄い勢いで前方に投げつけた。

 空中に放り投げられた俺は、放物線を描きながら宙を舞い、やがて激しく地面に打ち付けられる。


「あいたっ!!」

「ば、馬鹿な……」

 

 ……とんでもなく乱暴なやり方だが、これでオークの群れを飛び越える事ができたようだ。


「に、逃がすな! 捕まえろ!」

「させるかーっ!!」

「ぐわぁっ!!」


 オーク達が俺の方に気を取られている隙に、ティルはその背に斬りかかる。

 彼らは皆大きく動揺し、防御陣形は崩れ始めているようだ。

 

「ありがとうティル!」

「友達ならあたりまえだ!」


 ざわめくオーク達をよそに、ティルはこちらへ向かって親指を立てる。

 俺もそれに応え、最上階へ続く階段へ向かって駆けて行く。


「くそっ! 奴をGODの元へ行かせるな!」

「で、ですが……あの怪物が……」

「う、うろたえるな! 戦え!」



 背後からオーク達の悲鳴が聞こえたが、俺は振り返らず走り続ける。

 そして最後の大階段を駆け上り、ついに最上階へと辿り着いた。


 眼前には、仄かな灯りに照らされたホールのような空間が広がっていた。

 周囲には無数のオークが立ち並び、中央の祭壇上には巨大な水晶のような物体が浮かぶ。


 ……よく眼を凝らして見ると、水晶の中には、全裸の女性が閉じ込められているようだ。

 間違いなく、彼女がセレスティーナだろう。

 その真下には、白いローブを纏った小柄なオークと、全身を黒衣で覆う謎の人物が立っている。その顔はフードで覆い隠され、細かい表情を伺い知る事は出来ない。


 黒衣の人物はこちらへ向き直ると、ゆっくりと口を開いた。


「来たか。だが、少しばかり遅かったな……既に準備は整った」

「その人を使って何をするつもりなのかしら?」

「それは、今に分かる事だ」


 少なくとも、スケベな事をする感じではなさそうだな。

 俺は槍を構え、黒衣の人物の元へ駆ける。

 だが、その前に二つの影が立ちはだかった。


「その槍、返してもらおうか」

「グヘヘヘ、行かせると思うか?」


「貴方達は……死にそうなオークディンと、乱暴なビッグ……だっけ?」


「神槍のオーディンと!」

「暴虐のヴィルグだ!」


 ……ヴィルグは確かに死んだ筈だ。それに、オーディンも槍を新調している。

 何れにせよ、こいつらを倒さねば先には進め無さそうだ。

 俺が臨戦態勢を取るとほぼ同時に、ヴィルグは先程は持っていなかった大斧をこちらへ向け、その横でオーディンも槍を構える。


 だがその時! 沈黙を破るかのように、俺の背後から何かが勢いよく飛来し、オーディンとヴィルグの横を一瞬で通り過ぎた。


「ぐはっ!?」

「がはぁっ……!」


 二人が同時に倒れ付すと、その背後に着地した白い影は、素早く俺の方へ振り向く。


「さまなー!! 待ったか!?」

「いえ、ベストタイミングですわ!」


 突如現れたティルの姿を、黒衣の人物は真っ直ぐ見据える。

 彼女もその視線に気付いたようだ。


「オマエは、GOD!」


 ティルは驚いた様子で声を上げた。

 やはり、あの人物がGODで間違いないようだ。

 彼は静かに、感情の篭っていない声で語る。


「ティルよ、その女を殺せ。そうすれば、好きなだけ褒美をやろう」

「うーん……」


 なんだと……あいつ、なんて事を言うんだ……!?

 ティルは眼を閉じ、なにやら難しい顔をしている。

 まさか……これは不味いのでは……

 

 だが、俺の不安を吹き飛ばすかのように、ティルは平然と言い放つ。


「GOD、オマエ……頭わるいのか? さまなーはあたしの友達なんだぞ。

 そんなことできるわけ無いだろ」

「ティル……!」


「ニンジンが欲しいのではないのか?」

「友情はニンジンの数じゃない! 時給三本のニンジンより、友達と食べる一本のニンジンの方が美味いんだぞ!」


 俺は、ティルを疑っていた事を恥じた。頭は少々残念だが、彼女は間違いなく俺の仲間だ。

 だが、その言葉を受けても、GODは別段驚いたふうも無く、超然とした態度でこちらを見つめている。


「ふむ……まさか、その魔獣がそこまで人に懐くとはな……」

「ふーんだ! わたくし達はマブダチなのですわ! さあ行きますわよ、ティル!」

「よしきた!」


 ティルは脱兎の如く跳躍し、敵の元へ駆け抜ける。


「くらえ!!」


 だがGODの目の前に到達した瞬間、その足元に魔方陣が浮かび上がる。


「ん、なんだこれ?」

「お前は手に余る。消えてもらおう」


 魔方陣より放たれた光と共に、ティルの姿はその場から消え去った。

 一体何が起きたのだろうか?


「ティルを何処へやった!?」

「二度と戻っては来れぬ場所だ」


 な、なんだと……!?


 ――――


「……うーん、どこだここは!? あっ! ニンジン畑だ! しかもニンジン復活してるぞ! やったー!」

 カリカリカリカリカリカリカリ……


 ――――


 遠くにティルの気配を感じた。どうやら遥か彼方に飛ばされたわけではなく、要塞のすぐ外に居るようだ。それによって、彼女の居場所はなんとなく想像がついた。だが、これは参ったな……


「まさか、ニンジン畑……」

「その通りだ。ところで、ニンジンより友情ではなかったのか?」

「ぐうの音も出ませんわね……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