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魔法な世界で愛されて  作者: きつねねこ
魔法な世界で愛されて
10/32

9話

 コルベール侯爵家。

 サクライス王国でも指折りのお家柄。王族から分家した公爵家を除けば、実質貴族のトップである侯爵位。その中でも殊更に有名で、歴史書の中でも名前が出たりするのです。過去に大臣や騎士団長を排出した大貴族。王家から広大な領地を拝領し、国軍扱いの戦力を保有する現在でも力ある貴族です。


 さて、そのような紛う事無き大貴族のご令嬢様が私に声をかけてくださいました。何て光栄で嬉しい事なのでしょうか。サーガにも語られる家の方が、私のようなただの貴族の娘に目を向けてくださったのです。なんて思えたら幸せだろうなぁ。


 貴族の娘よりも町娘が似合うだろう私の頭は、声をかけられた理由を探るのにフル稼働。ここに来て自分が何をしていたか記憶を遡りチェック開始。


 慣れない会場の雰囲気に一人うろうろ。派手な皆様の様子を一人きょろきょろ。覚悟を決めて誰も手をつけてない料理に一人ご~ご~。……緊張して居たとは言え、客観的に見たら浮いてるし、目立ってるし、おまけに不審な行動にしか見えないですね。


 コルベール侯爵家のイザベラ様は、悪目立ちした私を注意しに来たのでございますね? 声かけられる理由に思い当たってしまい、心の冷や汗が止まりません。婚活一歩目から躓くとは。自業自得と言えばそれまでですが。


「ねぇ、ミリアリアさん」

「は、はい」


 イザベラ様の声に体がビクンと震えてしまいました。どんなお叱りを受けるのか。頭の中では一瞬にして、高笑いとセットで田舎者と図星をさされ涙に暮れて家へと帰り、お母様にさらなる特訓をされる未来が走馬灯のごとく駆け巡ります。


「私、今日のパーティーに急遽参加する事になったのよね。だからいつもみたいに一緒に居る人がいないのよ。良ければ今日は一緒に楽しまない?」


 おや? 笑顔のお母様とスフィさんに特訓されていた私を現実へ連れ戻すお声が。怒られると思っていたのに、まさかのお誘いでございます。絶望に彩られていた私の返事はもちろん決まっていますとも。


「私でよろしければ是非」

「そう。じゃあ一緒に挨拶にでも行きましょうか。まだ主催者に挨拶をしてないのよね」

「はい。お供いたします」


 私の返答には気にした様子を見せずに歩き出すイザベラ様。最初から答えがわかってたような自然な動作で進んでいきます。ついて来るのが当然と言った感じですね。私の意志をあまり気にしない辺りに、どこかの王子様を思い出します。


 そんなイザベラ様に連れられて、主催者らしき方へと挨拶に向かいました。後の私を見ないで進む姿は慣れた物のようです。いつも今の私のように誰かがついているのでしょう。先程ご自分でもおっしゃっていましたね。私に声かけたのは、いつもの誰かの代理に良さそうだったという訳でしょうか。


「ネルシュ卿、今夜は突然お邪魔して申し訳ありません」

「これはこれはイザベラ様。かまいませんよ。コルベール家の方に来て頂けるのは光栄です。むしろお礼を言いたいくらいです」


 イザベラ様はダンディなお髭のおじ様と挨拶を交わしています。その間私と言えば、彼女の右斜め後ろでにこやかに待機中です。前に居るのは美貌の麗人、後に立つは地味な少女。明らかな取巻きポジションでございます。


「―――で、こちらに居るのがリートバイト家の息女のミリアリアですわ」


 イザベラ様の後ろに適当に立っていたら、前を明けられ紹介されてしまいました。それに対して私の口からは自然と言葉が出てきます。


「ミリアリア・ルーデ・フェス・ラ・リートバイトと申します。本日はご招待いただき、ありがとうございます」


 お母様に教育されていたとは言え、こうも自然に挨拶できるとは自分でもびっくりです。相手方も普通に言葉を返してくださいます。しかし上手く行ったのもそこまでで、その後の簡単な会話で直ぐに話題に困ってしまったのですが。


