第1話 ゲームは1日24時間
「つまり、俺は、金髪ツインテール美少女になったと」
「いや、金髪ツインテール美少女お嬢様じゃな」
俺は正直、動揺を隠せなかった。誰がこんな体にしてくれと頼んだというのだ。
「いやー、すまんのう。これはわしの趣味じゃ。
わしにとって完璧な肉体とは、金髪ツインテール美少女お嬢様なのじゃ」
なんてことだ……事前に利用規約を読まないとこういう事になるのか……
だが、まあ……問題は無い。俺はキャラクターは常に性能で選ぶ。
性能さえ最強ならなんでも構わん。
「おっと、そうじゃ。この世界にはひとつだけルールがあるのじゃ。
それはな、《ロールプレイをしない者は死ぬ》というものじゃ」
「なんだと……?」
それじゃ、つまり何だ? この俺に、金髪ツインテール美少女お嬢様、として振舞えと?
「その通り……そなたは今から、最強の金髪美少女剣士、サマナじゃ」
「ふ、ふざけ……」
その時、俺の全身に激しい電流が流れた。そ、そうか……キャラクターを守らないと、こうなるというのか! 仕方ない……
「し、仕方ありませんわね」
「グッド」
俺は怒りを必死に押し殺した。確かに、俺は生き返らせてもらった身だ。
向こうがそれを望むのなら、従わなければならないだろう……
だが、明らかに中身が男なネカマキャラ達を、今まで散々馬鹿にしてきたこの俺が、まさかここに来て……所謂ネカマプレイを強制される事になろうとは……
「では行け! サマナよ!」
「わかっ……わかりましたわ!!」
それきり、神の声は聞こえなくなってしまった。
最早、覚悟を決めるしかないようだ。俺は静かに歩き始めた……
流石、ゲームに近いというだけあり、水や食料が無くても平気なようだ。
しばらく当ても無く歩き続けていると、なにやら砦のような建物が目に入った。
もしやダンジョンか? そう思い、俺はそれを眺めていた。
すると……近くの草むらから何者かが飛び出し、こちらに声を掛けてきた。
「や、もしかして、キミも冒険者?」
「おれ……わたくしは、サマナ。旅の途中にこの砦を見つけたのですわ」
現れたのは、キャスケット帽を被った小柄な少女だ。
露出が多い身軽な服装の上に、丈の短い簡素な外套を羽織り、腰周りには短刀や鍵束をぶら下げている事から……恐らく盗賊だろう。わかりやすくて助かる。
彼女もまぁまぁ美少女と言える容姿だが、俺ほどでは無いな。ははっ……
……それにしても、お嬢様言葉で話すのは全く慣れない。
が、仕方無い。なにせ、今一瞬俺と言いかけただけで結構ビリッときたくらいだ。
完全に男言葉で挨拶していたら、多分また死んでいただろう。
「ボクはシーフのルカ! この砦にあるお宝を狙ってるんだけど、オーク達の監視が厳しくて……」
僅かに赤みがかった薄茶の髪をふわりと風に浮かせ、少女は砦の方を指差す。
成る程、ボクっ娘か。だが、そんなことはどうでもいい。
今の言葉で、この砦にいる魔物はオークで、お宝がある、という事がわかった。会話から情報を集めるのは基本中の基本だ。そして少女は恐らく、協力して砦のお宝を手に入れようと提案してくるだろう。
「ねぇキミさ、もし腕に自信があるんだったら、ボクと組まない? お宝は山分けでいいからさ」
予想通り、彼女はこう言って来た。まあ、断る理由も無い。
「わかりました! では、フレンド申請送ってもよろしいですか?」
「……え? ふれ……なに?」
しまった、何時ものクセが出てしまった。こうやって他者と協力する場合、アイテムを持ち逃げされる危険があるので、俺はまず相手とフレンドになっておく。
そうすることで、たとえ逃げられても居場所を特定できるからだ。
「えっと、友達になりたいってこと? いいよ!」
「ありがとう!」
「うんっ、よろしく!」
彼女は、定型分のような返事にも元気に応えてくれた。
いい奴そうなので、多分、裏切るような事は無いだろう。
一応警戒はしておくが。
「さって……それじゃ、どうやってこの砦に入る?
