26話
王子様に届くように精一杯叫んだ私の想い。この世界に生きる一人の少女としての自分の気持ち。日本人だった『私』ではない、ミリアリア・ルーデ・フェス・ラ・リートバイトと言う名の自分の情念。
胸にある確かな想いを叫んだ瞬間、今までどこか他人のように思っていた『ミリアリア』と『私』が重なった気がした。前世の記憶を思い出してから受け入れていたとは言い難かった新たな人生。それを受け入れた喜びと実感。
そして同時に生まれる不安。私の気持ちは王子様に届くのかと。もしかしたら拒否されるのでは? プロポーズを断った私の想いなんて、今更受け入れてもらえないのではないかと。
ここへ来てくれた王子様に対して感じるべき不安ではないのでしょう。私を大切に思ってくれるからこそ、王子様はこの場へと駆けつけてくださったのですから。
それでもミリアリアとして初めて心からの気持ちを言葉に乗せて言ったからか、不安は拭えませんでした。頑張っての一言でしたが、様々な想いを乗せた言葉だったから。
ですが、そんな私の不安を王子様は想像を超える態度で受け止めます。
決闘の最中だと言うのに、私の声を聞いた王子様は剣を構えながら顔を此方に向けました。眼を大きく開けて驚きを隠さない表情で私をじっと見ております。
想いを乗せて応援する言葉を言いましたが、今の王子様の反応は予想すらしていませんでした。声を聞いて奮い立ってくださったり、ちらりと眼を向けてくださるくらいは考えていましたけど。
完全に正面に立っているグロームさんから視線を外し、隙だらけな気がいたしますが、よく見ればグロームさんも私と同じように戸惑っているようです。王子様の態度にどうして良いのかわからず悩んでいるのか、困ったような表情で距離を取ったままです。
「あ、あの、殿下?」
じっと見てくる王子様へ、今度は小さく声を掛けます。
決闘中に余所見をしている心配もありましたが、そうではなくて……。驚きから始まって、段々と真剣に見つめてくる王子様の視線に耐えかねて。
王子様の視線を受けて、好きな人に見つめられて恥ずかしくて堪らない気持ちと、私を見てくれる嬉しい気持ちが溢れてきます。決闘の場にそぐわないお花畑な思考だとわかってはいるのですが、止められない自分の感情。
イザベラ様もグロームさんも特に何か言うこともなく動くこともなく、王子様と私が見つめ合うだけの時間が過ぎていきます。
何時まで続くのかわからぬ静寂の中、嬉しさと恥ずかしさの天秤が恥ずかしさに傾きだした頃に、王子様が楽しそうに言葉を発しました。
「そんなに大きな声も出せたのだな。いつも本ばかり読んで大人しい娘だと思っていたのだが」
その言葉には、どこか懐かしむような響きが乗っています。
「大声を出させるほど心配させたかと思うと情けなくなる。が、それよりも殿下ではなく、名を呼ばれたことを嬉しく思ってしまうな」
真剣な顔からリートバイト領に滞在した時の様な、少年らしい笑顔で楽しそうにおっしゃいました。剣の訓練の見学に連れ出されたあの頃と同じ顔。王子様のそのお顔は、私に安心感を与えてくれます。
「心配させて悪いが、もう少し待っててくれ」
最後にとても優しい表情でそう言って、視線をグロームさんへと戻しました。
「もうよろしいので?」
「ああ。待たせてすまなかったな」
「いえ、お気になさらず。恋する男女の語らいを邪魔するほど野暮ではありませんので」
茶化すようなグロームさんの言葉に王子様は一瞬ポカンとします。それから何か納得したのでしょうか? しっかりと何度も頷いてます。
「そうだな。王子と認められなければただの男女か。うむ。事ここに至っても、余計なことばかり考えてしまっていた。グローム殿、気づかせてくれて感謝する」
感謝を述べる王子様に対して、今度はグロームさんが呆気に取られた表情になりました。私の隣のイザベラ様からもグロームさんと同じ様な雰囲気が伝わってきます。
