1/20
記憶を辿ると…。
走っていた。
森の中だったと思う。
「お父さん!お母さん!どこ!?」
泣きわめいてもう自分でも何を言っているのか分からなくなった頃。
「迷子?」
「え?」
とても澄んでいる声だった。
「迷子…なんでしょ?」
「え、う、うん…」
「じゃあ、僕が連れてってあげる。お父さん達のところで、いいんだよね?」
彼はそういうと、私の手をひいて森から出してくれた。
歩いているとき、いくつか質問した。
けれど、覚えているのはたった1つの質問の答えだけだった。
「お兄ちゃんの名前は?」
「僕?僕はね、竜桜だよ」
「タツザクラ?じゃあ、お兄ちゃんはあたしと一緒だね!あたし、達座倉 ゆか!」
彼はそれを聞くと驚いて目を見開いた。
そしてゆっくりと言ったんだ。
「そうか…_____…」
「え?なんて?」
そこで記憶は途絶えている。
なぜ、あんなところに人がいたのか。
あの森へはそれからお父さん達にこっぴどく叱られて行っていない。
彼は今、どうしているのだろう?