極東とは、東アジア、東北アジアと東南アジアの一部
9.極東マネージャー李 花琳
ヴォイヴォイヴォイ、ズザザザアァ
8月4日早朝、新潟県直江津港に城を思わせる巨大船が到着する。
ナイン・エンタープライズ極東マネージャー専用豪華客船「青龍・改」である。
全長300mの濃紺の船体に内海スペシャルと言われる船舶用高出力モーターを10基搭載したこの船は、先月改装を終えお披露目を果たしたばかりの最新型だ。軽量化と高出力モーターの組み合わせでこのサイズの巨体を40ノット(約時速74km)で巡航させる。
この巨大船を所有できるのは他にはアメリカ、ヨーロッパ、インドの各支部マネージャーの3名だけである。なお、青龍を除く3隻はまだ内海スペシャルのモーターでなく通常のディーゼル発電機の仕様である。
ナイン・エンタープライズ極東マネージャーである李 花琳はタイトミニから覗く見事な脚線美を港にズラッと並んだ黒スーツの部下に見せつけ船のタラップをカンカンとリズミカルに降りる。
「魚臭い」
眉をしかめて一言ぼやくと、胸ポケットからスマホを取り出し呼び出しをかける。
チャンチャカチャカチャカチャンチャン・パフッ
「ふぁ~い、内海です〜」
朝5時ではさすがに寝ていたのか、ひどく眠そうな声が聞こえてくる。
「朝早く起こして悪いわね。」
「う~ん大丈夫、今から寝るとこだから~」
「直江津に着いたわ。高田の駐屯地に寄ってから研究所に向かうから」
「了解~。じゃあちょっとズワイガニ買ってきてぇ〜」
「貴女ねぇ。私は宅配屋じゃないんですけど!」
「え~いいじゃん。今日は絶対にカニが必要なんだよカニが!」
「冷凍じゃだめだよ、生だからね。長野県民はカニに弱いんだから」
「エッ、なにそれ?」
「コッチ来たら説明するからとりあえず買ってきて。じゃあお願いねー」
プッツ、ツーーーーーーーーッ
「ちょっ、もう。私を誰だと思ってるのかしらあの子は? だいたいこんな時期に新潟で生のカニなんか手に入るわけないでしょうが!」
(新潟のカニ漁は10月〜5月末の時期しか出来ない)
花琳はスマホをポケットにしまいながら、黒スーツの一人を手招きした。
「アナタ。申し訳ないですが青龍の生簀からカニをとってきてくださる。毛ガニにズワイ。タラバもとりあえず、そうね全部もってらっしゃい。あっ、上海も忘れないでね、あれが一番美味しいから」
極東マネージャーという偉い立場の人間である花琳だが、内海には甘かった。
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