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そして紫煙は秋雲に溶け(6)
秋の陽は釣瓶落とし、とは良く言ったものだ。空は、すっかり夜の色を纏っている。
其処に突然、大きな華が咲いた。
「あ、煌夜祭が始まったみたい」
朱鷺が楽しそうに言った。
「トーチ・トワリングも……あぁ、此処からなら良く見える。ほら、あれ」
彼女が指した広場では既に、薄暗がりの中に幾つかの炎が浮かんでいた。
ほど無くして、炎の円舞が始まった。炎は闇と闇の間を駆け抜け、夜の帳を粉微塵に切り裂いた。
演者の意思からも外れたが如く、狂ったように闇を掻き乱す。其の頭上、かなりの低空で再び花火が炸裂した。炎を取り囲む群衆から、わっと言う歓声が上がる。
「綺麗……」
恍惚とした声が彼女の口から漏れる。ふと横目で表情を伺うと、乱れ舞う炎に照らされている。
炎は瞳と、頬の一筋の中で燃えていた。
俺は拭ってやりたい衝動に駆られたが、見なかったことにした。
──下手な同情に何の意味があるだろう。
そう自分に言い聞かせようとした時、俺の左手に冷たい人肌が触れる。
「……ごめんなさい」
濡れた声が聞こえた。
俺は、下手な同情を、彼女に掛けた。