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第17話 お前はクビだ!

 次の日、俺とルカはオーク要塞周辺の高台までやって来た。

 要塞は俺達が想像していたよりも遥かに広大であり、ルカはその威容に、驚嘆の声を上げる。


「うわ、こりゃすごいね……」

「確かに、以前訪れたオーク砦の比では無いですわね」


 眼前には、見渡す限りに巨大な石壁が続いていた。

 その内側の敷地には、幾つかオークらしき影が見える。

 ルカは遠眼鏡を取り出し、内部の様子を伺う。


「うーん、あのでっかい建物の周辺はかなり警備が厳重だね。

 でも、それ以外の場所はそうでも無いかな……問題は、どうやってあの壁の内側に入るかだね」


 確かに、あの城壁を越えなければ中に忍び込む事は出来ない。

 入り口の門は開いているが、付近に数体のオークが立っている。


「あの透明になる木の実を使ったら?」

「いや、それは勿体無い……」


 やはり、ここは速やかに入り口付近のオークを片付けて強行突破するか。

 モンスターは倒せば消滅するので、跡は残らないしな。



 俺は城壁のすぐ近くの草むらに隠れ、オーク達の様子を伺う。

 そして、奴らが油断している隙を突いて素早く近付き、一番手近な所にいるオークに向かって、小石を投げつけた。


「いてっ!」

 今だ! 俺は一気に跳躍し、オークを上から斬りつける。

 さらにその背を蹴り、勢いをつけてもう一体のオークに剣を突き刺した。


「侵……!」

 俺の姿を確認した残り二体のオークが叫ぶよりも早く、一体を袈裟切りにし、もう一体に剣を投げつけ、その身を貫く。

 瞬く間に四体のオークを片付けた俺は、その場に転がり落ちた剣を拾い、鞘に収めた。


「ひゃ~、相変わらずすごいねぇ」

「いや、この程度の筈は無い……」


 恐らく、今の奴らはただの雑兵に過ぎないだろう。なにせ、これだけ巨大な要塞を築く程の勢力だ。

 単なるオークの集まりの筈が無い。

 俺は素早く城壁の中へ侵入し、周囲を見渡す。


 幸い、哨戒中のオーク達は固まらず、別々に動き回っている。

 俺達は奴らの目をすり抜けながら、先へ進んでいく。

 目指すは、あの巨大建造物だ。ここの構造を記録しながら、可能ならあの内部まで侵入してみよう。

 目的の人物も、恐らくはあそこに捕らわれているだろうしな。


「ん、なんだ今のは……」


 壁の端に沿って進んでいると、一瞬、目の前で何かが白く輝いて見えた。

 その正体は、物陰から現れた謎の少女の髪だった。


「GODに逆らう愚か者めが!

 このあたしが成敗してやるぞ!」


 鹿のような二対の角と、ウサギの耳を頭上に併せ持った謎の少女は、やたらと大きい声で言い放つ。

 その身体には、真っ赤なビキニといった感じの非常にきわどい衣装を纏い、まるで兎の毛並みのような白く美しい肌を、臆面も無く曝け出している。


 対照的な白と赤が、美しくも不気味なコントラストを生み出し、俺は不可思議な恐怖を覚えた。


「貴女は……」

「あたしはティル! この要塞の番人だぞ!」


 番人だと? 何故オークの要塞をこのような少女が守っているのだろうか。

 もしや、洗脳でもされているのか? などと思ったが、どうやらそういうわけではなさそうだ。


「GODは良い奴なんだぞ! ニンジンくれるしな!」

「GOD……? ニンジン……?」

「そうだ! 時給三本だ!」


 そ、それはどうなんだろう? 多いのか少ないのか……?

