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プチ不運は貯めたり使ったりできるのです。

『プチ不運プラス10。総プチ不運数は90です』


朝、起きてそんなアナウンスを聞く。


プチ不運数が90なら後もうちょっとで100になる。

100になるとまとまった幸運が手に入るだろう。


うふふ、懸賞や商品券が当たっちゃりしてー!


今のは、いつもの慣れたアナウンスだ。

どこから響くのかとかは考えてはいけない。

物心ついた時から、私は女の人の声が度々聞こえた。


聞こえる声はあまりにも冷静で、私は皆にも聞こえるのかと思って居た。

もちろんある程度経ってから、何処かから声が聞こえると皆に言うのは危ない事だって分かった。


まあ、それはともかく。


長年の経験から私が分かったことは、小さい不運があるとプチ不運が貯まる。

プチ不運が貯まると、それを使って幸運を起こせると言うことだ。


そして、そのプチ不運は自分でワザと稼げる。

例えば、ワザと何かに軽くぶつかってみる。

ワザとスーパーで同じ値段なのに小さい果物を買ってみる。


もちろん、ワザとじゃない場合にも溜まる。

コンビニで箸をつけ忘れられた。

宅急便が微妙に時間通りに来ない。

この前あったのは塩と砂糖を入れ間違えたというやつだ。これはワザとやるとダメージでかいからやらない。


話が長くなった。

で、最近私がハマってるプチ不運を発表します。


イケメンに話しかけて冷たくされる。


です。


特にウチの会社の川谷さんに話しかけるとポイント高い。

川谷さんはイケメンでいつも社内の美女に話しかけられている。

とにかく女の人に話しかけられる。


でも、なんだかいつも話しかけられてもあまり何も喋らない。

普通にモデルとかで居そうな顔してるのに、女の人慣れしていない。

あまりしつこくすると迷惑になるから、私はいつも一言声をかけてお菓子等の消え物を渡して退散している。


私はルンルンで、早起きして作ったクッキーをラッピングする。

イケメンに冷たくされる為のクッキーだ。

今日は可愛らしくフルーツクッキーにして見た。

ドライフルーツをふんだんに入れた、見た目が可愛らしいクッキーだ。

調子にのってハート形も作ってみた。


+++++


会社に出ると、早くも朝のオフィスでイケメンが見当たった。

噂の川谷さんだ。


川谷さんは繊細な美貌だ。

肌がスベスベで色白、目の色も髪も薄い茶色。

眼差しが柔らかい。

最近、ちょっと女顔の細っそりした顔が流行ってるからすごくモテる。


隣の部署のシステムエンジニアで、金融や保険関係のシステム設計をしている。

丁寧でミスのない作りだけれど、仕事が早いと評判だ。お客様からのクレームも少ないとか。


珍しく川谷さんの周りには誰もいない。

私はこれ幸いと川谷さんに近寄った。


「川谷さん、川谷さん。おはようございます」


私が軽く挨拶すると、イケメン川谷さんがこちらを見てすぐに目を逸らした。

視線を所在無げにフラフラさせている。

おお、今日もヒゲ一つないスベスベお肌。

私なんかいつもどっかしらニキビ出来ちゃってるのに。


「あ………おはようございます」

「これ、フルーツクッキー作ったんです。良かったら食べてください」


朝からイケメンで目の保養もあって、とびっきりの笑顔で川谷さんに差し出す。

どうだ、引くだろう。この気合いの入ったピンクのクマラッピング。

すると、川谷さんは少し目を見開いて俯くと、小さく頭を下げて、すぐにデスクの引き出しに入れた。


今日も目を逸らされたし、プチ不運はバッチリだ。


『プチ不運、プラス5』


冷静なプチ不運のアナウンスが頭に響く。


「あ………」

「じゃあ、またー!」


目的は果たした!

元気よく挨拶すると、すぐに川谷さんの前を離れた。


その日、一日中私は上機嫌だった。

イケメンに目を逸らされてお礼を言われなくても、プチ不運は溜まった。

最近、挨拶がスムーズに返ってくるからか、プチ不運が貯まりづらいけれど、まだまだ使える手段だ。


案の状帰りのスーパーの福引で、商品券3万円が当たった。


『プチ不運がマイナス95。本当は100必要ですがサービスです』


ついてる!

プチ不運の女の人がサービスしてくれた。


テンションが上がったまんま、引き返して予定を変更。

その商品券で奮発してお菓子の材料を買った。

来週はバレンタインだ。

冷たくされると、本当に辛い気持ちになる位のお菓子を作ろう。

プチ不運の貯め時だ。


あっ、お菓子作りは趣味です。

仕事は一般事務です。

仕事にしちゃうとお菓子作りを楽しめなくなると思うので!


+++++


やってきました!

バレンタイン前日です!


今日は速攻で仕事を終わらせて帰ってきた。

忙しいので、日課の川谷さんに話しかけるのもやめた。


そう言えば、今日は何故か川谷さんがいつも絶対近寄らない女の園の一般事務に顔を出していた。

ドアからキョロキョロしてたっけ。

早速肉食系女子に食いつかれたのか、また振り返った時には見えなくなっていた。


素早く一般事務の皆に配るボックスクッキーを焼き上げると、川谷さん用の大作に取り掛かる。


ちなみに一般事務の女の子達は、私がいつも川谷さんに話しかけているけれど、私が川谷さんに冷たくされるのを知ってる。

だから、特に関係は悪くない。

プチ不運が溜まらない。


さてさてー!


