表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法な世界で愛されて  作者: きつねねこ
魔法な世界で愛されて
9/32

8話

 結婚する為に自分を磨く。


 前世でやらなかった事をまさか11歳の身で行う事になろうとは。そして磨く為に始まった、お母様による淑女教育は日々私を淑女へと変えていくような、そうでもないような。確実に貴族のお嬢様という猫を被っているせいなのか、演劇の練習をしている気分です。教育熱心なお母様に引っ張られ、女優になれるのではと錯覚するほど精度の上がった猫の被り物。


 母娘共に頑張る日々の中、期待に応えようとする私に訪れたのは懐かしき思い。学校を休んで遊びたいと思った事がある高校時代。頑張りたい気持ちもあるけれど、同時に別の気持ちが膨らんでしまう。


 その気持ちに押されついつい授業前に隠れてしまう。読書もオヤツも我慢していた反動がきてしまったのです。そのような訳で自室のある場所に隠れていたのですが。


「お嬢様、お隠れになるのでしたらもう少し工夫を為さる方がよろしいかと」

「う……良く見つけましたね、スフィさん」

「ご自分の部屋の衣装タンスの中では、直ぐに見つけてしまいます」

「うぅ」


 私を呼びに来たスフィさんにあっさり見つかってしまいました。授業をサボタージュしようとした私に呆れ顔です。隠れた場所に呆れてるのかもしれません。でも体育座りでタンスの中に居ても良いじゃないですか。


「奥様の淑女教育が嫌なのですか?」

「そんな事はありません。お母様のようになれたら素敵だなぁって思いますもの。期待にも応えたいですし」

「でしたら何故お隠れに?」

「が、頑張っているんですが中々上手に出来なくてつらいなぁとか、たまにはお休みが欲しいなぁとか、王都に着たのに王立図書館も行ったことないから行きたいなぁとか思ったり、思わなかったり」


 タンスの中から出てスフィさんの質問に答えます。遠回しに言ったつもりですが、私は遊びたいんです~と言う思いが後半漏れました。でも仕方ないじゃないですか? 11歳の遊びたい盛り、淑女を目指すのは貴族の女子の義務なのかもしれませんが、たまには息抜きもしたいのです。


「そうですか。思ったり思わなかったりですか。ハァ」


 遊びたい気持ちが溢れてしまった私に向かい、深い深い溜息が。自分が仕える貴族のお嬢様が、遊びたいと我侭を言ってるからですね。子供のように衝動的に隠れてしまった事がとても恥ずかしくなってきます。ごめんなさいと謝りかけた私に、予想外の嬉しいご提案が。


「これから問題を3問だします。全てにご正解なさったら、奥様に今日はお休みをお願いしましょう」

「本当ですか!? スフィさん、ありがとうございます!」


 嬉しくて嬉しくて、スフィさんに飛び付き抱き着いてしまいます。スフィさんは苦笑しながらも受け止めてくれました。いつも冷静にお母様の命令を実行していた彼女ですが、こんなにも私の事を思ってくれていたのですね。抱き着くのを辞めて一歩離れ、微笑む彼女の出題をまちます。


「第1問、お嬢様の手を上から掴んでダンスに連れて行こうとした男性の誘いに乗りますか?」

「え? えと、誘われてるのだから乗るべきですよね?」

「そのような男に付いて行ってはいけません。そっと手を出し、お嬢様が手を添えるまで待つ男性をお選びください」

「は、はい」


 あれ? 誘いには出来るだけ乗るんですよって、お母様は言っていたような……。他にも何かおっしゃってた気はしますが覚えてませんでした。うぅ。


「第2問、魔道騎士様方の制服に使われている毛織物は何でしょうか?」

「な、なんでしたっけ?」

「羅紗でございます。見た目が良い事に加え、着心地などの実用性も高い物ですね」


 魔道騎士団は国の最高部隊であり、入団するには選出が厳しくまさしくエリート。なのは覚えていたのですが、その制服の素材までは覚えていません。


「第3問、昨今王都の奥様方の間で流行のお菓子は何でしょう?」

「あ、それならわかります。トルテですね? 先日お母様と一緒に食べたのは美味しかったです」

「正解でございます」


 スポンジ生地の間にクリームが挟まれていてケーキみたいで、と言うかケーキでした。果物が上に載せてあって、それがまた甘くて美味しくて。なんて思い出してる場合ではありませんでした。そ~とスフィさんの顔を窺って見ると、案の定呆れてました。


