表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/25

第1話 ゲームは1日24時間

「つまり、俺は、金髪ツインテール美少女になったと」

「いや、金髪ツインテール美少女お嬢様じゃな」


 俺は正直、動揺を隠せなかった。誰がこんな体にしてくれと頼んだというのだ。


「いやー、すまんのう。これはわしの趣味じゃ。

 わしにとって完璧な肉体とは、金髪ツインテール美少女お嬢様なのじゃ」


 なんてことだ……事前に利用規約を読まないとこういう事になるのか……

 だが、まあ……問題は無い。俺はキャラクターは常に性能で選ぶ。

 性能さえ最強ならなんでも構わん。


「おっと、そうじゃ。この世界にはひとつだけルールがあるのじゃ。

 それはな、《ロールプレイをしない者は死ぬ》というものじゃ」


「なんだと……?」


 それじゃ、つまり何だ? この俺に、金髪ツインテール美少女お嬢様、として振舞えと?


「その通り……そなたは今から、最強の金髪美少女剣士、サマナじゃ」

「ふ、ふざけ……」


 その時、俺の全身に激しい電流が流れた。そ、そうか……キャラクターを守らないと、こうなるというのか! 仕方ない……


「し、仕方ありませんわね」

「グッド」


 俺は怒りを必死に押し殺した。確かに、俺は生き返らせてもらった身だ。

 向こうがそれを望むのなら、従わなければならないだろう……

 だが、明らかに中身が男なネカマキャラ達を、今まで散々馬鹿にしてきたこの俺が、まさかここに来て……所謂ネカマプレイを強制される事になろうとは……


「では行け! サマナよ!」

「わかっ……わかりましたわ!!」


 それきり、神の声は聞こえなくなってしまった。

 最早、覚悟を決めるしかないようだ。俺は静かに歩き始めた……

 

 流石、ゲームに近いというだけあり、水や食料が無くても平気なようだ。

 しばらく当ても無く歩き続けていると、なにやら砦のような建物が目に入った。

 もしやダンジョンか? そう思い、俺はそれを眺めていた。


 すると……近くの草むらから何者かが飛び出し、こちらに声を掛けてきた。


「や、もしかして、キミも冒険者?」

「おれ……わたくしは、サマナ。旅の途中にこの砦を見つけたのですわ」


 現れたのは、キャスケット帽を被った小柄な少女だ。

 露出が多い身軽な服装の上に、丈の短い簡素な外套を羽織り、腰周りには短刀や鍵束をぶら下げている事から……恐らく盗賊だろう。わかりやすくて助かる。

 彼女もまぁまぁ美少女と言える容姿だが、俺ほどでは無いな。ははっ……


 ……それにしても、お嬢様言葉で話すのは全く慣れない。

 が、仕方無い。なにせ、今一瞬俺と言いかけただけで結構ビリッときたくらいだ。

 完全に男言葉で挨拶していたら、多分また死んでいただろう。


「ボクはシーフのルカ! この砦にあるお宝を狙ってるんだけど、オーク達の監視が厳しくて……」


 僅かに赤みがかった薄茶の髪をふわりと風に浮かせ、少女は砦の方を指差す。

 成る程、ボクっ娘か。だが、そんなことはどうでもいい。

 今の言葉で、この砦にいる魔物はオークで、お宝がある、という事がわかった。会話から情報を集めるのは基本中の基本だ。そして少女は恐らく、協力して砦のお宝を手に入れようと提案してくるだろう。


「ねぇキミさ、もし腕に自信があるんだったら、ボクと組まない? お宝は山分けでいいからさ」


 予想通り、彼女はこう言って来た。まあ、断る理由も無い。


「わかりました! では、フレンド申請送ってもよろしいですか?」

「……え? ふれ……なに?」


 しまった、何時ものクセが出てしまった。こうやって他者と協力する場合、アイテムを持ち逃げされる危険があるので、俺はまず相手とフレンドになっておく。

 そうすることで、たとえ逃げられても居場所を特定できるからだ。


「えっと、友達になりたいってこと? いいよ!」

「ありがとう!」

「うんっ、よろしく!」


 彼女は、定型分のような返事にも元気に応えてくれた。

 いい奴そうなので、多分、裏切るような事は無いだろう。

 一応警戒はしておくが。


「さって……それじゃ、どうやってこの砦に入る?