時間かかって美味しいチョコミルクレープを作ります!


材料を慎重にダマにならないように混ぜましてー、綺麗に濾してー、うふふ、混ぜたり濾したり大好き。

なんか小さい頃の砂遊びを思い出すのよね。

無心になれるというか。


さあさあ、小さいフライパンに火をかけてー。

何枚も生地を焼いてきます。


川谷さんへの思いを込めて!


プチ不運を稼ぐと言っても、別にイケメンなら誰でもいいって訳じゃない。


そうねー、遠くから見て男の同僚と話してる時の笑顔とか、丁寧な仕事ぶり。

仕事してる時の真剣な顔。

最初は小さい声でしか挨拶してくれなかったけれど、最近は割とはっきりと挨拶返してくれる。

後はその柔らかい純粋な眼差しかな。

男の人にしては珍しいと思う。

メルヘンチックだけれど、なんだか妖精さんみたいに透き通っててー!


あれ、なんだか焦げ臭っ!?


『プチ不運プラス3』


「焦げてるー!」


ミルクレープの生地の一枚が焦げ焦げになってしまった。


うん、よし!

プチ不運溜まったから、よし!


私は焦げ焦げの生地にパクついた。

うん、焦げてる風味が意外と美味しい。


さてと、出来上がったミルクレープの生地にー、作っておいたチョコクリームを塗っていきます。


いい出来だわ。

いい具合にミルクレープ平らになったわ。


よーし、これで冷たくされるぞー!


スクラッチくじで10万とか当たるぐらいのプチ不運貯まっちゃうかもー!


+++++


次の日、さすがにデカイぶつなだけに早めに会社に向かった。

ミルクレープを両手に気合い入れて持った。

ピンクのクマで気合い入れてラッピングした箱に入ってる。

フラフラと隣の部署に向かうと、


「あのっ」


白い手が伸びてきて給湯室に引きずり込まれた。


「ひぃっ!」

「山田さん、川谷ですっ!」


目の前にイケメン川谷さんの顔が近い。

色素の薄い綺麗な茶色の目が近い。

何故か焦ったような顔をしている。

私を給湯室に引きずり込んだのは、幽霊とかではなく川谷さんだった。


そういえば、川谷さんから話しかけられたのは初めてかも。


あっ、山田とは私の苗字です。

正確には山田花美。山田花子ではなくて良かった。


「なんだ、川谷さんか! 会いたかったんですー。これ、私が超手間暇かけて作ったミルクレープです。食べてください。好きです!」


ついでに告白もしてみる。

川谷さんは私の言葉に軽く目を見開いて、自分の口元を抑えて視線をウロウロさせた。

おお、目を逸らされた。


あれ、プチ不運は?


アナウンスないな。

イケメンに目を逸らされたから、ついでに告白もスルーされたからプチ不運早う下さいなっ。

アナウンスの人遅れてるのかな。

仕事して下さいなっ。


『仕事はしています』


珍しく私の心に呼応する返事が頭に響く。

え、仕事はしてるなら何で?


私が首を傾げてると、川谷さんが私の肩をガッと力強く掴んできた。


「うわっ! 川谷さんどうしたんですかー?」


さすがにびっくりして川谷さんを見つめると、川谷さんはダラダラと汗を垂らしていた。

漫画みたいに汗がポタポタ垂れている。


急いでポケットからハンカチを出して川谷さんのイケメン顔を拭く。

今度は手首を掴まれた。


「あっ、あっ………う。山田さんっ! 俺と結婚して下さいっ! うわっ、ちがっ。違います!付き合って、あああ。無理無理なんだ俺には無理なんだー! いつもお菓子をありがとうー!!!おーいーしーいー!!!!」


イケメン川谷さんはとんでもない事を叫びながら、給湯室から爆走していった。

私の手からはちゃっかりミルクレープを受け取っていった。


は? え? 私何言われた?


『プチ不運はマイナス10万。プチ不運総数マイナス99,997』


アナウンスの声が頭に響く。

マ、マイナス10万?

聞いた事ない数字だ。


それよりも、私もしかして川谷さんからの絶叫告白受けた?


『プチ不運はマイナス10万。プチ不運総数マイナス99,997』


 頭に再度アナウンスが響いた。

 大事な事だから2回言ったのか、それともさっき仕事してと言ったのを根に持っているのか。

 こんな経験はないから分からないけれど、不運がマイナスからプラスになるような大きい不幸起こったり………、

 しないよね?


 私の問いかけにアナウンスの返事はない。


 川谷さん、やっぱり私に告白してくれたよね?

 どうしよう。

 これって。


+++++


 後日、川谷さんにお付き合いOKの返事をした。

 すると、周りの一部女子からの嫉妬を受け、不運マイナスポイントはものすごい勢いでプラスになっていった。

 

 でも、川谷さんと一緒に手を繋いで帰ると、あっという間にマイナスになったりする。

 プラスマイナスを激しくいったりきたりする内に、ある日アナウンスは聞こえなくなっていた。


 アナウンスが聞こえなくなると、寂しい。

 なんていうか日々の不運幸運に張り合いがないというか、あのアナウンスの女の人結構好きだったのに。


 川谷さんと充実した日々を過ごしていても、どこか寂しい日々を過ごしてたある日、


『今回の人生は予習です。来世は異世界でずっと一緒ですよ』


 と、とんでもないアナウンスが聞こえて最後になった。

 おい、人の人生勝手に予習にするな。


 終わり。

長い文章を読んで頂き、誠にありがとうございます。お疲れ様でした。

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