14話 レグルス王子の憂鬱 その2
3年ぶりに帰国し、父王に帰還の報告を終えて王城の中を歩く。懐かしき場所のはずだが意外と覚えていないものだ。ほとんど初見のような印象を受ける。
「殿下、一つお聞きしたい事が」
人がいない廊下を進んでいると背後から声をかけられた。声をかけてきたのは留学中にギシェルの紹介で出会い、側近として仕えるように誘った男だ。今は相談役となったギシェルが紹介するほどの人物で、その能力には疑う所がないのだが。
「なんだアルベルト?」
「ここは先程通った気がするんですが?」
「気のせいだろう」
「気のせいじゃない。あんた迷ったろ」
同盟国の子爵家の三男で有能な男なのだが、口の悪さで上役と揉めて官吏を辞めたらしい。ギシェルが推薦した最大の理由が歯に衣着せぬ物言いをする事だったので納得だ。三男なので家が継げずやる事無く腐っていた所をギシェルと共に訪れ部下にと誘った。アルベルトから見れば拾った俺は恩人で、普通は恩人には下手にでるだろうに。
「何にやにや見てるんですか」
「お前の素直に正しい事を言う姿勢に感心していた」
「つまり迷ったんだな?」
3年ぶりに戻った王城であるし、よく考えれば昔は謁見の間やらの政治関連の場所にはあまり来なかった気がする。この場所に懐かしさではなく初見の印象を受けるのも当然か。
「まぁ良いではないか。今迷っておけば次は迷うまい」
「会った時から思ってたが、あんたどんだけ前向きなんだ」
言葉だけではなくわざわざ手を広げ態度でも気持ちを表す。他国出身であるから、サクライスの王子である俺を敬う気持ちが少ないのはわかる。しかし仕える相手にここまでの態度を取れるとは、心の底から感心する。
「にやにや見ないでくださいよ。皮肉言って笑顔向けられると変な気分になるんですよ」
「そうか。では顔を向けずに済むように歩くか」
アルベルトが言うとおり、皮肉を言って笑顔になられては変な気分にもなるのだろう。だが本音を隠さずに言う事に好感を抱いてしまうのだから仕方ない。自分でも変な感性だという自覚はある。そしてこうなった原因ははっきりしている。
あの本好きは元気だろうか。3年前と変わらずに窓辺で本を読んでいるのだろうか。丁寧な口調でとぼけたように皮肉を言う変わり者。今だからわかるが、その言葉には優しさが篭められていた。父王や亡き母上と同じような親愛の――――。
大切な思い出を思い返していると前から二人の男が歩いてくる。黒髪黒目の長身の男と紫髪紫目の青年。見知った顔の二人だ。
3年の月日で成長した俺を第一王子レグルスであると、見ただけでわかる者は帰国してから今のところ居なかった。父王ですら王子の証明として預かっていた物を返却した時に確信を得たようだった。正式な帰国発表は今後されるので、謁見の間に居なかった前から来る二人も気づくまい。
「これはレグルス殿下、留学より無事のご帰還、心よりお祝い申し上げます」
そう思ったのだが2人はすれ違う大分前に立ち止まり、俺に向かって最上の礼を行った。戸惑いや疑心はまったく感じない礼と言葉に驚いた。相手の確信めいた態度に王子としての言葉で対応する。
「祝辞は快く受け取りましょう。しかし3年ぶりだと言うのに、よく私がレグルスとわかりましたね。コルベール卿」
「それは当然でしょう。サクライス王国、その王家に仕える者として次代の国王陛下をわからぬはずがありません」
黒髪の男、コルベール侯爵グノーシスは礼をしたままそう告げる。声をかけ申し合わせていた様子は無いので、戸惑う事無く礼をした紫髪の青年も同じ意見なのだろう。さすが始祖の代から王家に仕えるコルベール侯爵家の当主、それに麒麟児と噂に高い息子のグローム殿と言う所か。
「とは言え、無根拠にわかった訳ではございません」
「コルベール卿、良ければ理由を聞かせていただきたい」
どんな理由でわかったのか興味はある。だがそれだけではなく、側近として迎えたアルベルトに我が国の大貴族コルベール侯爵の人となりを見せる為でもある。が、やはり興味の方が大きいか。顔を上げた侯は滑らかな口調で説明を始める。