 いや、どっちかというと少ないんじゃないだろうか……


「眼を覚ましなさい! 貴女は良いように使われてるだけですわ!」

「ふふん、残念ながら、その手には乗らないぞ!」

「待って……」


 ティルは問答無用といった感じで、どこからともなく巨大な板状の剣を取り出し、こちらに襲い掛かってくる。


「待ちなさいと言ってるでしょう!」

「待つか!」


 鋼鉄の塊のような大剣を軽々と振り回しながら、紅い眼光は俺を捕らえ続ける。

 その動きは一見無駄だらけのように見えるが、一つ一つの動作が恐るべき速度で行われる為、全く攻め入る隙が無い……

 俺は奴の攻撃を辛うじて回避しながら、一度距離を取る為、後方へ飛び退く。


「逃がすか! 日進月兎ムーンダッシュ!」


 ティルは腰を低くし、一気に跳躍した。

 ――それは、まさに一瞬。

 瞬く間に俺の手前まで辿りついたティルは、こちらへ大剣を振り下ろす。

 最早回避は間に合わない……俺は咄嗟に剣を構え、攻撃に備えた。


「ううっ……!」


 鈍い音と共に、俺の剣に巨大な鉄塊が叩きつけられる。

 このままではかなり不味い……俺は、奴の紅い眼を見つめながら大声で叫んだ。


「と、友達になりましょう!」

「え?」


 その言葉に、ティルの動きが止まった。

 間髪入れず、俺は言葉を続ける。


「時給ニンジン三本なんて、少なすぎますわ! わたくしと友達になれば、好きなだけニンジンを食べさせてあげますわよ!」

「……わかった! じゃあ友達になろう! コンゴトモヨロシク!」


 ティルはあっさりと武器を仕舞い、笑顔で握手を求めてきた。

 まさか、上手くいくとは……

 というかあの武器、尻尾に収納してるのか……

 明らかにサイズ感おかしいけど、一体どうなってるんだ……


「よ、よろしくね。私はサマナ……」

「じゃ、さまなー、早速ニンジンくれ!」


 や、やっぱりそう来るよな……でもそんなの持ってないし、どうするか……

 その時、騒ぎを聞きつけたオーク達がこちらに駆けつけてきた。


「ティル! 侵入者を見つけたのか……うぐっ」

 ティルは跳躍し、一瞬にしてオークの首を刎ねた。

 その暴挙に、周囲のオーク達は激昂し、彼女を問い詰める。


「貴様! GODを裏切るつもりか!?」

「そうだぞ! あたしは気付いたんだ! 時給3本は少ない!」

「貴様……! GODのお慈悲を踏みにじりおって……許せん!」


「ですが隊長、我々が襲って良いのは、女騎士とエルフだけ……それがGOLの掟では!?」

「黙れ! 奴はGODに仇なす背信者だ! 成敗しなければならん! 者ども、かかれ!」


 隊長の号令で、オークは徒党を組み、一斉にティルに襲い掛かる。

 だが……


 スパパパパパパパパパパパパ

「ぐわああああ!! GOL万歳!!」


 数十体ものオークは一瞬にして切り裂かれ、消滅してしまった。

 いや、待て。これは不味いかもしれない……


「よし、さまなー! ニンジンくれ!」

「えっと、今は持って、無いんだけど……」


「……なんだと?」


 ティルは紅く鋭い眼光をこちらへ向けてくる。

 不味い……俺は、ルカに目配せする。だが当然、彼女もニンジンなどは持ってはいない。

 やはり、意を決して奴と戦うしかないか……?


「そっか。じゃあ、しょうがないな! 畑から奪いに行こう!」

「え?」


 俺の予想に反し、ティルは明るく笑うと、明後日の方向へ向かって走り出した。

 物凄い速さで疾走する彼女に付いて行くと、そこには広大なニンジン畑が広がっている。


「ここは……」

「GODのニンジン畑だ! 一時間に三本しか食べちゃ駄目だって言われてたけど、もう関係ないよな!」


 ティルはニンジンを数本拝借し、カリカリと齧っている。よく生で食えるな……

 取りあえず、なんとかこの奇妙な少女の機嫌を損ねずに済んだ様だ。


 それにしても……彼女やオーク達の言うGODとは何者なのか? そして、GOLとは一体?

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