「もっとお話をしたいのですが、ネルシュ卿は他の方とのご挨拶もおありでしょう? 私とミリアリアはこの辺でご遠慮いたしますわ」


 イザベラ様が間に入り、ご挨拶が終了です。そしてネルシュ卿が離れると私にチラッと視線を向けておっしゃいます。


「次行くわよ」


 言われるままに着いて行き、先程と同じ様に他の方にご挨拶。どうやって参加者の方に声かけようか悩んでいた私ですが、さくさくと挨拶が終わっていきます。今回のパーティーでは顔を売る事が目的でしたが、それがあっさり叶っていきます。


 正直に言えば、取巻き扱いに最初は少しだけ思うところもございました。ですが実際やってみるとあら不思議。挨拶を自然と出来るように導かれ、会話が始まってもイザベラ様に同意してやり過ごし、言葉に詰まればフォローが入る。なんて素敵な役所。私の天職かと思ってしまう安心感。


 気づけばほとんどの参加者への挨拶が終わっていました。イザベラ様の事を悪役令嬢だなんて思ってごめんなさい。今日限りの代理ではあるけれど、取巻きにしてくださって感謝します。思っているだけでは失礼と、心を篭めてお礼を言います。


「今日はありがとうございました」

「うん? 私、貴女に何かした覚えは無いわよ」

「イザベラ様のおかげで参加者の方へご挨拶が出来ましたので」


 感謝の理由をお話すると困惑顔をされました。普通の貴族の方ならば、挨拶するくらい何でもない事でしょう。けれど見るからに派手で煌びやかな貴族の方へ挨拶するのは、私にとっては厳しい事です。貴族の人って偉いんだと思うと、どうしても緊張してしまうんですよね。私も貴族のはずなのですが。


「よくわからないけど、どういたしまして?」

「はい、大変助かりました」


 一人で参加した初めての晩餐会。イザベラ様のおかげで、なんとか無事に切り抜けられました。






 人生二度目のパーティー参加が無事に終わり、お母様へ良い報告が出来て一安心。したいのですが、そういう訳にもいきませんよね。何せ目標は結婚相手を見つける事なのですから。


 今更かもしれませんが、何故お母様が私に婚活をさせているのか、その理由をお話しましょう。


 サクライス王国において貴族は基本的には魔法が使えます。一部の例外を除けば、魔法が使える事こそ貴族が貴族である証と言えます。そして魔法は遺伝すると考えられています。ここまで言えばおわかりでしょう。魔力シングルの私をお嫁にした場合、生まれる子供の魔法の素質も低くなる可能性があるのです。それも大いに。ですので貴族の男性には不人気確定です。


 では貴族がダメなら平民の方はどうかと言うと。平民の女の子が貴族の方と恋して結ばれたり、成り上がって騎士爵や準男爵になった男性が貴族へ婿入りになったりは、数が少ないとは言えあるのです。ですがその逆は難しい。


 家を継ぐ訳ではない私の場合、相手方へ嫁入りする事になる訳で。仮に平民の家へ嫁入りしようとした場合、国がそれを阻止します。理由は単純です。平民に貴族の血を、魔法を広めない為です。それにも負けず添い遂げようとすると最悪極刑もあるのだとか。


 貴族の方には避けられて、平民の方が相手だと国と戦うラブロマンス。なんとなく後者に憧れてしまうのは夢見がちな乙女だからでしょうか。ふふ、ちょっと言ってみただけですよ。


 以上の理由で私は結婚するのがとっても大変。11歳と若くとも、お母様が早々に婚活をさせようと決意する訳でございます。何もしなければ確実にいかず後家。リートバイト家の小姑決定。


 ですので婚活しなくてはいけないのは理解できます。出来るんですが……どうしても前向きになれません。同年代の10代の方は精神的に子供に見えてしまいますし、20才以上の方は年の差的にちょっと遠慮したい。何よりも私自身がまだ結婚をしたいと思えない。


