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魔法な世界で愛されて  作者: きつねねこ
魔法な世界で愛されて
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16話

 王子様が私の住む屋敷に通う様になってから月日が経ち、季節も春から夏へと変わりました。


 愛弟サージェの社交界デビューのパーティーまで家族と離れ一人王都の屋敷に住む私。今年は第一王子様が15歳を迎えると言うことで、お誕生日の冬に大々的にパーティーが行われます。その時のパーティーが毎年行われる10歳の社交界デビューの為のパーティーも兼ねるそうです。


 家族と再会できるのはまだ先のこととして、それまでは王都の屋敷を守るのが私の使命。実際はスフィさんをはじめとした使用人の方々が守ってくださり、私はおんぶに抱っこで守ってもらっていますけど。


 そんな使用人さん達が守ってくれてるお屋敷に、今日は王子様以外のお客様が来ています。前もって連絡があった訳ではございませんが、来てくれたことが嬉しいとても大切なお客様です。


 現在お客様を歓待する為に紅茶を出してテーブルを囲んでいます。いつもと同じようにやって来た王子様、予定になかった大切なお客様、そして私の3人で。


 来てから黙って席に着きお客様を見ていた王子様。私が紅茶を注ぐと一口お飲みになってから、ゆっくり口を開きます。


「何故イザベラがここに居る」

「私とミリアリアは友人ですので、遊びに来ただけですわ」

「他意はないと?」

「そうですわね。私の可愛い妹であるミリアリアに悪い虫が付いてないか、それを見に来たと言えばよろしいですか?」

「なるほど、妹扱いするほど仲が良いと言う訳か」


 優しい笑顔で王子様と会話するお客様ことイザベラ様。どうやら王子様が通っていることを知ったからか、心配して見に来てくださったようです。心配してくださったこともそうですが、友人だとか妹だとか親しい感じに言われて嬉しく思ってしまいます。


「ミリアリア、さっき殿下に紅茶をお注ぎしてたけど、いつもやってるの?」

「はい。いつも殿下に紅茶をお出しする時は私が淹れて注いでます」

「使用人にやらせずにミリアリアにさせるのは、殿下のご趣味ですか?」

「あ、昔と同じように私が用意していましたが、私よりも上手にできるスフィさんに頼んだ方が良かったですね」

「待て! 昔と同じ思い出の紅茶が飲みたいのだ。だからミリアリアが注ぐのが良い」

「へぇ、殿下はミリアリアが良いんですか」


 紅茶は淹れ方注ぎ方で味が変わりますし、その道のプロであるスフィさんがした方が良いと思ったのですが、王子様は思い出の味として私がするのを御所望と。はっきりそう言われると嬉しいものです。王子様の為にもっと上手に淹れられるようになりたい。と思いましたが、思い出の味が御所望だとしたら上手にならない方が良いのでしょうか?


「そういえば殿下、今日は話し方が随分と乱暴ですわね」

「公式の場では王子として振舞って丁寧に喋っているが、昔なじみのミリアリアと会う時はこの喋り方をしている」

「ミリアリアと会う時は特別と言う訳ですか」


 だから先日の茶会に付いて来た時は紳士然とした話し方だったんですね。あれは王子としての王子様だったと。私と会う時は私に合わせて昔と同じようにしてくれてたと。王子様の気遣いが嬉しいですね。中身は子供のままと思っていましたが、ちゃんと成長してたようです。


「その特別なミリアリアですが、今日は見てどう思いますか?」

「どうとはなんだ。いつもどおりのミリアリアだろう」

「そうですわね。いつも真っ直ぐ伸ばしてるサイドの髪を結んで可愛らしくしてますわね。毎日通ってらっしゃるのにお気づきになられませんでしたか?」


 スフィさんに言われ毎日違ったおしゃれをしています。ちょっとしたことなのですが、気づいて褒めてくれると嬉しいです。王子様は気づいてなかったようですが仕方ない気がします。おしゃれの仕方が地味な上に元々が地味ですし。