 自分の事を物覚えが悪いとは思いませんが、特別良いとも思いません。平均点よりちょっと上、90点なんて取れたら大勝利だった私。勉強しても知識の穴はたっぷりあります。だとすれば当然の結果なのですが、それでもちょっと悲しいです。


「そんなに落ち込まないでください。1問だけですが正解なさったので、今日の授業はお休みにしましょう」

「良いんですか!?」

「それと一つお知らせが。数日後に旦那様とサージェンス様が王都へいらっしゃいますよ」

「まぁ、そうなんですか」


 王都に来てから数ヶ月は会ってないお父様と愛弟サージェ。授業が休める上にもうすぐ二人に会えるとわかるだなんて、今日はなんて良い日なのでしょう。


「サージェが来るなら用意したい物があります。スフィさん、買い物に付き合って欲しいのですが」

「わかりました。では奥様にご許可をとってまいります」


 なんと頼もしいスフィさん。お母様だけに忠誠を誓って居たのかと思いきや、私にとっても忠義のメイドさんであったのですね。感動した私の口からは、自然とお礼が出ていました。


「スフィさん、ありがとうございます」

「いえ、旦那様方がいらっしゃると言う事で準備もありますので、お嬢様の教育は元々お休みの予定でしたから」


 スフィさんはいじわるです。






 お父様とサージェが王都へとやってきました。


 二人がやってきた日の夕食は豪勢な物となりました。とても家族4人では食べられないほどの量。貴族とは言え締めるところは締める両親ですから、家族の再会の祝いだけではここまで豪勢にしないでしょう。では何故こうなったかと言うと。


「サージェ、誕生日おめでとう」


 お父様の祝いの一言。今日は愛弟のサージェの誕生日なのです。家族に使用人も含めての立食パーティー。普段は使用人の方達とは食事は一緒にとらないのですが、この日ばかりは別なのです。10歳未満は各家だけでのパーティーが常なので、伯爵家としてはこれでも小規模だそうですが。


 そう言えば私の11歳の誕生日祝いは引越しのゴタゴタで出来なかったのですが、今後の誕生日は盛大なパーティーでも開かれるのでしょうか? 何人もの人の視線を受けて感謝を述べて、出席者に挨拶回りをして……。考えない事にしましょう。


「皆さん、ありがとうございます」


 お礼を言い回る可愛いサージェ。8歳になったサージェをリートバイト家全員でお祝いです。使用人の方達もサージェの周りに集まり祝ってくれます。気のせいか女性の方が多いような。多いと言うか女性の使用人の人達に囲まれていますね。私のサージェは大人気。


 そんなサージェとふと目が合います。するとサージェは真っ直ぐ私に向かって歩いてきました。輝く笑顔で歩いてくるのはとっても嬉しいのですけれど、お姉ちゃんっ子過ぎるのはちょっと心配。


「お誕生日おめでとう。サージェ」

「姉様、ありがとうございます」


 サージェはキラキラ目を輝かせています。これは期待されていますね。誕生日の一番の楽しみとも言えるプレゼントを。久しぶりに会った姉とのハグとかではなく、プレゼントを求める目です。期待するなら応えましょう。姉が用意したプレゼントを受け取りなさい、サージェンス。


「サージェ、これをどうぞ」

「姉様、ありがとうございます!」


 先程に倍する音量で返事が来ました。プレゼントが嬉しいのはわかるけど、もうちょっとお姉ちゃん自身に会えた事を喜んでもいいんですよ?


 姉の視線を気にする事無く、サージェは渡したプレゼントを手に嵌め去っていきます。去った先は使用人の女の人達が集まる場所。あげた乗馬用の手袋を嬉しそうに見せています。喜んでくれてるのは嬉しいのですが、何でしょうかね、この敗北感は。


「サージェに振られてしまったのかい? ミリィ」

「お父様。えぇ、残念ながら」

「あまり気にしないようにね」

「気にしていませんよ」


 サージェはリートバイト家の跡継ぎです。いつまでもお姉ちゃんっ子ではまずいでしょう。だから私にベッタリしないのは喜ぶべき事であって、気にしたりはしていません。いませんとも。


「今は恥かしがってるだけさ。今回王都へ来たのも、ミリィに会いたいと言うサージェの願いなんだよ。誕生日のプレゼントは姉様に会う事がいいですって言ってきたのさ」

「まぁ、そうなんですか」


 あらあらまぁまぁ。サージェったら恥ずかしがり屋さんですね。甘えたいなら素直に甘えてくればいいのに。甘えたいけど恥かしい、微妙なお年頃なんですね。


 温かな気持ちでサージェを見守る私とお父様。お父様の落ち着いた雰囲気は側に居ると安心します。サージェも将来お父様のようになるのでしょうか。動き回る姿を見ると、即日行動なお母様のようになる気もします。


