企業機密はあやしいが軍事機密はカッコイイイメージ
8.話し合いという名の通告
午後9:30。
主任さんの部屋に入るとなんともいえない空気が漂っていた。
俺と内海さんがシブいおじさま(松井さんと言うらしい)が煎れてくれたコーヒーをすする音だけが響く。
「おっ、うまいなコレ、なんて銘柄だろ?」
「で、黒崎君だったかな。君はこの嬢ちゃんの話しをどう思うかね」
「黒崎くんは、もちろんOKだよね!!!ね、ね」
「嬢ちゃんは、すこし黙ってような」
話しというのは、企業機密で軍事機密でもある白いカブトムシ(白蜘蛛)を目撃したことを、世間様に黙ってるかわりにこの研究所に就職しないかというものだった。
なぜそうなる?てっきり何か契約書みたいなのにサインさせられて口止料でも渡されるんじゃと短絡的に思っていたんだが、内海さんが提案してきたのは・・・
「ウチに就職しちゃいなよ。身内にしちゃえば始末書書いたり、口止料払わなくていいし」
だった。
ぶっちゃけすぎだこの人。
8月にもなってまともに就活してない身としては、いきなり内定貰えるのは非常にありがたいが大丈夫か?俺にやれる事と言ったらバイクのオイルを替えれるくらいで機械にはそんなに詳しくないし、第一兵器なんかモデルガンぐらいしか触ったこともないぞ。
改めて内海さんと目を合わす、おいこら、なぜ、目をそらす。
「まぁ、まだどこにも内定もらってませんし。就職はおいしい話しですが、俺、美術専門学校のデザイン科ですよ、畑違いじゃないですか?」
「黒崎くんは私の秘書でもやってくれればいいよ!!」
「ちょっと黙ってよ・う・な」
松井さんが内海さんの頭頂部を拳でグリグリと撫でる。
「あぅ〜痛いのやめて〜」
22歳にもなって子供か?
「確かにここはメカ専門職の濃い奴らが集まってるから、雑用から始めてもらうと思うが、デザイン科なら企画書とかは作れるか?」
「ハイッ!!私、企画書超ぉ苦手ですっ!!!」
シュタと手をあげる内海さん。
「嬢ちゃんには聞いてな・い。」
内海さんがまたグリグリされる。無駄にハイテンションで話しずらいなこの人。
「企画書みたいな仕事なら大丈夫ですよ。授業でも作ったりしてましたから」
「そうか、それじゃ君さえよければ採用ってことでいいかな。この嬢ちゃん(所長さん)たっての頼みだしな」
「あ、はい。よろしくお願いします」
こうして松井さんと握手をかわすことになったのだが、所長ってくらいだから内海さんが一番偉いんじゃないのこの研究所?
実質、松井さんがトップなんだろうな。
と言うことで黒崎竜一20歳、就職活動もせず、内定通知を待たずして就職が決まった。
決まってしまった。
「じゃあ、じゃあ、黒崎くんの採用も決定したし研究所見学していく。最高責任者の所長である私自ら案内しちゃうよ!」
「ちょっと待て、嬢ちゃんは極東マネジャーにも話し通しとけな」
「えー!・・あぁ〜、ちょうど明日来るようなこと言ってたからその時話すよ」
「まぁ、この時間だし明日ならいいか」
「それより嬢ちゃん、黒崎くん案内するならシャワーくらい浴びてこい、ちょっと臭うぞ」ニヤニヤ
「・・・・・・・な、な、な。そう言うことは最初に言えーーーーーーーーー!!」
顔を真っ赤にした内海さんがバタバタと駆け出して部屋から出て行く、バタバタバタ、ドシャー。
あっ、コケた。
部屋に残された俺と松井さんが揃って苦笑いを浮かべる。
「まっ、黒崎くん。少し、いや若干、大変だと思うがこれから嬢ちゃんのお守りよろしくな」
「えっ」
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