「ミリアリアはいつも、その、なんだ」

「なんですか? はっきり仰ってくださいな」

「イザベラ様、そのくらいにしてください。殿下が可哀想です」


 我侭で通って私に迷惑をかけていると思っているからか、イザベラ様は王子様をお仕置きにきたみたいです。私を守ろうとする気持ちは嬉しいですし、手加減はなさっているようですが、王子様が少し不憫です。


「殿下が来てくださるのは私も嬉しいので、いじめないであげてください」

「別にいじめてた訳じゃないわよ。ただちょっと悪い虫を退治しようとね」

「まるで俺が悪い虫のような言い様だな」

「そうですね。違ったようで何よりですわ。臣下として一言申し上げますが、殿下はもう少し色々と女性に気を使ったほうが良いですわよ。私のお兄様のように」


 イザベラ様は善意で言ってくださってるようですが、王子様があまり女性に気を使うのはちょっと好ましくありません。知らぬ間にあちこちで恋焦がれる人が出そうな気がいたします。王子様が女たらしになっては嫌なので、ここは話題を変えましょう。


「前からお聞きしたかったのですが、イザベラ様のお兄様はどういう方なのですか?」

「ミリアリア、お兄様に興味あるの?」

「ミリアリア、グローム殿に興味があるのか?」


 話題を変えようと質問したら二人同時に声を重ねて驚かれます。イザベラ様のお兄様は魔道騎士団員で、王都でも有名な方ですから興味があって当然だと思うのです。だから私が興味を持っても驚くことではないと思うのですが。


「まぁミリアリアならいいかしら。お兄様はね、魔道騎士になれるほど文武両道の才能があるのに、それでも自惚れる事無く性格も良いのよ」

「文武両道ですか」

「えぇ。特に魔法の腕前が凄いのよ。さすがトリプルランクよね」


 イザベラ様が楽しそうに教えてくれます。その様子から本当にお兄様のことを慕ってらっしゃるとわかります。


「トリプルランクと言えば、殿下もそうですが」

「俺もそうだが、グローム殿ほどの腕はまだない。威力は負けぬ自信があるが制御がな」

「お兄様は威力ばかり考えるその辺の魔道師とは違うのよね。無駄を省いて最小限の魔法を使うことが出来るんですもの」


 シングルランクの私には縁がない魔法の話題。その話題で気持ちが盛り上がってまいります。魔法がある世界なのに魔法の話題に飢えてた私。


「やはり殿下は雷の魔法が使えたりするんですか? 他にも治癒系の魔法とか使える万能タイプ?」


 王族で真っ直ぐで勇者っぽい王子様。なんとなく前世の勇者像を思って聞いただけなのですが、質問すると王子様は言葉に詰まり、代わりにイザベラ様が教えてくれます。


「雷はコルベール家が得意な魔法ね。サクライスで雷と言えばうちの家よ。どこの国も王家は多種多様な魔法を使えるけど、殿下の得意な魔法は」

「火の魔法だな。治癒系は自己回復はできるが他者に対しては得意ではない。ミリアリアは雷の魔法に特別な思い入れがあるのか……」


 私の質問に気落ちした様子の王子様。王子様が落ち込んでる姿は見たくはありませんし、原因が私なら何とかしたいのですけれど、火も王子様の熱血さに合ってて格好良いと今言ってもダメそうな気がします。


 元気づけようと考えて、珍しく方法を思いつくことが出来ました。王子様はきっと魔法に関しても努力をしているはずですよね。でしたら魔法について語ってもらい、いつも私に勉強したことを話す時のように元気を出していただきましょう。


「殿下、魔法とはなんでしょうか? 魔法を学んだことのない私に教えていただけますか?」

「なんだ、ミリアリアは学んだことがないのか」

「はい。シングルランクですので学ぶ機会がありませんでした」

「そうか。ならば簡単に教えてやろう」


 機嫌が良くなったのか見慣れた自信溢れる笑顔でございます。王子様はやはりこの顔が一番ですね。笑顔の王子様を見ていると私まで笑顔になります。


「魔法とは願いだな」

「願い、ですか?」

「あぁ、魔力を代償に願いを現実にする。それが魔法だと思う」


 願いを現実にする。その言い回しはちょっと素敵な感じがします。


「魔力が多い者が才能があるとされるのは、魔法を発動させるのに多くの魔力を使えば魔法が発動しやすく威力も大きいからだな。さらに魔法を防ぐにも魔力を使うからだ。魔力の多い者ほど他者の魔法の影響を受けにくい」

