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魔法な世界で愛されて  作者: きつねねこ
魔法な世界で愛されて
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1話 マリアンネの日記

 リートバイト伯爵家へ嫁いでから一年、待望の子供がやっと産まれた。


 生まれてきたのは可愛い女の子。

 現当主である夫リカルドと二人で喜んだ。

 私達の何よりも大切な宝物。

 ミリアリア・ルーデ・フェス・ラ・リートバイトが誕生したのだ。






「エスタ、ミリィの様子はどうかしら?」


 愛娘が生まれて5年。

 ミリィが生まれてから毎日が楽しい。

 声を上げた。ハイハイした。立ち上がった。歩けるようになった。言葉を喋った。日々の成長を見るだけで心が満たされる。


 そんな愛らしい娘の様子を使用人のエスタに尋ねた。


「今日もしっかりとお勉強をなさっていますよ。文句も言わずいつも通り自分から勉強部屋に行っておりました」

「あらまぁ。ミリィはお勉強が好きなのかしらねぇ」


 3歳頃から知性の光を宿したミリィ。

 本が読みたいから文字を教えて欲しい。そう言ったのは今も忘れられない。


「なんでも『遊ぶ事が何も無いから、暇つぶしに勉強するしかない』そうですよ」

「暇つぶしに勉強ねぇ。でも今あの子が習ってるのって確か……」

「王国史ですね」

「5歳にして文字を覚えて国の歴史を学ぶなんて、天才かしら?」


 3歳から2年かけて文字を習得したミリィ。

 話し言葉も最近はつっかえたりせず、自然と話せるようになった。やはりうちの子は天才に違いない。


「可愛いだけじゃなく頭もいいなんて、ミリィは凄いわね」


 人形遊びや子供同士の戯れではなく、勉強を遊びにしている事に一抹の不安はある。でもそれ以上に我が子の優秀さが嬉しい。そして可愛い。


「だけどちょっと子供っぽさが足りないのよねぇ」

「子供っぽさと言えば、ちょくちょくサージェンス様の部屋に行っているようですよ。お着替えをさせてみたいと担当のメイドに言っては、困らせてるそうです」

「へぇ、ミリィも弟が出来て嬉しいのかしらね」


 一年ほど前に生まれた愛息子のサージェンス。

 ミリィと同じく可愛い我が子。


 子供は自分より年下の子をお世話したくなるものよね。可愛い赤ん坊のお世話をしたくて堪らないのね。ミリィも弟思いの可愛いお姉さんという所かしら。赤ん坊のサージェのオムツを、ミリィが替えてるのを想像すると微笑ましいわ。


「ミリィは良い子過ぎなのが悩みだわぁ」


 悪戯をしない上に勉強をしっかりするミリィ。

 親としてはもっと我侭を言って欲しい。


「贅沢な悩みよねぇ」






 ミリィが8歳になった頃。


 ここ最近、茶会に集まった奥様方のお子様達の面倒を見てくれていたミリィ。彼女が良い子だと思って放任しすぎた。まさかこんな問題が起きるなんて。


「ミリィ、貴族が平民に対して簡単に頭を下げてはいけません!」

「うっ」


 少し怒った声で言うと体をビクッと震わせる。

 可愛い愛娘が怖がるのは嫌だけど、こればかりはしっかり言わねばならない。


「でもお母様、私がお皿を割った片づけをしてもらうんだから……」

「彼らは私達が雇い、私達に尽くす為に居るのです。お礼を言うだけならまだしも、頭を下げる必要はありません!」

「うぅ」


 完璧な子だと思ってたけれど、貴族としての立ち振る舞いが出来てない。

 挨拶の仕草や言葉使いが丁寧で気づかなかったが、基本的な部分が抜けていた。私達貴族と平民の立場の違いを理解していないとは。


「でもお母様、平民の人達が居るからこそ、貴族が居る訳で」

「私達貴族が国を維持しているからこそ、平民が暮らせるのです」


 私の言葉を聞いて俯くミリィ。

 あぁ、ミリィの俯く姿なんて見たくは無い。けれど、親として彼女にしっかり教育しないといけない。貴族としての存り方を。


 この日、ミリィにたっぷりと貴族としての存り方を説きました。

 頭が良くてとても優秀なミリィなのに、何故か最後まで納得してくれなかったけれど。






 ミリィが10歳を迎えた日。


「ミリィ、貴女もリートバイト家の一員として社交の場へ出る年齢になりました」


 10歳になった貴族は社交界デビューをするのが通例。

 その年になれば貴族の子女は美しく着飾り、華の社交界へデビューする。大人と同じ様にパーティー用のドレスや化粧をする事になる。ミリィくらいの年の女の子なら、大人と同じ様に着飾る事が解禁される今日という日を大喜びする。


