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第15話 すべからく金髪ツインテールお嬢様であれ

 エルミードは全身より暗黒のオーラを滾らせ、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。

 その右手には黒い魔力が迸り、剣の形を成していた。


「暗黒の力を受けろ!」


 空間を歪ませながら、漆黒の魔剣が閃く。

 俺は自らの剣に魔力を込め、それを真っ向から受け止めた。


「光の剣か……面白い! 我が闇と貴様の光、どちらが上か確かめてやろう!」

「エルミード、あなたは一つ、勘違いをしている……!」

「勘違いだと? 笑わせるな!! この私が、勘違いなどするものかっ!!」


 俺の言葉を一笑に付し、エルミードはさらに力を込める。

 だが、俺は剣を持つ手を緩めず、さらなる魔力を剣に宿す。

 刀身が軋み、僅かにひび割れながらも、魔力を受け、白刃は更なる光を放つ。


「……はぁぁっ!!」

「な、何!?」


 眩い輝きと共に、魔剣は吹き飛ばされ、エルミードはその身に斬撃を受ける。

 俺は更なる追撃を試みるが、奴は黒翼をはためかせ、後方へ身をかわす。


「中々やるな! だが、無駄な事だ!」


 その言葉通り、奴が受けた傷は瞬時に消え去り、魔剣もすぐさま再形成された。

 だがその程度は分かっていた事だ。俺は剣で空を切り裂き、その切っ先を眼前の敵へと向ける。


「いいかエルミード、RPGは数字のゲームだ。だが、この世界ゲームに明確な数字は存在しない。HPも、ATKも、DEFも……」

「……なに?」


 俺は跳躍し、剣を振るう。これを、奴が受け止めにくる事は分かっている。

 だから、俺は奴の魔剣を叩き付けた瞬間、その反動でさらに跳躍し、空中で振り向きながら奴の背を斬りつけた。剣閃と共に黒い羽が飛び散り、周囲に舞う。


「数字が無いなら、この力は、定められた物では無い!」

「何を意味のわからん事を……!」


 エルミードは高く飛び上がり、空中からこちらに向けて魔弾を連射する。

 だが……


「お前は、自分が絶対的強者だと思い込んでいるな?」

「な、なんなんだ貴様は……さっきから、何を言っている!?」


 俺は全ての魔弾を消し飛ばし、一気に奴の元へ駆け寄る。

 魔力を帯びた二つの剣が激しくぶつかり合い、放たれた白と黒の閃光が飛沫の様に飛び散る。


「確かにお前は強い……本来なら、俺のような人間などでは、絶対に勝てない相手だろう。

 だが、これはゲームだ! ゲームなら俺が負ける筈は無い!!」

「この光は……!! ぐおおっ!?」


 重なり合う剣の中心から極光が放たれ、部屋中を包み込んでいく……

 その衝撃で、俺は背後へと吹き飛ばされ、壁に激突した。

 周囲は眩い光に包まれ、奴の姿を視認する事は出来ない……


 俺は素早く起き上がり、再び剣を構える。

 すると、それに応えるように、残光の中から黒いシルエットが現れる。


「……やるな、人間よ」


 エルミードは両腕を振るい、光を一瞬にして消し飛ばす。

 その身体には、やはり傷一つない。

 少々驚かされたが、ダメージを負っていないのはこちらも同じ事だ。

 奴の姿を真っ直ぐに見据え、俺は神経を研ぎ澄ます。


 だが、エルミードはこちらの予想に反し、魔力の剣を消し去り、あっさりと戦闘態勢を解いた。


「……お前と戦ってもキリが無い。今回はこのくらいにしておいてやろう」

「俺は、まだやれるけどな……あっ」


 ここで、俺は自らがとんでもないミスを犯していることに気が付く。


「はっ、しまった……興奮しすぎて男言葉になってましたわ!」

「……そもそも、何故貴様は似非お嬢様言葉で話しているんだ?」


 なんだ、何でも知っているような顔をしてたくせに、そんな常識も知らんのかこいつは。

 ロールプレイができなければ死ぬって、あらすじにもちゃんと書いてあるだろうが。


「だって、そういうルールなのでしょう? 役割を演じないと死ぬっていう……」

「そんなルールは無い!! 貴様、どうやら神に騙されたようだな」


 な、なんだと…………?

 そんな、バカな…………

 それでは、今まで必死でお嬢様として振舞ってきた俺は一体……


「フォフォフォ! 久しぶりじゃのうサマナよ! そして、エルミード!」

「き、貴様は……ドルム!!」

「わしもおるぞよ」


 目の前には見覚えのある髭の爺さんが立っている。

 そして、その横にはこれまた見覚えのあるロンゲの爺さんが……

 いや、今重要なのはそこじゃない!


「おい神! ロールプレイの件は嘘だったのか!!」

「そうじゃよ(テヘペロ)」

「そ、そんな……」


 神はふざけた顔であっさりと言い放つ。

 な、なんという神だ……!


「この嘘つきめ! ナオマサに一言謝ったらどうなんだ!?」

「まったくじゃ。ドルムよ、お主の金髪ツインテールお嬢様好きにも困ったモンじゃわい」


「なんじゃ、皆してわしを責めおって……だがな、わしにはわかっておる! サマナよ、お主にはゲームだけではなく、金髪ツインテールお嬢様の素質がある!! わしが保障する!!」

「そんなもん保障されてもな……」


 だが確かに、今更お嬢様言葉をやめるのもなんだかしっくりこないというのも事実だ。

 俺は、今後どうすれば……


「そうだ、そんなくだらん話をしている場合では無い!」

 エルミードは思い出したように叫ぶ。

 いや、俺にとってはくだらん話じゃないんだけど……


「よいか愚かな神ども!! この世界は私が頂く事にした!!