「やっぱりランクが高い方が良いんですね」

「基本的にはそうだが、強く願えば魔力が少なくても効果が大きい魔法を使えるから、一概には言えないかもしれん」

「まぁ、そうなんですか」


 もしやシングルの私にもちゃんと魔法が使えるかも。そんな希望が目の前に。ちょっと魔法の勉強をしようかなぁと思った私に追加情報が入ります。


「とは言えシングルランクではな」


 申し訳なさそうに告げる王子様。わかってました。わかってましたよ。そうだろうなとわかってました。わかっていても落ち込む私にイザベラ様がお声をかけてくださいます。


「魔法が使えなくても気にしなくていいわよ。私も使えないし」

「イザベラ様は確かトリプルランクでは?」

「そうよ。でも魔法を覚えて戦場に行くのは男の役目だもの」


 あぁそう言えば、この世界の魔法使いは兵力で才能を表すのでしたね。魔法が文武のどちらに入るかと問われたら、明らかに武の方へ入るのでしょう。文科系の私とはとことん相性が悪そうな。


「しかしだな。さすがにトリプルの才能は貴重だろう」

「ねぇミリアリア、女としては自分で身を守るより守ってもらいたいわよね?」

「それはそうですね」

「ですって、殿下」


 か弱い乙女としましては、守るより守られたいのは当然です。いつも茶会のメンバーを守っているイザベラ様も、やはり本音は誰かに守ってもらいたい乙女なのでございましょう。言ってからずっと王子様を見ております。まさかとは思いますが……。


 イザベラ様の守られたいお相手は、王子様だったりしませんよね?






「行くぞ、ミリアリア」

「はい、殿下」


 今日は王子様と一緒にイザベラ様のお宅へとお出かけです。茶会ではなく先日遊びに来てくださったお返しに、今度は私が遊びに行く訳です。考えてみるとミリアリアとしては友人の家に『遊び』目的で行くのは初めてです。パーティーや茶会と言った行事では何度もありますが。


「先日はイザベラに言い様に言われたからな。今日はそうはさせん」

「よくわかりませんが、殿下を応援すればよろしいですか?」

「うむ」


 私以上にやる気と言うか行く気に満ち溢れている王子様。イザベラ様が遊び来る時は殿下もご一緒にとおっしゃってたのですが、お二人はかなりの仲良しさんなんですね。


「俺とて真面目に考えているということをわからせてくれる」


 楽しそうにおっしゃる王子様とご一緒にイザベラ様の屋敷へと向かいます。親しくしている王子様とお友達の家に遊びに行く。そう考えるだけで私も楽しくなってきます。






 イザベラ様の住んでるお家、コルベール侯爵邸へとやって来て案内されたのは豪華なお部屋。黒塗りの見るからにお高そうな家具の数々。細かに作られた華麗なシャンデリア。白と青のシンプルながら優美な色合いのティーセット。


 いつもの茶会でも絢爛豪華な雰囲気ですが、今日案内されたお部屋はそれ以上の豪華さを感じます。あまりに豪華すぎて椅子に座るのも戸惑われてしまいます。私が庶民感覚だからではありません。微かにある貴族の令嬢としての感性でもちょっと気圧されるお部屋です。


「殿下、ミリアリア、来てくださり歓迎いたしますわ」


 煌びやかに光る夜空のような黒色のドレスを纏うイザベラ様が歓迎をしてくれます。それは嬉しいのですが、あのドレスは本気の時のイザベラ様でございますね。パーティーで誘いを本気で断る時に着ていましたが、今日は何に対して本気なのかはわかりません。


「歓迎してくれている所悪いが、今日はお前に話がある」

「まぁ奇遇でございますね。私も殿下とお話したいことがございましたの」


 不適に笑い見詰め合うお二人。やる気に満ちている王子様。普段は案内されない豪華すぎるお部屋。本気のドレスを着ているイザベラ様。これはまさかそういうことでございましょうか。でしたら私が言う言葉は。