「では僭越ながらご説明させて頂きます。まず殿下ご自身の事ですが、成長なされても麗しい金の髪に碧の瞳、何よりも自信に溢れた雰囲気はお変わりになっておりません」
「昔と変わらぬ雰囲気ですか」
「これは失礼いたしました。言い方に語弊がありました。3年前に比べ言葉遣いも雰囲気も落ち着いております。ですが王族としての殿下の輝きは変わらぬと申し上げたかったのです」
「世辞は要りません。続きを」
「はっ。もう一つは我が国の貴族ならば私を前にすれば何かしら反応が見えます。それがないのは王族の方々でしょう。この事と殿下の見た目の特徴から推測させていただきました。さらに言えば国外の来賓の可能性も考えましたが、殿下が一般的に婚姻を考える節目の15歳を前にお戻りになられるだろうと、ご帰還の時期も考えておりましたので」
コルベール侯爵家より家格が上なのは王家と公爵家のみ。下位の貴族はもちろん、同じ侯爵位の者でも見かければ立ち止まり挨拶をかわそうとするか。確かにすれ違い通り過ぎようとした俺にはその気がなかったな。
コルベール侯は説明し終わるとグローム殿を連れて立ち去った。言った理由以外にまだまだ理由がありそうだったが気を使われたか。彼の言葉遣い、態度、その全てに敬意が含まれており、しかし決して自分を貶める物はなかった。侯が完全に立ち去ると自然と深く息を吐いていた。
「あれが貴族派のトップのコルベール侯爵ですか」
「あぁ。アルベルト、覚えておくと良い」
「忘れられませんよ。あんな怖そうな人」
軽口や皮肉が多いアルベルトの感想が怖そうだけとは。珍しい黒髪黒目の見た目もそうだが、何よりも侯の威圧が怖いと思わせたのだろう。彼と話しているとこちらも相応の能力を求められる気がするからな。侯の前では言葉を発する前に自分の考えが正しいか悩んでしまう。そこでふと重要な事に気づいた。
「しまった。失敗した」
「貴族派に対して何かまずい対応でしたか?」
「いや、コルベール卿に道を聞けばこれ以上迷わずに済んだではないかと」
俺の言葉を聴いて口を空けてポカ~ンとするアルベルト。その表情はあまり他人に見せるべきではないと思うのだが、注意するべきだろうか。アルベルトは優秀なので意図してやっているかもしれん。余計な気遣いか?
「あんた、すげぇな……」
「何がだ?」
アルベルトは特に返事をしなかった。誉められるような事をした覚えはないのだが、皮肉屋の彼が誉めるとは珍しい事もあるものだ。
「う~む」
執務室に篭り、机に置かれた大量の資料を前に腕を組み悩む。構想は留学中に考えていたが、いざ纏めようとすると難しい。
「国力向上と民の生活基準の向上。どのような方向で纏めるか」
上手く纏まらぬ思考を何とかしようと、パラパラと資料をめくる。めくっても良い考えは浮かばずに無駄な時間が過ぎる。こういう時に力を発揮する為に連れて来た男がいるのだが、その人物は現在部屋に居ない。
暫く一人で悩む時間が続くと、気軽な調子で部屋に入ってくる者がいた。
「お~、殿下、頑張ってますね」
「頑張ってますね、ではない。手伝えアルベルト。留学の成果として陛下に政策を献上せねばならんのだ」
「手伝いたいんですが、まだ無理ですよ」
主を放っておいてどこかへ行く。その上、手伝えと直接言ったのに断るとは。俺に仕えている自覚がないのだろうか。怒りに任せて断罪する前に一応理由を聞くとしよう。
「無理とはどういう事だ?」
「僕がサクライスに来てまだ数日です。前もってサクライスの事を学んでいたとは言え、現地での常識や習慣の齟齬はあります。まずはそれを解消する必要がある」
「その為に出歩いている訳か」
「えぇ。それに貴族間の力関係なんかも知りたいですし、情報を仕入れるのに役人に顔を売る必要もあります。この国では新参者の僕としては、殿下のお手伝いをする前にやる事が一杯あるんですよ」
アルベルトの言葉を聴いて冷静になっていく。言う事がいちいち尤もとだ。正しい知識を持たずに政策案の手伝いをすれば、致命的な過ちをしないとも限らない。アルベルトが言う事は正論だろう。
