転校生?4
一つ、思うことがあった。僕が芸太郎から逃れようとすると必ずといってもいいほど奴は極知君を犠牲にして僕を無理やり逃げられないようにしてくる。
奴は時には極知君が死にかけるような事をする場合もある。
しかも僕が奴を避ければ避けるほど奴は過激な嫌がらせをしてくる。
ホモ行為、チャリの破壊、かつあげ、授業中に妨害……その他いろいろ。
とにかく僕はまさに『奴隷』な状態だ。
奴に従わざるを得ない。
1僕は奴に服従する。
2僕は嫌になって奴から逃げる。
3奴は極知君を利用(犠牲に)して僕を連れ戻す。
4僕はさらにひどいことをされる。
5僕は奴に何かされることを恐れて奴に逆らえなくなる。
6これを知った極知君は奴に嫌気がさし裏切ろうとする。
7奴は極知君に優しくして極知君が逃げないようにする。
8極知君は奴の第一下僕であり続ける。
9極知君は奴に忠実でい続ける。
10「1」に戻る。
この負のループが繰り返されている。
特に芸太郎の汚いところは『極知君を犠牲にする』ところなんだ。
もしも僕が奴の命令に逆らいすぎたり奴から逃げたりしたら奴は極知君を殺すつもりらしい。
そして極知君を殺したらその罪を僕にかぶせるぞと脅してくる。
奴の親は特権階級だと聞いている。しかも奴はオブジェクト。
奴が親と自分自身の権力を使えば僕に罪をかぶせることぐらい簡単なことだろう。
もし、奴が極知君に優しくしたとしても極知君が逃げだしたらおそらく奴は極知君に対してもさっき言ったような方法で脅すだろう。
殺那は僕や学校の状況を知っていた。
確かに僕は奴から逃げられないし極知君も逃げられない。
「ねえ。気に入らないやつは消しちゃおう?」
「おいっ!とんでもない事言うなぁ。確かに誰でもそう感じることはあるだろうけど……。」
「……あれ?嬉しくないの?」
「いや、そういうわけでもないんだけど……。」
「ま……まさかけんじ君は超ドM のホモなの?芸太郎は実はあなたの恋人とか?」
「そんなわけあるかっ!」
「実はたくさん痛めつけられてもうれしいと感じているんじゃあないでしょうね?」
「違うから……。」
やめてくれ!腐女子か?
「なんだ。違うんだ」
「それよりも君は本当に殺し屋なの?」
「うん。私は男男政府公認の殺し屋。男男帝国に悪影響を及ぼす人間を殺したり捕まえたりする仕事」
「政府公認!?」
「うん。この国にはあまりにも権力が高すぎて警察さえ手出しできない人物がいるから 私はそういった権力者の犯罪者を殺したり捕獲したりするの。ほかにも法では裁けないけどこの国にとても大きな悪い影響を与える存在やイセハンみたいな奴らも私たちのターゲット。昨日警察を呼んだのは現場の後始末をしてもらうため」
「そんなこと僕に言ってもいいのか?」
「うん。でも公言したらあなたはどんな目にあうと思う?」
「……」
「あなたも昨日のイセハン達のようになっちゃうかもしれないからね?」
つまり「死ぬ」ってことだね。
ああああああああああああああああああああああああ!
僕は芸太郎かからも殺那からもこうやって脅される!命がいくらあっても足りないッ!
神様ッ!僕を不死身にしてくださいッ!お願いしますッ!
僕は無神論者だというのに神様にお願いをしたくなる。
ああ。この世界にも七個集めるとどんな願い事でもかなう球体があったらいいなぁ。それで不死身になるようにお願いをしたいよ。
「プラナリア」という生物なら体を切られても再生できるみたいだけど切られるたびに自分の人数が増えてしまうようだ!
何人も自分がいるなんて気持ち悪い!
「はい……」
僕は無気力なこ声で返事をする。
「まぁ、安心してよ。あなたが私の正体を周りにばらさない限りあなたが殺される事は無いんだから」
「うん……」
それでも十分に怖いぞ。
うっかり口に出しそうだし。
「安心してよ。もし公言しても天国に一足先に行けちゃうんだよ!凄く幸せじゃない!」
「馬鹿か!」
「冗談だよ。だけど天国ってあると思う?」
「あるわけないでしょ。」
「私は天国はあると思う。」
「何教だよ君は。」
「無神論者。」
「……無神論者なら天国なんて信じていないだろう?」
「人間にとって最高の快感って何だと思う?」
いきなり下ネタかっ!あまりにも唐突すぎて反応に困る!
最高の快感とか変な事聞いてくるなよ……。
「人によって違うと思う。」
ふふふ。ここはシンプルな返答で答えておいたぞ。
「人間にとって最大の快楽。それは『死』。人間は死ぬ瞬間、βエンドルフィンやドーパミンなどの快楽物質が大量に分泌されてそれは性行為の数百倍の快感とも言われている。その快楽こそが『天国』に相当するんじゃないかな。あ……だからといってむやみに死んだりしないでね?」
うわッ!真面目な話ししてきやがった!
下ネタ?とか考えた僕自身が馬鹿らしく思えてくる!
確かにそれなら現実味があるね。
だけど怖いよ……?まさか君はそのことが理由で人間を殺しているのか?
殺人鬼的な女だ。
「死ぬわけないだろう!だけど死ぬ瞬間に快感があるというのは初めて知った」
「逆にこの現実世界自体、地獄だと思わない?」
「どうなんだろうね」
「私が求めているもの。それは永遠の『無』」
「はぁ?」
「私たちが実際にこの世に人間として存在しているということは私たちは違う時代で違う場所で生まれてくる可能性もあったって事はわかる?」
「うん」
「つまり私たちは昔の時代で『奴隷』として生まれてくることや拷問されて想像を絶するような痛みを味わうような運命にある人間として生まれてくる可能性もあったという事。これはつまり、この地球、いや、宇宙もさらにそれよりも外側のすべての存在が『無』にならない限り私たちは永遠に何らかの形でこの世界に生まれてくる運命にあるということから逃れることはできないの。そう考えてみると自分自身が死んでしまうことも怖いけど逆に自分自身が今こうやって意識を持って一人の人間として存在しているという事実が怖いと感じない?自分自身が存在しているが故に自分自身は想像を絶する苦痛にあってしまう可能性と隣り合わせであったということが怖いと感じない?私はとても怖い。自分がこうして存在しているということが。もし、私の願いが一つかなうとしたら私は全てを『無』にしたい。そこには何の苦痛も存在しない。そもそも何も存在しないわけだから『不幸である』なんて考え自体も存在しない。ある意味『無』であることって幸せなんじゃないかなと私は時に思うことがある」
うわっ!さらに哲学的?なこと長々と述べてきた!
「結構深い考えを持っているんだね。確かに『無』であれば不幸も何もないよね。だってずっと寝ているときのような状態なのだろうし」
「うん。そういう事」
「とにかく私は芸太郎を殺すかまたは倒してオブジェクトの権利をはく奪する」
「いや……いくら君でも無理だと思う」
「どうして?」
「奴は絶対的な権力と異常なまでの卑怯さを備えた人間だ。もしも殺那ちゃんが奴を狙っていることに気付かれたら殺那ちゃんの事を暗殺してくるかもしれない」
「殺られる前に殺ればいいだけの話」
「さすがは殺し屋です!」
この人も誰かさんみたいにいかれてる。
でも僕はこの人に対する恐怖心に加えて何かすごいことでもしてくれるのではないかという期待も抱くようになってきた。