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魔法な世界で愛されて  作者: きつねねこ
魔法な世界で愛されて
16/32

15話

 イザベラ様主催の茶会へやってきた王子様と私。お連れした言い訳を悩んだり、いつも自由に振舞う王子様が何かしないかと心配したのですけれど。


「イザベラ殿主催の茶会に参加出来るとは光栄です」

「こちらこそ殿下をお招き出来て恭悦至極に存じますわ」

「先日のパーティーの時の約束でしたので」

「そうですわね。先日のパーティーでお約束してましたわね」


 茶会の会場に王子様を連れたまま行くと、お互いに笑顔で会話を始めたイザベラ様と王子様。会話から察するに、王子様の帰還祝いのパーティーの時にでも茶会に招く約束をしてたのでしょう。


「ミリアリア、頼んだとおりに殿下をお連れしてくれてありがとう」

「いえ」


 そんな訳はありませんよね。王子様は今日急について来るって言ったのですし。にっこり笑顔のイザベラ様に見えない汗を垂らして返事します。あの笑顔は勝手に何してるの? か、後で話があるわよ、辺りでしょうか。それがわかるくらいに仲が良いのは喜ぶべきことでしょう。


「レグルス殿下がご参加するなんて驚きです」

「前もって教えてくださらないなんて、イザベラ様もお人が悪いですわ」

「美しき華と有名な貴女方を驚かす為に、内緒にしてもらっていたのです」

「まぁ美しいだなんて」


 積極的に王子様に話しかけるルクレツィアお姉様とルセットお姉様。お二人共年頃の乙女ですから、美形な王子様に美しいと言われ顔を赤くしております。でも実は一番顔を赤くしているのが、喋らず見守っていた婚約者が居るミザリィお姉様です。


 黙って静かにしてる私を他所に馴染んでいる王子様。お姉様方と笑顔で会話をしております。心配が杞憂に終わり何も問題が起きないことにびっくりですが、何よりも驚くべきは今の王子様その人です。


「ルクレツィア殿は気が利く賢女。ルセット殿は快活で明るく親しみやすい。ミザリィ殿は優しい淑女。イザベラ殿は社交場の高嶺の花として。有名な女性方と席を共にして、緊張して失礼をしてしまわないか心配になってしまいます」


 誰でしょうか、この紳士的な男性は。背後に薔薇でも咲きそうな笑顔と雰囲気です。私の知ってる王子様は悪戯っ子のようにニヤリと笑うはずですが、喋り方も丁寧で気遣いに溢れております。本当にこの人は誰でしょう?


「殿下、ミリアリア様のことが抜けておりますわ」


 見た目が王子様の別人さんを見ていたら、ミザリィお姉様がそう言いました。心優しいミザリィお姉様は何も言われてない私のことを気にしてくれたのでしょう。


「ミリアリアは……。昔からユーモアに優れていて私を楽しくさせてくれますね」

「殿下はミリアリア様と個人的に話すほど親しいのですか?」

「3年前にリートバイト領に勉学に行った時に知り合い、何度か会話をしまして」


 横に座る美男子さんはやはり王子様のようでした。私にだけ敬称がなかったり、誉める前に間があったり、内容が誉めてない気がするので。


 私に関する内容はさて置いて、とても紳士に見える王子様。そう言えば再会したパーティーでも貴公子然としてました。今の姿は王子らしいと言えばらしいです。ですがいつもの遠慮ない物言いのほうが慣れ親しんでるので違和感が。


 茶会は王子様の昔話で盛り上がっています。リートバイト領で領地運営の勉強をした頃のお話です。私の過去の失敗、王子様を放置して本を読んだり、サンドイッチを拾って食べる所を見られたり。その手の話が出るかと思えば、そこはぼかしてくださる王子様。気を使ってくれたのでしょう。しかしそれに距離感を感じてしまいます。


 懐かしい思い出で盛り上がりはしましたが、王子様を少し遠くに感じる茶会でした。






 お姉様達に王子様がお帰りになり、茶会が終わったにもかかわらず跡地に残る私。何故残って居るかと言えば、それはもちろんイザベラ様とのお話の為でございます。


「ミリアリア、殿下を連れて来た理由を聞きましょうか」


 とても魅力的な笑顔のイザベラ様。まずいことをしたなぁという自覚があるだけに、笑顔で見られているのに私の心はざわつきます。


「え~と、何と言いますか」

「あったことを素直に言えば良いのよ」


 そう言われても、事実をありのまま言って良いのか悪いのか。国の王子様が子供のような我侭でついて来たと知られたらまずいような? でも王子様に口止めされている訳でもないので良いのでしょうか。


