手を伸ばしたその先には――
黒く染まった空の下で、空と近い色の血を零しながら誰かは歩く。眼前に映る幸せのためにただゆっくりと違和感のある足を引きずりながらゆっくりとゆっくりと……。
実際のところしっかりと歩けているのかすらわからない、それでも歩いているという自らの意識が無ければ今の俺では力尽きてしまうと思ったのだ。
其れほどまでに磨耗している俺の身体はもう限界なんてとうの昔に超えている。
磨耗した力尽きた崩れ落ちた身体や精神を突き動かすのはたった一つの眼の中に存在する映像に他ならない
「あ――。」
「あ――――。」
周りの景色を塗り替える程に眩しい光と、
とても愛らしい子ども達が丸い夕陽に手を伸ばして精一杯掴もうとしている。
一人は飛び跳ねながらいたずらな笑みを浮かべて、
一人は力いっぱいに泣きそうな瞳を浮かべて。
一人は恥ずかしそうにゆっくりとはにかんだ笑みを浮かべて、
一人は不機嫌そうにじっとりした眼でこちらを見ていた。
「――ガハァッ!!」
こちらを見ている少年を意識すると、詰まっていたような感覚を帯びていた喉から詰め物が取れたように咳が出た。
あれはダレだ。アレはなんだアレはいつだあれはあれは。
「アレ、は――――」
ようやくと実感と重みを感じた俺は確かに今声を出せている。
そう知覚した瞬間から、
眼に映る映像の少年が俺に向かって近付いてくる。
どれくらいの時間が経ったのかもわからないまま。
眼に映る少年が丁度俺と重なったような気がした時眼前からガツンッという鈍い音がした。
ハッと気が付いた瞬間、俺はいつの間にか伸ばしていた手に不思議と穏やかな笑みを浮かべる。
「そうだ、あの景色をまた見るんだ、そのために俺は今歩いているんだ」
そう希望と力を込めて前方を見る
「 」
前方にあったのは黒々とした分厚く冷たい鉄の壁だけだった。




