③
「少々お待ちください」
佐藤さんは席を立つと、どこかへ行ってしまった。何故か事務作業をしていた小林さんを引きずって。二人が行った方から何やら言い合っている声が聞こえるがよく聞き取れない。聞き取れたのは
「お願いします!お願いします!」
と、佐藤さんが必死に何かを小林さんに頼んでいる声だけだった。
その後何故か小林さんだけが出てきて僕のほうに歩いてくる。そして、若干引きつった笑顔で
「佐藤が怖気づきましたので、代わりに私がご案内します」
と告げてきた。マジか。どんだけビビってんだよ佐藤さん……。
社用車に乗せてもらいアパートに向かう。先に向かうのは問題の激安物件のほうだ。気が重いほうを先に終わらせたいそうだ。
「佐藤さん、そんなに嫌がってたんですか」
「そうなんですよあのヘタレ男……っと失礼しました」
「いや、いいんですよ。そういうの苦手なんですかね、佐藤さん」
「中途半端につながりがある分、余計にナーバスになっちゃてるんですよ。とりあえず近くの店のケーキで手を打ちました」
そんなカンジで佐藤さんの話で盛り上がっていたのだが。
「まあ、正直私も佐藤ほどじゃないですけど、自分が住むとなるとちょっとおっかないですよ。山本さんは平気な人なんですね」
「基本的に信じてないんですよ、そういうの。実際24年生きてきてこの目でハッキリとみたこともないですし。ホントにいるんだったら一度見てみたいくらいです」
僕は幽霊や怪奇現象をほとんど信じていない。「絶対にいない!」と力説するほどではないが、「多分いないでしょ、見たことないし。いたらおもしろいかもね」くらいのスタンスだ。母親はオカルト系を結構信じる人で色々知識や経験談をストックしている人だったが、父親はまったく信じない人だった。その影響か、子どものころは霊の存在をある程度信じていたが、歳を重ね、知識をつけていくにしたがって父のほうが正しいと思うようになった。
そんな話をしているうちに現地に到着した。二階に上がり小林さんが持っていた鍵をドアノブに差込みゆっくりと回す。
僕も小林さんもゴクリと生唾を飲み込んだ。
そして、恐る恐るドアを開ける。