「そうか、わかった。だがそれは出来るだけ早く終わらせてくれ」
「わかってますよ。だから早く済むようにギシェル先生と一緒に回ってます」
知識だけではなく、自らの目で見て回るのはギシェルの教えを受けた生徒らしい考えだ。ギシェルも協力しているなら、そんなに時間はかかるまい。おそらく俺の側近として必要だと思う事を優先して覚えているはずだからな。
「政策のお手伝いはもう少し時間がほしいですが、とりあえず殿下が知りたいだろう情報を持ってきましたよ」
さすがアルベルト。今出来る事で成果を出すとは。側近に迎えた男の有能さに感激しながら情報とやらに耳を傾ける。
「殿下が話してたリートバイト伯爵の娘さんの情報を仕入れてきましたよ」
「む、ミリアリアの事か」
「そうですが、聞きたくないんですか?」
留学中アルベルトにミリアリアの話はした。彼女のように自然と平民の立場で考えたり出来るようになりたいだとかを話した。3年前の別れ際にもっと一緒に居たいと思った気持ちは忘れていない。今どうして居るか知りたいし、会いたいとも思う。しかし留学した成果を出してから胸を張って会いに行きたい。なのでまだ彼女の今を聞く段階ではないのだが。
「部下が自分の為に持ってきた情報だ。主としては聞くべきだな」
「別に聞いてくれなくてもいいですよ。まぁ殿下が素直に聞きたいと言えば教えましょう」
にやにやと楽しそうな顔で見てくる。本当に楽しそうだ。どうやら俺が聞きたいと言わねば、詳細を教える気は無いらしい。部下に良いようにされている気はするが、知りたいので悔しさを篭めて言う事にする。
「知りたいので教えろ」
「あ~、殿下のその潔さはいいですね。面白くはありませんが」
「さっさと教えろ」
「はいはい、では教えましょう。彼女はここ数年、王都に住んで数々のパーティーに参加して結婚相手を探しているようですよ」
「なんだと!」
俺が必死に勉学している間、あいつは結婚相手を探していただと! 俺が14歳だからあいつは13歳のはずだ。13歳で結婚相手を探すのは早すぎるだろう! いや、ここ数年と言うから11歳や12歳からか? まさか俺と別れた直後からか!?
「で、殿下、そんなに怖い顔で睨まないでくださいよ」
「ミリアリアの結婚相手はもう決まったのか?」
「ま、まだらしいです。彼女はちょっとした有名人で、今夜もパーティーに参加するそうですよ」
そうか、今夜もパーティーに参加するのか。婿候補にダンスに誘われて踊ったりするのだろうか。想像しただけで怒りがこみ上げる。アルベルトに手伝いを断られた時の比ではない。
「今夜参加するパーティーの事を詳しく教えろ」
「良いですけど、知ってどうするつもりで?」
「俺も参加する」
「は? 本気ですか?」
「当然だ」
ミリアリアには成果が出てから会いに行こうと思ってた。しかしそれでは先にあいつの成果が出てしまう気がする。結婚相手と並び挨拶に来るミリアリア。それを俺は受け入れられるだろうか。
「帰国発表前に勝手にパーティーに参加してどうする気ですか」
「やはり王子とバレてはまずいか?」
「こっそり参加して参加者にバレたらまずいでしょうよ」
「よし、ならば別人として参加する」
そう言った自分の言葉に良い考えが浮かぶ。知らぬ間に結婚相手を探していたミリアリアを驚かせてやろう。俺だと知っていればダンスの誘いを断りそうだが、成長した今ならわからないだろう。誘えば彼女はどうするだろうか。驚かせる事を主眼に置いた我ながら子供っぽい事だと思うが、ミリアリアを誘ってみるのは決定だ。
「手配はしますが、行った先で問題を起こさないでくださいよ」
「了解した」
献上する政策案も何もかもどこかへ行って、驚くミリアリアの事だけが楽しみだった。
「どうしたんですか? ぼけっとして」
アルベルトの声を聞いて力が抜ける。どうやら椅子に座って呆けて居るように見られたようだ。ミリアリアの家から戻ってずっと思索に耽っていたせいか。
