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プロローグ

 その日、俺はMMORPG『ハルマゲドンオンライン』がメンテナンスでプレイできなかったので、代わりに、『レジェンドクエスト』の最新作、『レジェンドクエスト13』をプレイしていた。

 そう、ゲームの息抜きにゲームをしていたのだ。筋金入りのゲームオタクであるこの俺、久世直正(くぜ なおまさ)にとっては、これがごく普通の日常だ。


 ここまでのプレイで、丁度ラスボスの手前まで来ていた俺は、なんとかメンテナンスが明けるまでにクリアを迎えたかった。

 しかし、ラスボスは中々に手ごわく、アイテム使用禁止の縛りプレイをしていてたのもあって、思わぬ苦戦を強いられてしまう。

 俺くらいになると初見のゲームで縛りプレイなどは朝飯前だが、さらにこの日は13日連続徹夜だった事もあり、流石に少々視界がぼやけ、判断力が落ちていたのだ。


 霞む目を擦りながら、俺はなんとかラスボスに攻撃を続ける。メンテナンス終了まで、残り20分。

 だが、決して焦らない。大丈夫、ここでミスらなければ、確実に倒せる。それに、どうせいつも通りメンテナンスは延長されるだろう。


 そして、長い戦いの末、遂に俺はラスボスを打ち倒す。

 やった……俺はSNSを開き、レジェンドクエスト13で検索を掛けてみると、まだクリア報告は出ていない。

 素晴らしい……この優越感。だが、俺はSNSは使っていない。つまり、この結果を自慢する気などない。


 これは唯の自己満足だ。誰も知らぬところで、誰も知らぬ俺が、誰よりも早く最新ゲームをクリアしている。

 その事実が、俺の心を大いに満たした。おそらく、俺よりも数時間遅れて、誰かがSNSや掲示板でクリアを自慢するだろう。

 だが、残念だったな。お前よりも、俺のほうがずっと早くクリアしているのだ!


 俺は部屋で一人、大いに高笑いをする。しかし、その興奮が、激闘で疲れ切った俺の神経を刺激してしまった。


「ハハハハハハ!! ……ぐふっ!」


 俺はその場に倒れ付し、そして、そのまま起き上がる事は無かった。

 死因は過労死。俺にとって、ゲームは仕事であり、日常であり、使命なので、過労死で間違いない。



 ――と、そこまでは覚えているのだが、死んだ筈の俺は、何故か見知らぬ部屋で目を覚ました。

 目の前には、髭を生やした爺さんが行儀良く座っている。


「わしは神……そして、お主は死んだのじゃ」

「知ってる」


 そう、俺はこの現象を知っていた。おそらく、異世界に転生してホニャララとかいう奴だろう。

 だが、はっきり言って、俺は異世界で美少女と戯れるよりも、レアアイテムを探している方が楽しい。

 どうせ意識があるのなら、この部屋で永遠にゲームをしていたい。俺がそう言うと、何故か神は大喜びで俺の手を握った。


「わしは、そなたのような若者を待っておった!」

「は、はぁ……」


 すると、神は興奮した様子でなにやら語り始めた。


「わしも、そなたと同じようにゲームが大好きでの……その思いが溢れるばかり、ついに、ゲームに限りなく近い異世界を作ったのじゃ!」

「な、なんだと!?」


 ゲームに限りなく近い異世界だと……それなら話は別だ。神は俺が興味を持ったのを察した様子で、不敵な笑みを浮かべながら話を続ける。


「そなたをそこに招待したいのじゃが……どうかの?」

「俺がそんな話を断ると思うかい?」


 それだけ言うと、俺と神は無言で握手を交わした。

「よろしい。では、そなたを転生させよう。目を閉じておれ……」


 すると、俺の意識が徐々に薄れていく……



 ――――――――



 気が付くと、俺は見知らぬ地に倒れていた。どうやら無事に異世界へ来る事が出来たようだ。

 周囲には見渡す限り草原が広がっている。なるほど、いかにもRPGの序盤らしい場所だな。

 俺は勢い良くその場から起き上がる。体の調子はすこぶる良い。

 全身に力が漲り、運動不足で鈍っていた筋肉はしなやかに脈動している。


 だが、何かがおかしい。何故か違和感がある。

 なんだ……? この感覚は…… 俺は、ふと自らの掌を見る。

 すると、そこには妙に小さく、つるつるとした綺麗な手があった。


 その時、神の声が頭の中に響いた。


「どうじゃ? わしが与えた完璧な体は。素晴らしいじゃろ?」

「あの、確かに調子はすごくいいんだけど……なんか間違えてない?」


 すると神は、突然大笑いを始めた。何がおかしいのか、俺がそう問うと、神は意外な一言を発する。


「ワハハハ! 神が間違いを犯す筈無かろう! そなたは、確かに金髪ツインテール美少女として転生したのじゃからな!!」


 神がそう言うと、突然目の前に、巨大な鏡が現れた。

 だがその鏡に、俺の知っている"俺"の姿は映ってはいない。

 

 ……代わりに、透き通るように美しい金色の髪を二つに纏めた、謎のツインテール美少女が映りこんでいた。

 そいつの肌は、"俺"と同じように真っ白だが、それは不健康な白さではなく、つやのある、瑞々しい白さだ。

 彼女はまるで人形の様に愛らしい顔を引きつらせ、こちらをじっと見ている。


 試しに俺が手を挙げると、ツインテール美少女も同じように手を挙げ、にこっと笑って見せると、とても可愛らしい笑顔を見せる。それに驚くと、ツインテール美少女も再び驚愕した顔になる……


 ――俺は、あまりの衝撃に、目の前が真っ暗になった。

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