 だと言うのに、うちのミリィは。


「あ~、お母様、私は煌びやかな宝石で着飾ったりしなくてもいいかなぁと思うんです」

「何を言ってるの?」

「私はお母様やお父様やサージェの様に華やかではありません。顔の造詣も地味ですし、髪なんて私だけ茶色でますます地味ですし」


 確かに私達家族の中でミリィだけが茶色い髪をしている。

 夫や私、ミリィの弟のサージェンスも金髪で、ミリィの茶髪よりは派手かもしれない。しかしそんな事は問題でないくらいミリィは可愛い。親の欲目であったとしてもだ。


 それよりもミリィが髪の色の事を気にしていたのに驚いた。

 頭が良くて言われた事は直ぐに実践できる優秀な(平民に対する態度は除く)ミリィが、髪の色で劣等感を抱いていたなんて。

 聞き分けが良すぎて嫌な事が無い聖人なのかしら? と思ったけれど、この子にも普通の人の心があった事に安心すると共に、なんとかしてあげたくなる。


「大丈夫よミリィ。貴女の茶色い髪の毛も綺麗だもの。それに貴女は美人よ。私の子なんだから自信を持ちなさい」


 特別目を惹く美しさはなくても、ミリィにはホッと落ち着く雰囲気がある。子供らしくない落ち着いた雰囲気は、側に居ると不思議と安心感を与えてくれる。それは私を含め、一般的な貴族の女にはないものだ。

 顔の造詣だって悪くない。美しいとされる貴族の女性は確かに派手と思うくらいの煌びやかさがある。しかしそれは攻撃的な美しさ。ミリィはそれとは違い、雰囲気に合ったおっとりした顔をしている。目尻が下がり気味で優しそうなのよね。


「貴女は一見ではわからないけど、とっても魅力的なのよ。一緒に居ると安心感があってずっと一緒に居たくなるのよ」

「それは家族だからではないでしょうか。お母様」


 それも多分にある事は否定しない。

 でも理解してるのかしら? 貴女が面倒を見た貴族の子供達は皆貴女が好きだと言う事を。ミリアリアに会いたいと子供が言うからこそ、私が主催する茶会に参加する方も大勢いるのよ。自分の子供とミリィの婚約の申し入れもあったりして、決まっていない婚姻関係の問題もあるので言えないのがもどかしい。