「ぼけっとしていた訳ではない。献上予定の政策案を変更しようと考えていた」
「纏まりかけてたのに、なんでですか?」
「ミリアリアの話を聞いたからだな」
「詳しく」
ミリアリアとした会話について語る。俺も昔よりは平民の視点から考えられるようになったつもりだったが、彼女はそれ以上だ。職業を選ぶ自由や、領地移動の緩和による観光業まで考えていた。そこまで行くと平民の視点というよりはもはや。
「ミリアリアって娘は学者なんですか?」
「急くな。まだまだあるぞ。ミリアリアが言うには、金は国中を回ってこそ豊かになるそうだ。物の流通がしやすいように街道の整備を行えば、地方の特産品も流通しやすくなって地方も活気付く。全ての道は王都へ通ず。とかも言っていたな」
「その娘は宰相にでもなりたいんですか?」
国のあり方を問うような彼女の言葉にそう思うのも無理はない。平民視点で物を考えられると思ってた彼女だが、国単位でも考えられるようだった。自分は成長したと思ったがまだまだだった。負けた気はするが、嬉しい気持ちの方が大きい。
「ミリアリアは学者ではないし、宰相になろうといった野心はないだろうな」
「国の未来、それも具体的で明らかに実施後の結果まで考えてるのに?」
「たぶん、なんとなくこうなったら良いんじゃないかと思ってるだけな気がする」
直接会えばあいつのお人好し振りがよくわかる。いつも微笑を絶やさずに相手を気遣う。自分の事よりも目の前の人の事を優先する。俺やアルベルトが驚くような事を言っても、それは単純に善意からだろう。
「ミリアリアはな、俺に対しても使用人に対しても態度がかわらないんだ」
「それって殿下が侮られてるのでは?」
「そうではない。使用人が何かすれば礼を言い、自分が間違っていれば謝る。平民に対しても丁寧な態度なのだ」
誰に対しても謙虚さを持ち合わせている。貴族ならば多少は傲慢にもなろうはずがミリアリアは違う。俺を王子として敬っているが、決してそれは特別な事ではない。使用人達にも敬意を払っている。だからこそ側に居て安らぐのだろう。王子ではない俺個人として見てくれている気がして。
「殿下が好むだけあって、変わった娘なんですねぇ」
その理屈でいくとアルベルトも変わっている事になるのだが言わずにおいた。言っても皮肉しか返ってこない気がしたからな。
父王へ政策を献上し気持ちに余裕が出てきた頃、執務室でのんびりしていたらアルベルトに話しかけられた。
「綺麗な指輪ですね」
「水晶を加工して作った特注の指輪だ」
「へぇ、あまり宝飾品に興味がないのかと思ってましたが」
「自分で着ける分には興味はないが、贈るのは別だ」
「ほう、どなたに?」
見るからに興味津々と言った様子のアルベルト。隠すつもりはなかったが、急に興味を示されると言いにくい。言わねば気が済みそうに無いので言うが、普段の仕事もこのくらいのやる気を出してほしいものだ。
「ミリアリアに贈ろうと思っている」
「なるほど、いつものミリアリア嬢にですか。そして贈った時にプロポーズをする訳ですか」
「あぁ」
「正気ですか!?」
「自分から言っておいて何故驚く」
にやにや笑っていたかと思えば突如驚愕された。そんなに驚く事――――かもしれん。仕える第一王子がプロポーズをすると言うのだから、側近としては色々と仕事が増えるか。
「何故って、そこまで想っている相手だとは考えてなかったんですよ」
「そうだな。俺もそうだ」
好ましく思い、一緒に居たいとは3年前から思っていた。だがプロポーズしようと思ったのは最近の事だ。ミリアリアの屋敷に紅茶を飲みに通う内に安らぎを覚えた。表に出ない控えめな彼女の優しさは側に居て欲しいと思わせる。たまに俺が困る事を言ったりするが、それすら優しさを感じる。王族に対する敬意が薄いのかもしれないが、そこが彼女の良い所だろう。
「訳わからない事を……。まぁいいんじゃないですか。伯爵家の娘ですし、妾にと言われれば喜びますよ」
「妾にする気はないぞ。するなら妃だ」
「本当に正気ですか!?」