「ここからは余計なことを考えずに頑張るとしよう。ミリアリアにも頑張れと言われたしな」
「ふふ、不思議な方ですね。貴方は」
朗らかな笑みを浮かべながらも剣を構え直すグロームさん。ゆるりとした構えと笑顔は余裕がある証拠でしょうか。
対する王子様はギュッと剣を持ち直し、ゆっくりと息を吐いてグロームさんを見ました。口元は笑みの形で。
「では改めて行くぞ! 魔道騎士グローム!」
王子様が、風のような速さで駆けて行きました。
再び始まった剣での斬り合い。
王子様と魔道騎士のグロームさんの実力差は変わらず、先程の再現になるかもしれないと心配していました。私の声援一つで覆るほど現実は優しくないと。
しかし実際に目に映る光景は違っていました。
「くっ!」
苦悶の声を上げたのはグロームさん。縦横無尽に振られる王子様の剣を回避せずに、剣で防ぐことが増えています。王子様がどんなに剣を振っても踊るように避けていたのに、微笑を崩して必死に防いでいます。
王子様の動きが早くなったのでしょうか。剣術に疎い私には状況がわからなかったのですが。
「はぁ、呆れるわね。あの王子には」
「イザベラ様?」
イザベラ様が盛大なため息を吐きました。言葉通りに心底呆れたような感じで。
戦況が変わった理由がわからず困惑していた私。イザベラ様が呆れた理由も当然わかりません。それを察したイザベラ様が苦笑しながら教えてくださいました。
「殿下は、さっき自分でおっしゃったように色々考えていたんでしょうね。貴女のことはもちろん、後を任せた部下はどうしているか、この場に来た自分は王子として今後どうするか」
イザベラ様は王子様が考えていたらしいことを次々と教えてくれます。
「事後の貴族派や王族派の動き、貴女の実家のリートバイト家への謝罪とかも考えてたんじゃないかしら。それと、たぶん私のことも」
話すイザベラ様は見たことがない珍しい表情です。
「貴女を助けるのに協力した私の兄だから、決闘だって言うのに傷つけないように手加減していたのよ」
甘いわね。と、嗜める様にそう言うイザベラ様は困ったような笑顔でした。
「まぁそんな感じで色々考えて実力を出し切れてなかったみたいね。今は貴女のこと以外は考えないようにしたんじゃないかしら」
イザベラ様の話を頷き聴いていると、空いてる右手の人差し指でちょこんと額をつつかれました。びっくりして目を見開いたら、クスクスとイザベラ様に笑われます。
「他にも御自分をただの一人の男として、格上の魔道騎士のお兄様に挑む。みたいな心構えになったんでしょうけどね。でもそんな細かいことよりも」
視線を二人へと戻したイザベラ様。私も同じ様に王子様達へと目を向けます。
「殿下は貴女の声を聞いて奮起した。それでいいのよ」
優しいイザベラ様の声を受けて、私は小さく「はい」と返事をしました。
剣で斬り合う二人。野生的な王子様と華麗なグロームさん。対照的な動きをした二人の攻防。王子様の動きが変わり、二人の戦いは拮抗していました。
けれどさすがは魔道騎士と言うべきなのでしょう。グロームさんは的確に王子様の攻撃を剣で受け、隙を突いて反撃さえしています。戦いの駆け引きや剣術の詳細はわかりませんが、それでもグロームさんが有利に見えました。
ですが、決着は意外な形でつきました。
「ハッ!」
王子様の気合一閃、私の目では捉えられない一撃をグロームさんは見事防ぎました。ところが扱う細剣は耐えられなかったようで、パキンと音を立てて刃が欠けひびが入ります。
剣が欠けたのが予想外だったのか、一瞬グロームさんの動きが止まりました。その隙を逃さず、王子様がさらなる攻撃を仕掛けます。
その結果、キンと甲高い音を立ててグロームさんの細剣が半ばから折れました。
「ハァハァハァ、剣が折れては戦えまい。ふぅ、グローム殿、大人しく降参してほしい」
「…………」
王子様が息を整えてる間、グロームさんは黙ったまま折れた剣を見ています。剣が折れたのが信じられない。といった風ではなく、感心しているように見えました。