 そんな事を考えていた丁度その時、サージェがお母様のもとへと行きます。そして楽しそうに手袋を見せ、大きな声で喋り始めます。


「お母様、見てください。姉様がくれたんです」

「乗馬の練習用の手袋ね。良かったわね。サージェ」

「はい、嬉しいです。これを使って姉様の為にも馬に乗れるように頑張ります」

「ミリィの為?」

「そうです。姉様は僕が馬に乗れるように自ら馬になり――――」


 サージェ、その話はしてはダメです。お止めなさい! 貴族の娘が自ら馬になり遊んでいたなんてお母様に知れたら……。さらにお尻まで叩かれたなんて知ったら……。しかし私の願い虚しく、無情にもお馬さんごっこの事がお母様にバレました。


 サージェの話を聞いたお母様が、ゆっくり私に近づいてきます。笑っている素敵な笑顔が怖いです、お母様。


「ミリィ、後で話があります」

「まぁいいじゃないかアンネ。姉弟なんだし、微笑ましいくらいだよ」

「リカルド、貴方にも話があります。ミリィと一緒に後で私の部屋に来てください」


 庇ってくれたお父様も何故か後でお母様のお話を聞く事に。笑顔で優しい声色でしたが有無を言わさぬ迫力が。前から少し思っていましたが、うちの一番の権力者はお母様だったりするんでしょうか。


 お説教を貰う覚悟を決めてた私ですが、パーティーが終わった後に意外な事が。お母様の部屋へ行かないで、サージェと仲良くしてなさいとのお達しが。貴婦人の鏡たるお母様が許してくれた理由がわかりません。伝えてくれたスフィさんに聞いても謎でした。


 なんだか少し不思議な夜でした。






 王都へ越してから半年もした頃。とうとうやってきました実戦の時。お母様の知り合いの貴族の方が主催する、夜の晩餐会へ参加する事になりました。


 パーティー参加は正式には二度目です。10歳の社交界デビューの時にすでに経験済み。だからと言って、一人で参加は遠慮したかった。初心忘るるべからずと申しますが、デビューの時は両親に付いて回っていたので覚えてる事も少なげです。王子様の事くらいしか覚えてません。


 私は初心そのものの気分で会場をうろうろします。お母様は自信をもちなさいと送り出してくれましたが、不安いっぱいで泣きそうです。会場に居るどの方も綺麗で派手な衣装を纏い、自信ありげな面持ちが余計に不安を駆り立てます。


 知ってる友人が居る訳でもなく、居場所なく彷徨う私。そんな私に救いの主が。目の前に広がる豪華な食事。帰る事も、積極的に誰かに話す事もできません。ならば残すは食べるのみ。殆ど自棄食いに近い勢いで料理に手を出そうとした時に、後から鋭い声が聞こえてきました。


「貴女がリートバイトの娘かしら?」


 声をかけられて驚いて振り向くと、信じられないほどの美女が立っておりました。黒髪と見紛うばかりの深い紫の長髪。髪の色に合わせた濃い落ち着いた紫のドレス。そして紫水晶のごとく輝く瞳。他の貴族の方とは一線を画す、引き込まれるような美しさ。


「違ったかしら?」

「申し遅れました。仰るとおり、私がミリアリア・ルーデ・フェス・ラ・リートバイトでございます」

「そう、やっぱり貴女がそうなのね」


 再度問われて慌てて名乗りましたが、驚きと慌てた影響で言葉と仕草が噛み合わずにギクシャクして大失敗。相手は美しさもさる事ながら、その態度でかなり上位の貴族の方だと思われるのに。


 お母様のように輝く美しさではなく、まるで対極の闇夜の月のような美しさの女性から目が放せない。私の名乗りの失敗など意に介さず、女性は私に観察する視線を向けていましが、満足したのかよく通る声で名前を教えてくださいました。


「私はイザベラ。コルベール侯爵家のイザベラ・シィズ・メア・エル・コルベールよ」


 闇夜を思わす雰囲気から、失礼とわかっていても勝手に連想してしまう私の心。連想したのは好きだったドラマに出ていたお嬢様。美しさと態度がそっくりな彼女とドラマの役所を合わせて思ってしまう。


 あぁ悪役令嬢に目をつけられてしまいましたね、と。




09/28 イザベラさんの名前を変更しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