 これは貴様らに対する宣戦布告だ!!」

「フォッフォッフォ、それはまた、随分大きく出たのう」


「ルドル……貴様、逃げたふりをして、ずっと見ていたのだろう?

 そして、もし奴がやられそうになったら、身を挺して助けるつもりだった……違うか?」

「フォッフォ、さあ、どうかのう?」


 ルドルの爺さんは余裕の表情を浮かべ、挑発的に笑う。

 その態度に、エルミードは不快感をあらわにしている。

 彼らとは対照的に、金髪ツインテールマニアの神、ドルムは浮かない表情であった。


「エルミードよ、お主は何故変わってしまったのじゃ……」

「ふざけるな! それは貴様のせいだ、ドルム!

 貴様には必ず復讐してやるから覚悟しておけ!!」


 かつての主であるドルムに対し、エルミードは鋭い眼光を向け、怒りの篭った声で言い放つ。そして、今度は俺の方へ向き直ると、一転して得意げな笑みを浮かべる。


「ナオマサ! お前は、私のライバルとして認めてやる。せいぜい腕を磨いておくのだな!! ワハハハハハハ!!!!」


 一方的にそう言い残し、エルミードは消え去った。

 なぜか、勝手にライバル認定されてしまった。


「むう……ああ見えて、元は優等生だったのだがな……」

「ま、反抗期じゃろ」


 確かに、俺もそう思う。奴は多分、根はクソ真面目なのだろう。

 その真面目さが、悪い方向に暴走しているようだが。



「サマナよ、無事で何よりじゃ。本当はもっとそなたを手助けしてやりたかったのだが、わしはこの世界の創造主、ゲームマスター。その立場上、プレイヤーに必要以上に干渉することは許されんのじゃよ。すまんのう」

「なるほど」


「……だから、プレイヤーとして既にゲームに参加していた兄ちゃんに、そなたの手助けを頼んだのじゃ。そういう訳で、わしはもう行かねばならんのだが……最後に一つ。サマナよ、これだけは約束してくれ……」


 神、ドルムはなにやら真面目な表情で俺に語りかける。

 約束……一体何だ?


「お嬢様口調だけは、決して辞めないでくれ。頼む」

「えぇ~……」

「やらなきゃ、また電流流すからの……」


 ……それだけ言い残して、ドルムは去っていった。

 なるほどな……この師にして、あの弟子ありという事か……


「すまんな……弟は、ああいう奴なのじゃ」

「あいつ(エルミード)が堕天した理由が、なんとなく分かった気がするんだけど……」

「わしもじゃよ……」



 まぁ、なんだかんだあったが、これで本当にこの迷宮は制覇と言ったところか。

 ……そういえば、一つだけ忘れていた。いや、二つ。

 俺は玉座の裏で小さくなっているデーモンに話しかけた。


「デーモン!」

「はっ!! 終わったか!?」

「終わったよ」


 彼は驚くべき事に、俺とエルミードが戦っている間も、ずっとここに隠れていたのだ。

 さらに驚くべき事は、エルミードが全くその存在に気が付かなかったという事だ。

 あいつもしかして、アホなんじゃないのか……


「デーモン、姫はどこに居るのかしら?」

「うむ……姫は、この奥に居る。玉座の裏に隠し扉があるのだ。

 待っていろ……」


 デーモンはなにやら壁を調べ始めた。

 すると、彼の言葉通り、そこに隠し扉が現れた。


「私を見たら驚くだろうから、暫く隠れておくよ」

「ありがとう」


 俺はデーモンに礼を言い、扉に入る。

 冷静に考えると物凄く奇妙な状況だ。


 扉の中は小さな部屋になっており、そこにはドレスを纏った美しい少女が座っていた。

 間違いない、彼女が捕らわれていた姫だろう。


「ああ、勇者様、助けに来てくれたのですね!」

「えーっと、ええ、そうですわ」

「ああ! ありがとうございます勇者様!」


 しかし……俺にはまだやり残したことがあった。

 それは、アイテムの探索である。

 結構駆け足気味に進んできたので、宝の取りこぼしが結構ありそうなのだ。


 当然、姫を連れたままダンジョンをあちこち歩き回るわけには行かない。

 そこで、俺は爺さんに頼んで、転移魔法で姫を城まで連れて行ってくれるよう頼んだ。

 勇者としてはどうかと思うが、取りこぼしがあると思うと、どうしても気になって仕方が無いのだ。


「フォッフォ! そう言うと思ったわい! では、わしが姫を城まで送り届けて差し上げよう」

「ちゃんと、寄り道しないで真っ直ぐ城まで行くのよ?」

「わかっておるわい!!」


 爺さんは、俺がまだここでやらねばならない事がある事を、姫に伝えてくれた。

 姫は少々残念そうだったが、実際、ダンジョン内で姫を引き連れて帰るのはかなり危険そうなので、むしろこの方がいいかもしれない。


「では勇者様、城でお待ちしております。どうかお気をつけて」

「心配する必要は無いじゃろうが、気を付けてな!」


 二人を見送り、俺は部屋を後にする。

 こうして、悪魔の地下迷宮から、姫を助け出すという目的を達成した。

 後は取りこぼしを探しながら、のんびり歩いて帰るとするか……

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