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魔法な世界で愛されて  作者: きつねねこ
魔法な世界で愛されて
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20話 イザベラ・コルベール その2

 太陽が沈み闇が世界を支配する刻、友人のミリアリアを迎えに来た者が居ると使用人から報告があった。しかしそれは妙な話だ。今日ミリアリアはうちに来てないのだから。


 本来ならこのような時間の訪問は内容に関わらず追い返す。けれど私は胸騒ぎを覚え、迎えに来た人物と会うことにした。迎えに来た人物はミリアリアの屋敷で見たことのある使用人だった。


「スフィと言ったかしら、ミリアリアを迎えに来たってどういうこと?」

「ミリアリアお嬢様は、昼間にイザベラ様のお屋敷へ向かうと言って外出なさったのです。ですが日が暮れてもお戻りになられないので、馬車で迎えに来たのですが」

「順を追って詳しく話しなさい」


 詳しく聞くと予想外の話をされた。まずミリアリアがレグルス王子のプロポーズを断ったですって? 断った理由を誤魔化そうとされたが問い詰めて白状させた。理由を聞いて王子のことを思って身を引いたのは彼女らしいなと思ったけど、あの王子はその位では諦めないって考えなかったことの方が彼女らしい気がした。


 その次に、断ってからずっと落ち込んで居たというのにはさらに驚いた。ミリアリアは失敗をしたり嫌なことがあっても笑顔で居る娘だったから。年下なのに落ち着いていて大人びた印象の彼女が、他人から見てわかるほど落ち込むのは相当なことでしょうね。それだけ王子のことが好きだという裏返しなんでしょうけど。


 そして最も予想外だったのは、彼女が一人で歩いて外出したこと。日中、雨が降る中を歩いてうちへ向かったそうだ。落ち込んでる時に私を頼ってくれるのは嬉しいが、その行動には頭を抱えた。


 ミリアリアはあまり家格や地位には拘っていない。普段の様子から貴族や平民と言った身分差すら気にしていないと見て取れた。それに彼女は私以上に政治に興味がない。だからだろうか、今の自分の立場がわかってなかったのだろう。第一王子が自分の屋敷に毎日通うと言うことが貴族社会でどう思われているかを。


 表向きには何もなくとも彼女を利用しようとする者は少なくないはずだ。貴族派はもちろん中立派とて放っておけない存在。レグルス王子側の王族派だってどう動くかわからない。利益、名声、嫉妬。様々な理由で狙われる可能性がある立場なのだ。


 だからこそ先日レグルス王子を詰問して本気か確認を取ったと言うのに……。まさか王子がプロポーズを断られるとは思わなかった。その結果、ミリアリアが一人で出歩くなんて想像外だ。あの二人は揃って私の予想を裏切ってくれる。


 ミリアリアに何かあったのは確実だろうから急いで動かなくてはいけない。


「スフィ、貴女はリートバイト邸に戻って周辺を探しなさい。周辺を探して見つからなければ屋敷で待機すること。他のことについては私がやるから」

「はい。イザベラ様、どうかよろしくお願いいたします」


 私の態度で彼女も現状を理解したのだろう。頭を下げた彼女の顔は青ざめているようだった。一人での外出を許可したことを後悔し、自分を責めているのかもしれない。落ち込むミリアリアを想ってのことだし、平民だけに貴族の暗部を理解していなかったのは仕方ないと思う。


 スフィと別れ部屋を出た私は早足である部屋に向かう。ミリアリアの捜索にはコルベール家の力が必要だ。けれど私にはコルベール家の権力を使う権利はない。家の権力を使える立場、表立ってコルベールを名乗れるのは二人だけ。次期当主であるお兄様ともう一人。そしてミリアリアが王子関連の陰謀に巻き込まれたとしたら、今必要なのは本当の意味でコルベール家を動かせる人物の助力。


 望んで入ったことのない父の執務室。そこに急いで向かった。






 父の執務室に入りミリアリア捜索の為に力を貸して欲しいと頼んだ。レグルス王子に貸しを作ることにもなるし、リートバイト家にも恩を売れる。将来の王と王妃に対して貸し付けが出来るのだからと説得してみたのだけど、父の答えは決まっていたかのように鋭かった。


「今回の件、お前は動くことを禁じる」


 父の返事で直感的に悟る。ミリアリアが行方不明になったことにコルベール家が、父が関連しているということを。もしかしたら断られるかもしれないとは思ったが、まさか関わっているとは思っていなかった。だから反射的に声を荒げてしまった。


