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送り火  作者: 173
第参話・そして紫煙は秋雲に溶け
10/12

そして紫煙は秋雲に溶け(5)

「……と、まぁ。長い話になっちまったな」


 出来る限り明るい調子で言う俺。ふと見れば、夕陽は目線の高さまで降りて来ている。


「うぅん……そんなこと、無いよ」


 俺にとって辛い話だが、彼女にとっては更に辛かっただろう。


「話してくれて有難う」


 笑顔を作って朱鷺は言った。


「そりゃ、な。……お前さんとは此れからも、良い友人で居たいから」


 表情を見られたくなくて、腰掛け直しながら視線を落とす俺。


「あーあ」


 弾けたように声を上げる彼女。ふと出来た影に顔を上げてみれば、彼女の背中が其処に在った。


「完全に相思相愛ですもんねぇ。そりゃ敵う訳無いや」


 背中越しの声。


「その上、ナニゲに友達宣言されちゃったし……あーあ」


 二度目の「あーあ」にも何も言えずに落とされた影を見詰めていると、影は一歩、二歩と遠ざかった。


「でも、良かったのかな。伝えられたし。こんだけ話して貰えたし。此れからも──」


 彼女は振り向くこと無く、柵にもたれ掛かった。


「友達で居れるんだし」


 苦笑を作ろうとした俺に、朱鷺の声が降り注ぐ。「ねぇ、長門さん」

 首を巡らせた彼女の瞳が、夕陽を乱反射させている。「どうした?」


「……煙草を一本、貰えないかな」


 俺は視線を逸らし、泳がせて躊躇った。だが彼女は、しっかりと俺を見ている。


「ん……分かったよ」


 観念した俺は、ジャケットのポケットから箱を取り出す。使い捨てライターも箱の中に突っ込んである為、先ずはライターを取り出し、其れから一本を抜く。


 有難う、と笑顔で言って朱鷺は煙草を受け取った。「どうすれば良いの?」


「咥えて」


「ん」


 彼女が咥えた煙草の先端にライターを近付け、左手で風除けを作ると、右手の親指で石を回す。二度、三度と回すと、ガスに火が点き煙草を炙った。


「吸って」


「……ん」


 朱鷺は少し顔をしかめながら、煙を肺に取り込む。

 ふと、見守る俺と視線が絡んだ。すぐに彼女は煙草に注意を戻し、人指し指と親指で煙草を摘んで口から離すと、息と共に大きく煙を吐き出した。

 そして一言、


「苦い」


 咳き込むことも無く初めての喫煙を果たした彼女が発したにしては、意外な言葉だった。

 俺は思わず吹き出してしまった。むっとした様子の彼女だったが、すぐに一緒になって笑い出した。




 彼女の手元から昇る紫煙は、夕焼けに染まっていた。


 彼女の手元から昇る紫煙は、何も語らなかった。




 彼女の手元から昇る紫煙は、秋雲に溶けて行った。






第参話

 そして紫煙は秋雲に溶け(5) ―完―

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