「正気だとも。よく考えろ。父王は第3妃までの妻を迎え妾もそれなりにいる。俺も同じ様に妾まで作って子が増えると王族の血が増えすぎる」
「そういう事じゃありませんよ。彼女の魔法の素質はシングルですよ」
その事か。ミリアリアは確かにシングルランクだ。正妃にするには反対する者が大勢いるだろう。子を成しても彼女の資質を受け継げばシングルランク。その時は我が子は王としては不当と言われるかもしれない。魔法の才能があれば王足るわけでもないが。
「俺の次の王は我が子ではなくとも、親族の優秀な者に任せてもいいのではないか?」
「彼女を妃にしようとすれば、その前にあんたが第一王位継承権を失いかねないぞ」
「そうだな。貴族派の連中だけではなく、最悪王族派の貴族からも見捨てられるかもしれんな」
「そこまでわかってるのに?」
王妃とは国を代表する存在の一人だ。そこに魔力シングルの人間を据えようとすれば反発は計り知れない。今は味方の者達も、或いは父王からも見限られるかもしれない。
王になる為に全力を尽くし生きてきた。今とて国や民の事を考えている。王子として生まれ、第一王位継承者になる事を義務付けられた。それに不満は無い。だが唯一の我侭として。
「王家の血を増やし過ぎない為にも、生涯を共にする伴侶は一人と決めている。だからこそ妻は自分で選びたい」
「ならばもう少し時間を置いてもよいのでは? 15を過ぎるまでか、王になるまで待つとか」
「俺はまてても、ミリアリアのほうがな」
プロポーズしようと思った理由に、ミリアリアが結婚相手を探している事も関係している。今は魔力シングルのレッテルで相手が見つからずに居るが、彼女自身の良さを知れば別だろう。常に相手を立てる彼女の優しさと安心感に触れれば、嫁に欲しいと思う者も出るだろう。時期をまってては手遅れになるかもしれない。
「はぁ、思ったより色々考えてたんですねぇ」
アルベルトは納得したのか落ち着いたようだ。問題は色々あるがアルベルトやギシェル、それと俺に協力的な者達の力を借りて解決するつもりだ。その一環として当面の問題を目の前の側近に相談しよう。
「ミリアリアを妃に迎えるとして、相談したい事がある」
「あぁ、根回しですか? まだ僕では影響力が低いので殿下の護衛隊の力を借りますか」
「いや、そういう事ではなくてだな」
「ではなんですか?」
「プロポーズはどうしたら良い? 実はかなり前からミリアリアの屋敷に指輪を持って行ってるのだが、中々言い出せずにいる」
「はぁぁぁあ!?」
落ち着いたと思ったら大声を出された。おまけに信じられないと天を仰いだ。
「第一王位継承者の殿下からプロポーズされて断る人なんていませんよ。しかも妾じゃなく正妃でしょう? どんな言い方したって承諾されますよ」
「普通はそう思うだろうが相手はミリアリアだ。下手なプロポーズをしようものなら、プロポーズだったと気づかないかもしれん」
頭は悪くないが妙な所で抜けてるからな。指輪を渡してもただの贈り物と思われる可能性がある。初めての出会いの時のように、こちらの予想外な対応をされる気がしてならない。
「いくらなんでも婚約の贈り物で最上な、常に貴女と居たいって意味の指輪とセットなら気づくでしょうよ」
「だと思うが念の為だ。アルベルト、年上の男と見込んで頼む。プロポーズの仕方を一緒に考えてくれ」
「年上たって、あぁもう、わかった、わかりました。だからそんなに真剣な目で見るな」
俺の情熱が伝わったのか快諾してくれるアルベルト。彼の協力でプロポーズの方法が決まった。決まったはいいが、直ぐに実行には移せなかった。
ミリアリアも俺の事を良く思ってくれていると思う。最近言葉使いが適当な時が増えたからだ。彼女の言葉使いが崩れるのは、親しく思ってる相手に対してだと通う内に理解した。だからプロポーズをして断られるとは思わないのだが、実行しようとする度に初対面の時の断られた笑顔が浮かび実行出来なかった。
彼女の住む屋敷に指輪を持って通い、プロポーズを狙う日々が始まった。