「見事、と言っておきましょう。ですが殿下、その裁定は甘いですね」
「何?」
タンと軽い音を残して、グロームさんが地面を滑るような動きで王子様に接近しました。その動きに反応して王子様は剣を構えたのですが。
二人の影が交差した直後、王子様の手から剣が消えて、代わりに地面に転がる銀の光。
私には何が起きたのかわかりませんでしたが、柄だけになった手の剣を見る王子様の驚愕で、何が起きたのか理解してしまいました。
グロームさんは半ばから折れた細剣で、王子様の白銀の剣を根元から斬ったのだと。
「これで殿下の剣も使い物にならなくなってしまいましたね」
肩を竦め軽い調子で言うグロームさん。その姿に底知れぬ恐怖を感じてしまいます。いくら王子様が頑張っても届かない。サクライス王国最強の騎士には王子様ですら勝てない。細剣が折れた時に、無事に終わったと安心した私の心に絶望が広がっていく。
もう王子様は勝てないと諦めの気持ちになった私は、せめて最後は王子様と一緒に居たいと思い傍に行こうとしました。
けれど私の歩みは、手を繋いだイザベラ様に止められました。反射的にイザベラ様を見ると首を横に振られます。
「でも……」
「大丈夫。信じなさい」
はっきりと言い切るイザベラ様の言葉を聞いても、胸の内の不安は消えず今すぐ王子様に駆け寄りたい。その気持ちは消えることはありません。
だけど繋がる手の温かさと、何よりも目に映る諦めていない王子様のお顔が、私をこの場に留めます。
「剣で引き分けと言うなら、貴族らしく魔法で決着をつけましょうか。レグルス殿下」
決闘は、新たな舞台へと移りました。
剣から魔法へと移った決闘の場。
剣の時とは違い、廃墟の宮殿全てを揺るがす轟音が響きます。何故サクライスで魔法の才能が軍事力として考えられているのかを、まざまざと見せ付ける光景が目の前に。
「ハァァァ!」
王子様の手の平の上に生まれる赤い球。炎渦巻く灼熱の火球。手から放たれた火球は飛んだ先の柱に当たると爆発し、廃墟に残った巨大な柱を打ち崩した。貴族として最高クラスの魔法の才能。それに見合うであろう絶大な威力。
しかし相手のグロームさんも同じく貴族の最高位と言えるトリプルランクの魔法の才能の持ち主。さらに魔法を修めた最上の騎士である魔道騎士。王子様の火球を早々に見切ったのか軽々と避けています。
攻め手は王子様で火球を何個も生み出し放って有利に見えますが、決して遅くはない火球をグロームさんは回避し、逆に王子様に攻撃をしています。
パチンと鳴る指から放たれる雷光。コルベール家の雷の魔法。まさしくそれは光の速さで、王子様は回避することも防ぐことも出来ずに喰らい続けています。
剣が魔法に変わっても、いえ、剣の時よりも明らかな実力差。
所々白い衣服が焦げて黒くなり、肌が露出した部分は火傷を負っている王子様。剣で斬られた傷も合わさり、既に王子とは思えないボロボロな姿。
思わず無意識に王子様へと手を伸ばした私を、イザベラ様が引っ張ります。
「ミリアリア、少し下がるわよ。瓦礫が飛んできて危ないわ」
言われて気づきました。小さな石がパラパラと降ってきているのを。痛みを感じるほどの大きさではありませんが、雨のように落ちてくる小石は危険を感じる物でした。
巻き込まれないように私達が下がると、グロームさんが王子様へと声をかけます。
「威力は目を見張るものがありますが、余波が大きすぎますね。無駄な破壊をするなんて感心しませんよ」
「ぐあっ!?」
言葉と同時に放たれた雷光に、王子様が苦悶の声を上げます。
グロームさんの雷の魔法は一筋の光が走るだけ。王子様の火球に比べて派手さはありません。威力も王子様の魔法の方が上なのかもしれません。ですが雷光は確実に王子様を捕らえ体力を奪っていきます。
魔力量の多いトリプルランクの王子様は魔法に対して強い耐性があるとは言え、それでも見るからにダメージが蓄積しています。