 私にとっては王子様の我侭は微笑ましいことですが、他の方はそう思わないかもしれません。良くも悪くも有名人の噂は広まるものです。だから良く思ってる王子様の御為に、事実と違うことを言ってはみたのですが。


「社会勉強に茶会に参加したいと言われたって? それなら直接私に話がくるでしょ。本当のことを言わないとお仕置きよ」

「うっ」


 あっさり嘘を見抜かれます。私がイザベラ様の表情である程度感情がわかるように、イザベラ様も今では私の表情から察してしまうのでしょうか。下手な考え休むに似たり。イザベラ様はお優しい方ですし、こうなれば真実を話して王子様の変な噂が出ないように、ここだけの話としてお願いしましょう。


「実は――――」


 我が家に王子様が紅茶を飲みに通っていることを伝え、お相手出来ないと言ったら用件も聞かずについてきたことを話します。途中からイザベラ様は驚いた顔をして、まじまじと私を見てきます。


「以上が事の顛末になりますが、このお話は他の方には言わないでほしいです」

「そんな話、下手に言える訳ないじゃない。貴女自分が何を話してるか理解してるの?」


 王子様が茶会に参加した理由を話しただけですが、そんなにまずいことなのでしょうか。愛弟サージェの我侭と同じような感覚で居るのですが。小さい頃に比べれば話し方や表面上は貴族の令嬢っぽくなったとは言え、未だに感覚の根底が庶民な私です。


「レグルス殿下がお茶目な我侭を言ったお話、ではないのですか?」

「はぁ、本気でわかってないみたいね。私も半信半疑だし、仕方ないかしら」


 私にはわからない何かで悩んでおられるご様子です。原因が私にあるようなのでどうにか手助けしたいのですが、理由に思い当たらないのが問題です。


「まぁ大体理由はわかったわ。貴女も我侭に付き合わされて災難ね」

「私は嫌ではなかったので良いのですが、イザベラ様にはご迷惑をおかけしました」

「いきなり王族を連れてきて驚きはしたわね。でも気にしなくていいわ。皆喜んでたしね」


 ここからは取り留めのない雑談が始まりました。イザベラ様の婚活に関する愚痴が主ですね。ふた回りは違う相手から恋文が送られてきたとか、生まれたばかりの赤ん坊を紹介されたとか。引く手数多なイザベラ様は大変そうです。


 そんなことを少し楽しそうに話していたイザベラ様が、気づけば真剣な表情で私を見ていました。イザベラ様の深い紫の瞳に見られると、全てを見透かされているような気がしてきます。真面目な雰囲気を保ったままに、イザベラ様が重い口調で語られます。


「ミリアリア、殿下のことで困ったことがあれば言うのよ。殿下のこと以外でも、面倒事があれば言ってきなさい」

「そうすると今日みたいにイザベラ様にご迷惑をおかけしてしまうのでは」

「そうかもしれないけど、私がそうしたいんだから良いのよ。友人の力になりたいと思うのはダメかしら?」


 その言葉にキョトンとしてしまいます。イザベラ様のことは勝手ながら友人だと思っていましたが、まさかイザベラ様の方から言ってくださるとは。ちょくちょくと迷惑をかけていたであろう私が、お友達認定されていたことに凄く嬉しい気持ちになります。


 笑顔で返事を待ってくださるイザベラ様に、精一杯の心を込めて伝えます。


「嬉しいです。ありがとうございます。イザベラ様」






 連日我が家で紅茶を飲む王子様。来る度に楽しいお話をしてくださるのですが、今日は何やらそわそわしています。


「殿下、多忙でお時間がないのでしたら、今日はもうお帰りになられては?」


 いつも紅茶を1,2杯飲んで帰る王子様ですが、今日は最初からそわそわしていて時間がないようです。性格的に来たからにはきっちり話をせねば! などと考えてそうなので、私からご提案してみた訳ですが。


「いや、時間はある! 時間はあるのだ。手をかけていた仕事がとりあえず終わってな。今は時間があるんだ」

「そうなんですか。でしたらゆっくり落ち着いてお話ができますね」

「そうだな。そうなのだが、くっ」


 時間が出来てゆっくり出来るという割りに、カップを持って一気に紅茶をお飲みになります。普段は王族らしく、紅茶は一口ずつ優雅にお飲みになられますのに。


 やっぱり本当は時間がないのでございますね? 会話も途切れ途切れになりますし、どこか焦っている気配を感じます。元は空気が読める日本人、おまけに心は年上お姉さん。言い出せない意固地な男の子の気持ちを察してあげます。