 お母様のやる気に比べ私のやる気はいまいち出ない。出来ればやめたい結婚活動。パーティーに参加して、万が一にもないとは思いますが、見初められたら困りもの。10代での婚活は心の底から遠慮したい。お母様のような貴族の奥様をこなす自信もありませんし。


 婚活最初のパーティーを無事に終えて安心し、今後も同じ様に続けるのかと思うと溜息が。そのように未来を憂いて夕日を見ていた私の元へある物が届きます。お母様が喜んだある物が。


 コルベール侯爵家からの茶会のお誘いのお手紙が。






「ミリィ、頑張ってくるのよ!」


 お母様に背中を押され、迎えの馬車へと乗り込みます。侯爵家クラスになるとお母様にもコネがなく、だからか娘がお呼ばれして大喜び。なんでもコルベール侯爵家の長男の方は、王都でも有名で将来有望な美丈夫なのだとか。奇跡を起こしてがっつりゲットしてくるのよ! と言うお母様の心の声が聞こえます。


 今日の茶会の招待状の差出し人は、先日取巻きをさせて頂いたイザベラ様。女の私から見ても美人さんな大貴族のお嬢様。そのお嬢様主催の茶会に参加する方々は、きっと同じ様なご令嬢。そう考えると引き返したい気分になります。


 ゆらゆらと馬車に揺られ連れられて、ついた先は大豪邸。子羊たる私めは馬車を降り、黒い服を着たおじ様の後ろを付いて行く。豪邸の中は高そうな絵や壺が飾っています。凄く綺麗なのですが間違ってもさわりません。


 おじ様に案内されて辿り着いたのは2階のバルコニー。そこには白いテーブルと椅子があり、腰掛ける黒いドレスのイザベラ様が居りました。日の下でも変わらず夜を思わす雰囲気です。


「ミリアリアさん、よく来てくれたわね」

「本日はお招き頂きありがとうございます」


 挨拶が終わり席につこうとして戸惑います。席が二つしかない様に見えるのです。一つはイザベラ様がお座りになっているので、空いてる椅子は残り1席。茶会のご招待だったはずですが、これではまるで私一人を呼び出したような?


「どうしたの?」

「えと、座ってもよろしいのでしょうか?」

「当たり前でしょ? 貴女の為の席なのよ? 他に誰かが来るわけでもないのだから、遠慮なくお座りなさいな」


 茶会に参加する1参加者と思いきや、まさかの個人でのお呼び出しでした。一人だけの呼び出しに良いイメージがございません。特に呼び出されるべき悪い事をした覚えが……ない事もないのが問題です。先日のパーティーでのあれこれとか。


「今日来て貰ったのは、貴女とお話がしたかったのよ」

「お話、でございますか?」

「えぇ」


 お話をしましょうと言われても何を話してよい物やら。好きな本の話ならばいくらでも出来るのですが、そういった事をお求めではないでしょうし。困惑している私に、さらに困惑する一言が告げられます。


「貴女とレグルス王子が恋仲だって噂があるのだけど」

「は?」

「だから、貴女ってレグルス王子と恋仲なのかしらって」


 いやいやいや、そんな馬鹿な。初対面で容姿にダメ出しされて、我が家に来ては付き人のごとく連れまわす。あのお子様王子様と恋仲なんてありえません。


「何故そのような噂が?」

「レグルス王子がパーティーで10歳の社交場デビューした少女に出会って、その少女に会う為に日をおかずに少女がいる領地へ出向いて行ったって言う話があるのよ」

「それは大筋はあっていますが、細部が違いすぎます」

「へぇ、細部まで知ってるのね。じゃあやっぱりその少女って貴女なのね?」


 端的な事実のみを拾えば、イザベラ様の仰る様な言いようもできます。ですが重要な事が抜けています。あの努力家な王子様が私如きに会う為にわざわざリートバイト領に来る訳がないのですから。