「なんにしてもリートバイド家の長女なのだから、次の王城での夜会に参加してもらうわよ」

「貴族の……夜会……。私の……パンピーが……無理」


 ぶつぶつ何事かを言っているミリィに近づく。

 そして両頬をムニッと摘み引っ張る。あら、柔らかい。


「いひゃいれす。おふぁーふぁあ」

「今日からしっかりお化粧やパーティーでのマナー、それにダンスを仕込んであげます。喜びなさい」

「ふぁーい……」


 了解の返事を聞いて頬を放す。

 ミリィ、誰よりも美しく着飾ってあげますからね。






 ミリィの社交界デビューが終わった数日後。


「ハァ……」

「どうしたんだい? アンネ」

「どうしたんだい? じゃありませんわ」


 二人きりの部屋で、夫のリカルドは本当に分からない顔でこちらを見る。

 やる時はやる人ですが、普段のおっとり具合はミリィの父親に間違いない。


「ミリィの事ですわよ。先日のパーティ以降、部屋に篭って本ばかり読んでますのよ」

「それは前からだろう? 領地視察に行く度に本をねだられる」

「それでも前は『3時のオヤツ』と言ってお菓子を食べに出てきたのに、最近はそれすらなくなりましたのよ」

「ふ~む」

「きっと夜会での出来事がショックだったのですわ」


 社交界デビューは貴族として公の場に出る初めての時。

 顔を売るのと同時にもう一つやるべき事がある。魔力測定をして、自分の魔法の才能を世間に見せるのだ。


「ミリィは魔法を学ぶのを楽しみにしてましたから、あの結果がショックだったんですわ」

「なんでだい? ちゃんと魔力があったじゃないか」

「ハァ、トリプルでもダブルでもなく、きっとシングルランクの魔力だったのがショックなのですわ」


 貴族が魔力を持っているのは当然の事。

 しかしその中でも階級が高い方が尊ばれる。一般的な貴族の魔力はダブル。王族や大公と言った家柄ならトリプルも珍しくない。さらに例外の、国家に一人居るかどうかの天に愛された才能があればクアドラブル。伝説の中では、さらにその上のクインタプルなんて言うのもあるが。


「あの子、自分はきっと魔法の才能があると思ってたからショックなのよ」

「ふむ、ミリィがかい? 大人顔負けの知識がありながら、自分をまだまだだと謙遜するあの子が?」

「そんな表面だけ見ていてどうするのです。母親の私にはわかります。あの子は間違いなく、自分には魔法の才能があると思っていたはずです」


 そもそも社交界デビューをするのも、魔力測定後は魔法の勉強が出来るから参加した節がある。そんなあの子が魔力量シングル、平民でも稀に居るクラス。貴族でははっきりと落ち零れと言える。


「そうなのかい? ショックを受けてるとしたら、てっきりレグルス殿下の誘いを断った事かと思ったんだけどね」

「それもまぁ……問題ですが」


 恥かしかったのだろうけれど、まさか第一王子レグルス様の誘いを断ってしまうとは。レグルス殿下も断られるとは思ってなかったのか、見るからに不機嫌になられた。それを見たミリィは何故か清々した顔をしていたが、やはり実は後悔していたのかしらね?


 陛下と夫はそれなりに仲が良いので、あまり問題はないとは思います。ですが確かに、普通に考えたら王族の誘いを断るのは大問題ですわね。


「それについても何かしたほうが良いかしら?」

「その事なんだけどね。レグルス殿下が近々うちの領内を後学の為に視察にいらっしゃるそうなんだ」

「……なんですって?」


 このタイミングで視察?

 パーティーでうちの娘にダンスの誘いを断られた。

 その数日後に視察の連絡が来た?


「まさか……!」


 ミリィ、魔力が人並み以下でショックを受けてる場合じゃないわ! すぐに逃げ支度を! ミリィを国外留学に……もしかしたらリートバイト家を潰す気かしら? だったら一家で隣国に亡命をしなくては。


「あなた、すぐに荷物をまとめましょう」

「ははは、思い立ったら即実行はミリィそっくりだね。あぁ、ミリィが君にそっくりなのか」


 私もミリィもそんなに直情的で考え無しではありません。

 リカルドは何が楽しいのか笑っています。結婚する相手を間違えたかしら。


「そんな呆れた目で見ないでほしいね」

「能天気な夫をどんな目で見ればよろしいのか、是非教えてほしいですわね」

「そんなに簡単に切られるほど、私は能無しなつもりはないんだけどなぁ。陛下と直接会えるくらいには、国に貢献している自負はある」


 リートバイト領は国の見本だ。

 そう言われるとほど豊かで治安が良い。その手柄は夫のものと言えばそうかもしれません。そこまで言われている我が家を、王家と言えども簡単には潰さないとは思いますが……。


「我が子の為なら目が眩み、伯爵家の一つや二つ潰しますわ。私ならそうします」

「あぁ、うん、君がどれだけミリィとサージェを愛してるかわかったよ」

「何を今更」


 二人の為なら世界とだって戦いますわ。


 そうね。そうだわ。逃げる必要なんてなかったのですわね。王家がうちを潰そうとするならば正々堂々と迎え撃てばよろしい。


「あなた、すぐに戦の準備をしましょう」

「アンネ、落ち着いて」

「我が子の危機なのです。落ち着けるはずがありません」

「大丈夫。危機じゃないからね。実は殿下が視察に来る本当の理由は――――」


 夫から知らされた視察の真意。


 それを聞いて行く内に喜びが湧いてくる。


「さすが私の娘ね!」


 あぁ、部屋に篭ってるミリィに早く伝えなくては!




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