もはや勝敗が見えた勝負。それなのに。
「自分が未熟なのは自覚している。グローム殿に比べれば雑な魔法の扱い方だろう。だが諦める選択肢がないなら、未熟なまま進むしかあるまい」
グロームさんの雷撃に膝をついていた王子様が立ち上がり、火球を生み出し何度も何度も放ちます。大小様々な火の玉を作り出し、時に速く、時に遅くと変化をつけて。
幾度もの雷光を浴びても諦めずに火球を生み出し放ち、建っていた柱が全て崩れても、煤や埃に塗れ全身が傷だらけになっても尚、王子様は立っていました。
「殿下、そろそろ諦めては?」
「守りたい者が居るのに諦める訳がなかろう。グローム殿こそ、覚悟されよ」
王子様の強がりとしか思えない言葉。その言葉を聞いて私の目から涙が零れます。感謝なのか悲しみなのか、自分でもわからない感情が胸を締め付けます。
ふらふらと立っているのも辛そうなのに、言葉通り諦めずに生み出し放った大きな火球。私の為に来てくださった王子様の雄姿を最後まで見ようと追っていくと、今までと違う光景が眼に映る。
「くっ、何!?」
火球を避けたグロームさんが驚き声を上げました。グロームさんの頬などには、擦り傷のような傷が付いています。事態が把握できないのか、グロームさんは雷光の魔法で反撃するのも忘れ驚愕していました。
王子様が隙を与えず次々を火球を放ちます。グロームさんはまだ混乱していた様子ですが、それでも火球は回避します。
だけど避けられた火球が爆発音を響かせると、グロームさんはまたも傷を負いました。爆煙が晴れた後には、足に鋭い何かが刺さり膝をつくグロームさんの姿。
「最早その足では避けれまい。勝負あったな。グローム殿」
「っ、これは……。狙っていたのですか?」
遠くから見ていたからこそわかりましたが、グロームさんの足に刺さったのは瓦礫の欠片。王子様の放った火球で崩れた柱の残骸。そこかしこにある残骸に火球が当たり、細かい礫となってグロームさんを襲ったのです。
「一応狙ってはいたが、こうも上手くいくとは思ってなかった」
「なるほど。わざと避けやすいように火の玉を放って柱を崩し、逃げ場を減らすと同時に攻撃手段としたのですか」
静かになった廃墟に、落ち着いた二人の声はよく通りました。
「わざと避けやすくした訳ではないな。単純に制御が未熟で、グローム殿を捕らえられなかっただけだ」
「だから柱の残骸を攻撃手段に選んだのですか。咄嗟の作戦にしては素晴らしい」
「昔似たような失敗をしたのでな」
「失敗ですか?」
「うむ。留学中に古代遺跡を守護するガーディアンと戦ったのだが、その時に今と同じ様に魔法を使い、護衛部隊を巻き込んだ」
「それはまた、酷いですね」
「グローム殿のように魔法を制御出来ていれば巻き込まなかったろうな」
お互いに認める決着がついたのか友人のように話す二人に、ほっと胸を撫で下ろします。傷ついてはいますが王子様が無事で、イザベラ様のお兄様のグロームさんも無事のまま終わってよかったと。
私はイザベラ様と繋ぐ右手の力を緩め緊張を解きました。
でもまだ終わりではなかったのです。貴族の誇り。在り方。それらは私が思うよりずっと尊いものだったのかもしれません。
「さて殿下、そろそろ幕を下ろす時間では」
「グローム殿」
「反逆した臣下を断罪するのも王の務め。失敗を認め、そこから学べる貴方の礎と成れるなら本望ですよ」
「しかし」
「でなければ、私は主命に従いあの娘を殺さねばなりません」
グロームさんの言葉を聞いて王子様が目を閉じます。それから数秒の間を置いて目を開くと、赤く燃える火球を出現させました。
グロームさんが膝をついた時点で終わったと思っていた私は、事態を見守るだけでどうしてよいか、どうするべきかわかりませんでした。そうやって困惑していると、私の右手から暖かさが消え目の前に紫の影が躍り出ます。
隣に居た筈のイザベラ様が、駆け出して行ったのです。