「それはコルベール家が貴族派だからですか!」

「貴族派だから……か。そうだと言えばお前は納得するのかね?」


 荒げた口調と気持ちが急速に萎んでいく。冷静な父の言葉に怯んでしまう。静かに私を見る眼は、試されているようで言葉が直ぐに出てこない。


「お前が彼女を身内として扱っていたのは知っている。だが今回の件には関わるな。それが安い同情であるなら尚更な」


 言われた内容は私の心を言い当てる。小柄で大人しいミリアリアを守りたい気持ち。可愛いけどパッとしない容姿やシングルランクに思う所もある。言われてみれば年下の彼女を下に見た安い同情であるかもしれない。


 けれど父の言葉を受け入れられない私は、今更ながらに何故ミリアリアの為に動こうとしたのか自問する。本当に同情しているからなの? と。答えは直ぐに出た。


「同情ではありません。私は彼女に恩を受けました。そして約束しました。何かあれば力になると」

「恩を返す為、約束を守る為、か。なるほど」


 ミリアリアは私と一緒にパーティーに参加していた。一緒に居ることで私は誘いが減り、彼女は一人で頑張るより出会いが増え相手を探せる。どちらにも利があるとお互いに納得した関係。でも実際は私の為に彼女は一緒に居てくれたのだ。


 彼女は結婚相手を欲していなかった。実家から言われて婚活していると言っていたが、本人は結婚相手を欲していないので顔を売る必要なんてなかったのだ。なのに私と一緒に居てくれたのは、私のことを想ってだろう。結婚したくないと言った私の為に自分を盾にしてくれていた。


 レグルス王子と一緒の彼女を見てよくわかった。きっと王子が留学から帰るのを待っていた彼女は、私の為に誘いがないパーティーに参加してくれてたんだと。ダンスの誘いすらないパーティーに参加する辛さを、私の為に耐えててくれてたんだと。


 2年もの間、その辛苦を味わわせていたのだ。その恩義が在るにもかかわらず、彼女の窮地に何もしない訳にはいかない。自分の中の明確な理由を元に、強い意志を篭めて父を見つめる。


「理由はわかった。だが今回の件で動くということは政治の舞台に立つということだ。政治には関わるまいとして居たお前に、その覚悟はあるのか?」

「あります」



 真実かわからぬことを嘯き、見えない駆け引きをして騙すことも厭わぬ輩がいる政治の世界。嫌悪し拒否していた。でも今後もミリアリアとレグルス王子に関わるなら、手助けをするなら避けては通れない道。先日の王子と会談をしてからいつかはと考えていた。その覚悟が今必要だと言うなら、覚悟を決めることに迷いはしない。


「即答とはな。考えた上でだろうが中々良い覚悟だ」

「ではミリアリアの捜索を」

「待て。お前の覚悟は認めよう。その上で聞くが、今回の件が政治的なしがらみがあるとわかったのなら、対応によっては関わった者の身も安全ではないとわかるな? それは想像出来ていたか?」


 自分が政治の舞台に上がる覚悟はある。何かしらの処罰を受ける覚悟も。しかし関わった者、この場合はコルベール家全体という意味でしょうけど、そこまでは考えていなかった。私の行動で家全体が、父や母や兄まで処罰を受ける? 王子に関わる問題だとしたら最悪は極刑なのに?


 想像して怖くなった私に父が声をかけてきた。父らしくない柔らかな口調で。


「すまんな。前に進もうとしている娘に脅すようなことを言っては父親失格か。安心するといい。今回の件でお前がどう動こうと、お前とロクサーヌの身は安全だと保障しよう」

「……お父様?」

「お前は人心掌握術や話術では並みの貴族を大きく超える。研鑽を積めば、将来駆け引きでお前に勝る者は稀だろう。自信を持て」


 過去にない父の発言。ロクサーヌお母様と私の身の安全を保障し、褒められた覚えがない私のことを褒めている。思わぬ言葉に嬉しさはあったが、私の中の冷静な部分は気づいてしまった。名前を出さなかったことでお兄様も関わっていると。


 お兄様について尋ねようとしたが、その前に父が机から何かを出した。無銘の封蝋がされた封筒が私に向けて差し出される。


「別の手段でと思っていたが、リートバイトの娘を早急に助けたいならこれをレグルス殿下へ渡すといい。……いや、中身を見るかも、誰に渡すかもお前が選べ。自らの思うとおりにするがいい」


 差し出された封筒を受け取り父を見た。厳しい雰囲気も試すような視線も変わらないが、どこか喜んでいるように見えるのは気のせいだろうか。


「ありがとうございます。お父様」

「朗報を期待する」


 礼を言い部屋を出る時に聞こえた言葉は、前に聞いたことのある淡白な言葉だった。けれど今日聞くその言葉には、背中を後押しするような父親らしい感情があった気がする。


 手紙を手に収めたまま使用人に命じ馬車の用意をさせ、着の身着のままで急いで馬車に乗り、月夜の中を出来る限りの速度で進ませる。私が成すべきと思うことを成す為に。


 レグルス王子が居る王宮へと。




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