 ボクは裏口から入るのがいいと思うんだけど。

 鍵が掛かってるけど、スペアキーは用意してあるから大丈夫」


「正面から入りましょう」


 俺は平然と言い放つ。だがそれは当然のこと。

 まずは正面から入って経験値を稼がなければ。

 そして、一通り調べたら今度は裏口から入って、アイテムの取りこぼしを確認する。

 ……取り敢えずはわかりやすい方の道から攻める。これも基本だ。


「き、キミ正気……!?」

「勿論ですわ。さ、行きましょう!」


 怯えるルカを無理矢理引き連れ、砦の正面の入り口から堂々と侵入する。

 当然、そこには3体の豚のような顔をした獣人、オーク達が待ち構えていた。


「あ、あわわわ……」


 さて、初戦闘だ。これでこのゲームの難易度が大体わかる筈。

 俺は剣を抜き、素早くオークを斬り付ける。

 すると……こちらの二倍以上の身長があるオークはあっさりと倒れ付し、消滅した。


「す、すげー……」


 待て……このゲームデバックが足りていないのではないか!?

 強ければいいってもんじゃないぞ!! 聞いているか、神!!


「グオオオオ!!」

「あ、危ない!」


 背後からもう一体のオークが襲ってくるが、それもあっさりと切り伏せる。

 つ、つまらん……そうだ、それなら、縛りプレイをすればいい!

 俺は武器を外し、素手でオークを殴りつける。


「グオアアアア!!」


 オークは音を立てて、その場に倒れた。


「す、すごいよサマナ! やっぱりキミと組んでよかったかも!」


 大喜びのルカに対し、俺は絶望していた。

 ひょっとして、これはとんでもないクソゲーなのでは……?

 これでは唯の、最強のネカマが滅茶苦茶やるRPGでしかない……


 すると、倒れたオークが何かを落とした。

 そのアイテムを見て、ルカはなにやら興奮している。


「こ、これは! オーク族が隠し持っているという、オークの魔石!」


 な、なんだって、それってつまり、レアドロップか!!

 ルカ曰く、オークの魔石は超貴重品であり、滅多に見かける事の無いアイテムなのだと言う。

 それを聞いた俺は、コレクター魂に火がついた。


「な、なにやってんの……?」

「エンカウントを待っているのですわ」


 俺は何度も砦の入り口付近を往復した。

 すると、読みどおり、再びオークの群れが現れる。

 当然の様に瞬殺し、ドロップを確認する。しかし、何も無い。

 俺は再び同じ場所を往復する。


「あ、あの……」

「なんですの?」

「まさか、もう一個狙ってる?」


 俺は無言で頷く。

 それに対し、ルカは飛び上がって驚いた。


「むむむ、無茶だよ!!」

「いいえ、別にこの位いつもやってる事ですわ。それに、他のドロップも見たいですしね」


 この間にもオークが現れ、流れ作業の様に瞬殺する。

 今度は何か落とした。棍棒か。奴らの武器を意識した物だろう。

 もう一つあるな。体力回復のポーションか……まぁ、序盤らしいドロップだな。



 これを何度も繰り返し、ようやく俺は二つ目の魔石を手に入れた。


「ね、落としたでしょう?」

「いや、もう外暗くなって来ちゃったよ!? 一体何匹オーク倒したんだよ……」


 170匹だ。まあレアドロップにしては大した数では無いだろう。

 それに、既に夜だがゲーム世界というだけあり、完全な真っ暗ではない。

 常に周囲を見渡せる程度の薄明かりがあるのだ。これなら永遠に狩りができる……

 俺は、ルカにある提案をした。


「もう一個狙ってもいいですの?」

「だ、だ、駄目!!!」


 ルカは全力で拒否してきた。

 仕方がないので、砦の探索に戻ることにする……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