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送り火  作者: 173
第参話・そして紫煙は秋雲に溶け
6/12

そして紫煙は秋雲に溶け(1)

 今度は、脳が即座に反芻し、再生したことを無駄とは思わなかった。

 ──俺のことが、好き?


「俺は──」


 言い掛けて言葉に詰まる。俺は、何だと言うのだ?

 俺がマトモに何かを言うより早く、朱鷺が口を開く。


「やっぱ変かなぁ? チャットとメールでしか話したこと無い人を好きになるなんて」


 そう言う彼女の表情は初めて見る物だった。

 胸を衝かれる想いに、俺は軽く決心する。


「俺は──」


 其処で一旦切り、唾液を飲み込もうと喉を動かして気付く。口の中はおろか唇も乾き切っている。


「……ごめん」


 辛うじて水分を保つ舌が上下の唇の上を滑る。


「俺、好きな人居るんだ……」




「そっ、かぁ……」


 傾く太陽に染まった表情で吐き出す用に言った朱鷺は、何処か吹っ切れたようにも見える。


「……残念」


 そう言いながらも、彼女は笑って見せた。




 正直、俺も彼女に対しオフラインの友人、若しくは其れ以上の感情を抱いたことがある。だが錯覚だと思った──思おうとした。それどころか、友人と見做すことさえ否定した。

 何故? 理由は彼女が言う通りだ。チャットやメールでしか話したことが無い者を、どうしてオフラインの友人や「気になる異性」と同列に扱うことが出来る?

 彼女は所詮、画面の中に居る者に過ぎない。俺にとって黒鷺は、何処まで行っても黒鷺だった。


 だが、彼女は違った。確かに自らの感情を疑問に思いつつも、感情を歪めるような真似はしなかった。陸奥の向こうに、まだ見ぬ長門を見ていた。




 夕焼け色の鱗雲を、仰ぐ朱鷺。


 長く伸びる影に、頭を垂れる俺。




 彼女は俺を、陸奥では無く長門と見ていた。──そして、好いてくれた。

 なのに、まだ、俺は彼女を黒鷺としか見れないのか?


 其れでは余りに寂し過ぎる。

 哀し過ぎる。


 だから、


「少し、」


「え?」


 振り向いたであろう朱鷺の声が、一瞬の躊躇いを生む。だが其れを一瞬の決意が打ち消す。

 乾いた喉から出る声が、掠れないように気を払って、言う。


「話を聞いて貰えるかな……?」


 ──彼女を黒鷺では無く、朱鷺として見る為に。


 俺が頭を上げると、きょとんとした風に頷く朱鷺が見えた。

 ふっと自然に笑顔を取り戻せた俺は、自らの選択が間違っていないことを確認した。






第参話

 そして紫煙は秋雲に溶け(1) ―完―

 第参話スタートです!

 次話以降、あっさり断った主人公の言い訳が続きます!

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