「あとは若いお二人にお任せして、私は席を外しますね」

「お前が一番若いだろう」

「貴女が一番年下でしょ」


 お約束の台詞に対して二人同時にツッコミが入ります。息が合っているお二人を見て自然と笑みがこぼれます。


「どうせまた勘違いしたのだろうが、気が抜けるな」

「ミリアリアは天然ですからね」

「大丈夫です。わかってます。今のは狙って言ったんです」


 芯が強くて頑張り屋さん。それにしっかりと周りの人のことも考える。我が強く振舞ってはいても、実は優しいお人好し。似たもの同士な二人はお似合いだなぁとは思います。けれどもちゃんとわかっています。


「お二人は仲良しですが、恋仲ではないとわかってますよ」

「前提がすでにおかしい気がするんだが」

「ミリアリアですから」


 あれ? おかしいですね。何故か二人はため息をついています。もしや私の勘違いで、お二人は恋仲だと言うのでしょうか?


「殿下、これ以上ややこしくなる前に行きましょう。ミリアリア、私は殿下とお話があるから待ってて」

「ミリアリア、菓子でも食べて待ってるがいい。余計なことを考えずにな」


 そう言い残して部屋を後にするお二人。そして豪華すぎな部屋に残された私。どうやらお二人のお話が終わるまで、ここで待っていなくてはいけないようです。


 とりあえず部屋を見渡すことにします。結果再確認するお部屋の豪華さ。さすが大貴族コルベール家のお部屋です。茶会で慣れたと思っていましたが、王族を招く時のお部屋は格別ですね。庶民気質な私では場違いな気がしてなりません。


 部屋の中で右往左往すら出来ずに立ち尽くして居ると、ギギィと部屋のドアが開かれます。しかし残念ながら早々にお二人が戻ってきて一安心、とはなりませんでした。


「殿下がいらっしゃっていると聞いてご挨拶に伺ったのだが」

「レグルス殿下でしたらイザベラ様とお二人でお話があるそうで、別室にお行きになられました」

「なるほど、情報感謝しよう」

「いえいえ」


 入ってきたのは長身の生真面目そうなおじ様です。背筋をしっかり伸ばして姿勢がよく、言葉もはっきりとおっしゃり、まるで学校の先生のような雰囲気です。生徒側っぽい私も反射的についつい背筋を伸ばします。


「ところで君は誰かね?」

「私はリートバイト伯爵家のミリアリアと申します」

「君がか。あぁ、先に名乗らずにすまなかったね。私はイザベラの父親で名をグノーシスと言う。コルベール侯爵と言う方がわかりやすいかもしれないね」


 長身の先生はイザベラ様のお父様であるコルベール侯爵でございました。国政に携わるお大臣な大貴族その人でございます。名を知り今更ながらに緊張を……何故かしませんね。偉い人過ぎて実感がないのでしょうか。


「イザベラめ、殿下と話とは言え客人を一人で待たせるとは。申し訳ないことをしてしまったね。代わりといってはなんだが、殿下と娘の話が終わるまで私が歓待しよう」

「イザベラ様のお父様、そんなに気を使わなくても大丈夫ですよ」

「客人を持て成すのは当主としての義務でもあるのだよ。それに娘と仲良くしてもらっている君と一度話してみたかった。ふむ、だとすると私はお願いする立場か。では改めてリートバイトの姫君、良ければ私との歓談にお付き合い頂けないかな」


 厳格な雰囲気を保ちつつも、私を姫君とおっしゃる茶目っ気を覗かせます。おかげで豪華すぎる部屋の雰囲気が若干和らいだ気がします。明らかに私に合わせて柔らかな態度で接してくださるのは、さすがと言うべきでございましょうか。


 相手は大貴族のご当主様ですが、同時にお友達の父親でもございます。貴族としては自信がない私でございますけれど、友人のお父さんと話すくらいは大丈夫。お父様の態度にも何故か親しみを感じますし。考え無しな気はしなくもないですが、言ってしまいましょうこの気持ち。


「私でよろしければ」


 友人の家に遊びに来て、友人の父親とお茶することになりました。




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