「待っていた私に気を使って無理しなくていいんですよ」

「待て、ミリアリア。お前何か勘違いをしているぞ」

「殿下、お嬢様、ご提案がございます」


 突然スフィさんが声をかけてきました。いつもは壁際に控えて静かに立っているのですが、何故か大きな声で話しかけてきました。王子様が居る時は小声で作法を注意されることはあっても、ここまではっきり何かを言う姿は初めてです。


「提案か。発言を許す」

「ハッ。お時間があるのでしたらお二人で出かけてみるのも良いのでは」

「なるほどな。ミリアリア、どこか出かけてみたい場所はあるか?」


 王と騎士のようなやり取りで、どこかへ出かけることに決まったようです。問われて考えても思い浮かぶ場所は一つだけ。インドア派の私が出かけたいと思う場所と言えばあそこです。


「王立図書館でしょうか」

「む、図書館か。お前らしいが図書館では本を読むだけになってしまうではないか」

「殿下、申し上げたき儀がございます」


 またもスフィさんが声を上げます。そして王子様の耳元でなにやらごにょごにょ話しています。スフィさんが話し終わって離れると、王子様が感謝するとおっしゃいました。王族に感謝されるとは、一体何を言ったのでしょうか。


「ではミリアリア、王立図書館へ連れて行ってやろう」

「はい、ありがとうございます」

「あ、あぁ」


 私が行きたい場所だったのでお礼を言った訳ですが、言った瞬間に顔を逸らす王子様。いつもなら私の顔を見ながら返事をくださるのに何故でしょう?


 紅茶を飲みに来たはずの王子様と、どうしてか王立図書館へと行くことに。一緒に紅茶を飲むだけではなく、出かけられることになんとなく嬉しさを感じます。


 早速とばかりに立ち上がった王子様について行き、王子様御用達の馬車に乗り、馬車の中で二人きり。ここでなら内緒の話も出来ますね。覚悟を決めて王子様へと質問をいたします。


「殿下、先ほどスフィさんはなんて言ったんですか?」

「ん? あの使用人の忠言のことか。ちょっとした助言だな。まず喜ばすのが基本だと。あとはまぁ武運を祈られた」

「武運、ですか」


 あの時の二人は王と騎士と言った感じでしたから、御武運をとかの台詞は似合いそうです。しかしこれから行くのは図書館ですよね? 行くのは戦場とかではありませんよね?


 結局詳細は教えてくれず、スフィさんの発言は謎のままとなりました。






 やってきました王立図書館。治安の良い王都の中心部にあり、入場料も貴族ならば無料で本が読み放題。本=娯楽と認識している私にとっては、素晴らしいアミューズメント施設でございます。


「随分楽しそうだな」

「それはもう。来たのは2回目ですので」

「前に一度しか行ったことがないと言ったのは本当だったのか」


 図書館の中を二人で歩きながら小声で話します。話しながら見渡せば、沢山の本棚に仕舞われた本の群れ。本の一つ一つに物語があり、それぞれに別世界が広がっているのです。どの世界へ旅立つか、迷う楽しみは尽きません。


「そこまで嬉しそうにされると連れて来たかいがあるな」

「はい殿下、本当にありがとうございます」


 自分一人で図書館に来ようにも、スフィさんは基本的に外出は馬車での移動しか許可してくれません。私の趣味の為だけに馬車を出すのが申し訳なくて、気軽に来ることが出来なかった訳なのです。


 にこにこ笑顔でお礼を言うと王子様は背中を向けます。そのことで頭も下げずに笑顔だけのお礼だったことに気づきます。しっかりと淑女教育されたはずですが、昔と同じ失敗を繰り返してしまいます。


 改めて貴族の淑女らしいお礼をする為に王子様の前へと移動します。そしてにっこり笑いかけて口を開こうとした時に、王子様に両肩を捕まれてしまいます。肩に触れられドキリとしている私に王子様が。


「ここは図書館だしな。お互い別れて読みたい本を探そう」

「は、はい」

「読みたい本を見つけたら、貴族用の読書スペースがあるのでそこで落ち合おう。わかったな?」

「わ、わかりました」


 そう早口で告げてどこかへと去っていきます。どうやら王子様は直ぐにでも読みたい本があったみたいですね。


 私はと言えばびっくりしてドキドキしている胸を抑えてます。弟のように思う王子様ですが、肩に手を当てられた状態で視線を上にし顔を見たら、さすがにドキリとしちゃいます。近くで見るととっても綺麗な瞳でした。


