森の中で…。
背筋を思わずピンッとただしてしまうような雰囲気の"森"。
我ながら、よくもまぁ、こんなところに1人で行けたものだ。
「本当にここでもらったのか。そのペンダント」
「…分かんない。けどそんな気がする」
少し、怖くなって、強がるつもりで少しだけ、漣の方を向いてはにかんだ。
けど、漣は「そうか」と一言言っただけだった。
「行くぞ。いつまでもお前のワガママに付き合っちゃいられねえからな」
「…うん」
小さく「ごめん」って言うと、漣はびっくりした顔をして。
「お前が謝るなんてな。天変地異の前触れか?南海トラフより先に東京になんかあるんじゃねーか?」
そして。
「けど、そういうときは『ありがとう』でいいんだよ」
私が顔を上げると「早くしねえと陽が暮れちまう」と走り出した。
「あっ、ちょっと、待っ…!」
ぐいっと横の茂みから誰かに手を引っ張られた。
「誰!?あんた!れ、漣を…っ!」
漣を呼ぶわよ!と言おうとしたら"誰か"に口を手で塞がれた。
__後から考えると、ここは普通『警察を呼ぶわよ!』だと思う。
「達座倉 ゆか、だな?」
な、なに?誘拐犯!?
てか、知らない人に名前なんで知られてんの!?
すると、"誰かさん"は寂しそうに笑った。
今まで見たことがないくらいに。
「そうか。そうだよな。私と出会ったのは9年前。覚えているわけないんだ。
___なぁ、ゆか。
9年前、竜桜と名乗った私を覚えているか?」
たつ、ざくら…?