ボクは裏口から入るのがいいと思うんだけど。
鍵が掛かってるけど、スペアキーは用意してあるから大丈夫」
「正面から入りましょう」
俺は平然と言い放つ。だがそれは当然のこと。
まずは正面から入って経験値を稼がなければ。
そして、一通り調べたら今度は裏口から入って、アイテムの取りこぼしを確認する。
……取り敢えずはわかりやすい方の道から攻める。これも基本だ。
「き、キミ正気……!?」
「勿論ですわ。さ、行きましょう!」
怯えるルカを無理矢理引き連れ、砦の正面の入り口から堂々と侵入する。
当然、そこには3体の豚のような顔をした獣人、オーク達が待ち構えていた。
「あ、あわわわ……」
さて、初戦闘だ。これでこのゲームの難易度が大体わかる筈。
俺は剣を抜き、素早くオークを斬り付ける。
すると……こちらの二倍以上の身長があるオークはあっさりと倒れ付し、消滅した。
「す、すげー……」
待て……このゲームデバックが足りていないのではないか!?
強ければいいってもんじゃないぞ!! 聞いているか、神!!
「グオオオオ!!」
「あ、危ない!」
背後からもう一体のオークが襲ってくるが、それもあっさりと切り伏せる。
つ、つまらん……そうだ、それなら、縛りプレイをすればいい!
俺は武器を外し、素手でオークを殴りつける。
「グオアアアア!!」
オークは音を立てて、その場に倒れた。
「す、すごいよサマナ! やっぱりキミと組んでよかったかも!」
大喜びのルカに対し、俺は絶望していた。
ひょっとして、これはとんでもないクソゲーなのでは……?
これでは唯の、最強のネカマが滅茶苦茶やるRPGでしかない……
すると、倒れたオークが何かを落とした。
そのアイテムを見て、ルカはなにやら興奮している。
「こ、これは! オーク族が隠し持っているという、オークの魔石!」
な、なんだって、それってつまり、レアドロップか!!
ルカ曰く、オークの魔石は超貴重品であり、滅多に見かける事の無いアイテムなのだと言う。
それを聞いた俺は、コレクター魂に火がついた。
「な、なにやってんの……?」
「エンカウントを待っているのですわ」
俺は何度も砦の入り口付近を往復した。
すると、読みどおり、再びオークの群れが現れる。
当然の様に瞬殺し、ドロップを確認する。しかし、何も無い。
俺は再び同じ場所を往復する。
「あ、あの……」
「なんですの?」
「まさか、もう一個狙ってる?」
俺は無言で頷く。
それに対し、ルカは飛び上がって驚いた。
「むむむ、無茶だよ!!」
「いいえ、別にこの位いつもやってる事ですわ。それに、他のドロップも見たいですしね」
この間にもオークが現れ、流れ作業の様に瞬殺する。
今度は何か落とした。棍棒か。奴らの武器を意識した物だろう。
もう一つあるな。体力回復のポーションか……まぁ、序盤らしいドロップだな。
これを何度も繰り返し、ようやく俺は二つ目の魔石を手に入れた。
「ね、落としたでしょう?」
「いや、もう外暗くなって来ちゃったよ!? 一体何匹オーク倒したんだよ……」
170匹だ。まあレアドロップにしては大した数では無いだろう。
それに、既に夜だがゲーム世界というだけあり、完全な真っ暗ではない。
常に周囲を見渡せる程度の薄明かりがあるのだ。これなら永遠に狩りができる……
俺は、ルカにある提案をした。
「もう一個狙ってもいいですの?」
「だ、だ、駄目!!!」
ルカは全力で拒否してきた。
仕方がないので、砦の探索に戻ることにする……