 思い出すと恥ずかしい。ですので忘れる為にも良さげな本を探しましょう。王子様のように素敵な男性が出る本を――――って、何を探そうとしてますか。お互いに意識せずとはいえ、男性に肩を抑えられてあんなに近くで見つめられたのは初めてで、全然忘れられそうにありません。


 ならば本を探すのではなく、読むことで忘れましょう。そして目に入る近くの本棚の上段の本。タイトルから政治関連の著作と思われます。黒塗りのシンプルな装飾でお堅そうな雰囲気です。このドキドキを解消するのにとても良い感じの本でしょう。


 本を取る為に上段へと手を伸ばします。ですが背の低い私では中々上手く取れません。自分の背が低いのを知ってるくせに、どうして上段の本に目をつけたかと自問して、先ほどの王子様を思い出して同じ角度で顔を上げたせいだと返答が。


 忘れたいのに忘れてくれない私の思考。前世も含んで、あんなに近くで男性と見詰め合ったことがないから仕方ない。そんな言い訳が浮かんでしまいます。


 そんな風にもがいて本が取れずにいた私の後ろから、そっと本へと伸びる手が。


「この本でいいのかな?」

「あ、はい」


 振り返ると本を取ってくれた手の主が、丁寧に取った本を渡してくれます。取ってくれた方は王子様にも負けぬほどの美形な男性。紫の髪に紫の瞳、物静かな雰囲気はどこか夜を思わせます。初対面のはずですが、何故か初対面の気がしません。


「ありがとうございます」


 お礼を言うと男性は軽く会釈を返して去っていきます。言葉少なく当たり前のこととして手を貸してくださった男性の態度に誠実さを感じます。そのおかげか私の心も落ち着きました。


 受け取った本を持って読書スペースへと向かいます。善い人が居るなぁと、暖かな気持ちで手に持つ本を見て思いましたが、同時に残念な思いも一つ。どうしてこの本を選んだ過去の私。


「政治の本に興味はないんですが、読まないといけませんよね」


 手を貸してくださった男性に感謝して、新たなジャンルにチャレンジです。






 王立図書館からの帰りの馬車の中、そこでお互いに別れていた間のことを話そうとなりました。


 王子様は知人の方に出会ったらしく、その方が図書館で調べ物をして知識を得ていることに感心のご様子です。自分も負けずに頑張るとおっしゃる姿は、きっと将来素晴らしい国王になると思わせてくださいます。


「俺の方はそんな感じだ。ミリアリアはどうだった?」

「私はですね。手が届かなかった本を取ってくださる方が居ました」

「ほう。善い者も居るものだな」

「はい。本を渡してくださる時も丁寧でしたし、紫の髪をしたとても素敵な方でした」

「何?」


 急に王子様の顔色が変わります。いつもの自信溢れる笑顔から、ちょっとだけ不機嫌そうなお顔へと。失礼なことをした覚えはないのですが。


「そういえばミリアリアは結婚相手を探していたな。それにイザベラの茶会にも参加している。まさかコルベール家はそのつもりなのか?」


 一人ぶつぶつ呟き始める王子様。最初の言葉から察するに、内容が私の婚活についてのようです。王子様は私の婚活の心配をしてくれてるのでしょうか。心配せずに済むようになるかわかりませんが、重要なことをお伝えしなくては。


「殿下、私が結婚相手を探していることなのですが」

「う、な、何だ?」

「現在は探していませんよ」

「それは相手が決まったということか?」

「決まっていません。見つけるのを諦めただけです」


 2年以上も活動してダンスの誘いの一つもなかったのです。さすがに諦めて田舎へ帰ろうと思いますとも。最近はイザベラ様に誘われない限り、パーティーには参加していないのです。王子様が紅茶をご所望でなかったら、今頃きっとリートバイトの実家で小姑修行をしてたでしょう。


「決まってないのはよいが、なんだ、諦めることはないのではないか? きっと相手が見つかるはずだ。俺が保障するぞ」


 私を慰める為かそう言ってくださいます。少し落ち込んでいる私に明るく話しかけてくださいます。優しい笑顔でさりげなく両手を握って元気付けてくれました。


 帰りの馬車の中、王子様の優しさが嬉しかったです。




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