王子様が火球を放ったまさにその時、走り行くイザベラ様の背中が私の視界に映ります。
「ダメッ!」
声を上げ、遅れて私も走り出しました。
イザベラ様は誰に言うでもなく「必ず私が守る」とおっしゃっていました。呟きを聞いた私は、それは王子様や私のことだと思っていました。
けど走り出した背中を見て、守るの中には兄であるグロームさんのことも入っていたのだと悟ります。イザベラ様は優しい方。グロームさん自身が断罪を受け入れようとも、家族であるグロームさんの身替りになろうとするのは当然のことだったのかもしれません。
イザベラ様は、不安で心細かったパーティーで何度も私を助け守ってくれた。家の意向に逆らい王子様に協力して、私を助けに来てくれた。これからもずっと仲良くしたい大切な友人。
助けたい。
イザベラ様を助けたい。それだけを思って足を伸ばす。けれどイザベラ様との距離は縮まらずに遠く感じる。迫る火球。助けたいと思ってるのに届かない私の手。
助けられない、無理だと、私の冷静な部分が告げています。それでも!
王子様は前に言っていました。魔法は願いだと。強く願えば魔法は使えると。私の才能はシングルランクの最底辺。まともに魔法が使えるかも怪しい落ちこぼれ。
でもここが本当に魔法がある世界なら。
届いて――――!
――――――リア――――――ミリアリア――――――。
どこか遠くで、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。必死に私を呼ぶ声に引き上げられるように、暗闇に沈んでいた意識が少しずつはっきりしてくる。
「ミリアリア! 目を開けてくれっ!」
声の言うとおりにゆっくり目を開けると、目の前に泣きそうな顔の王子様が。
「ミリアリア、どうして。ごめんなさい。守るって言ったのに」
少し視線を下にすると、涙を流して謝るイザベラ様が。
「ぁ…………」
二人にどうしたのかと尋ねようとしたのだけれど、上手く声が出ませんでした。
「今治すからな。すぐに治すから、無理をするな」
「すぐに殿下が傷を治してくれるわ。だからしっかりしてミリアリア」
私を心配してるらしい二人を安心させようとしたのですが体が動きません。寝起きの時のような曖昧な思考で、何故二人が私を心配してるか考えます。考えてもふわふわした感覚ばかりで何も思いつきませんでしたが。
「私の代わりに、なんで貴女が」
イザベラ様の言葉でなんとなく思い出しました。私はイザベラ様を助けることができたのですね。
「俺がもっと早く気づけば。うくっ、絶対に治すからな。ミリアリア」
涙を流した始めた王子様を見て、申し訳ない気持ちになりました。イザベラ様を助けられたようですが、代わりに私が火球に当たってしまったのですね。
胸の辺りが温かなのは王子様の回復魔法なのでしょうか。とても優しい温かさで気持ちよく感じます。動けない体に痛みがないのは、王子様のおかげなのですね。
火球に当たってしまったのは、もっと上手に助けることができなかった私の自業自得。ですが私が元気にならないと、きっと王子様は私を傷つけたと後悔してしまうのでしょうね。好きな人が自分のことでずっと後悔するのは嫌だなぁと思いはしますが、段々と体の感覚が薄れ意識も保てなくなってきました。
「ミリアリア! ダメよ! 目を開けて! 閉じちゃダメ!」
私の意識を繋ぎ止めようと必死に叫んでくださるイザベラ様。
「ミリアリア! 頼む! 目を閉じるな!」
泣きながら懸命に温かな魔法を掛けてくださる王子様。
あぁ、二人に出会えて良かった。
消えそうな意識の中で、大切な二人の顔を見続けました。もうぼやけてよく見えなかった。王子様の表情がわからなくて、イザベラ様は二人居るように見えていた。
体の感覚が消えていくのが怖かった。自分の意識がなくなっていくのが怖かった。けれど二人が傍に居てくれたおかげでしょう。
最後まで、私は幸せでした。