「その噂が間違いだと言う事を、これからご説明させていただきます」

「是非聞かせていただくわ」


 楽しそうに笑っているイザベラ様にゆっくりとお話しします。初対面でダンスの誘いを断った事から、リートバイト領へ領地運営のお勉強に来ていた時の事を。私はどう思って、王子様がどう行動していたかを。ありのままをお話ししました。


「まず初対面でレグルス王子の誘いを断ったですって?」

「自分でも容姿が普通と思ってても、面と向かって言われたら誘いには乗れないと思いませんか?」

「そういうものかしらね? で、領地に来たら連れまわされて馬に乗せられたって?」

「あの時はお尻が凄く痛かったです」

「それで最後の方は王子をどう思ってたかと言うと?」

「忌憚なく言わせていただくなら、わんぱくな弟でしょうか」

「貴女の方が年下なのに弟って、ぷっ、くっ、ふっ、あはははは」


 私と王子様の関係を話したら大笑いするイザベラ様。そんなに面白い事でしょうか? 面白いのでしょうねぇ。夜を思わせるイザベラ様が、夏の向日葵のごとく大笑いなさってるのですから。


「私とレグルス殿下のご関係はおわかり頂けたでしょうか?」

「そ、そうね。恋仲ではなさそうね。寝言で母上って、わんぱくな弟って、ぷっ」


 大貴族のご令嬢が堪えられずに笑っています。私の王子様に対する弟認定はまだしも、寝言は言いすぎだったでしょうか? この話が広まったらまずい気がしてきます。


「あの~、イザベラ様、このお話はここだけと言う事で。間違っても殿下のお耳に入らないようにして欲しいのですが」

「だ、大丈夫よ。今レグルス王子は国外に留学中だから。貴女の所の領地から戻って直ぐに、他国の王政を学ぶ為だとかで留学に出たのよ。何国か回ってくるみたいね」


 それはとてもあの王子様らしいと思いました。毎晩私の部屋に来ては現場での勉強の重要性を語ってくれていましたから。頑張り屋の王子様なら、きっとリートバイト領に来た時と変わらずに頑張る事でしょう。そして今度は王族らしく、無邪気に他国のお姫様を連れまわしたりして――――


「ミリアリア?」

「あ、はい。何でしょうか?」

「何でしょうかじゃないわよ。急に寂しそうな顔をするから驚いたじゃない」

「寂しそうな顔?」

「そうよ。泣き出すのかと思ったわ」


 そんなつもりは無かったのですが、イザベラ様が心配そうにしてくださっているので事実なのでしょう。王子様のお話をしていただけなのですが、どうしてでしょう?


「ねぇ、最後に確認するけど、本当にレグルス王子とは恋仲じゃないのね?」

「もちろんでございます」


 王子様と恋仲と言う事は将来の王妃様。王妃になる自分。似合う似合わないではなく、想像すら出来ません。町のパン屋の看板娘とかなら直ぐに想像できるのですけど。


「貴女って面白いわね。気に入ったわ」


 笑いを取って気に入られました。素直に喜んで良いのかわからずに返事に窮してしまいます。想像の中のスフィさんが溜息をついていたので、喜んではダメなのかもしれません。


「良ければだけど、私が主催する茶会のメンバーにならない?」

「イザベラ様の茶会のメンバーにですか?」

「えぇ、別に特別なルールとかはないわよ。ただパーティーの時に一緒に行動したり、時折こうやってお茶を飲むくらいよ」


 それはつまり、パーティーでご一緒したならば先日のようにイザベラ様の後ろをついて回れば良いのですね? 代理で一度限りと思っていた天職ポジションのお誘い。その答えは決まっています。あの時よりも丁寧に心を篭めて。


「私でよければ、是非お願いします」

「そう、じゃあ決まりね」


 美丈夫のコルベール家嫡子のお方は掴まえられませんでしたが、ご息女のイザベラ様の取巻きポジションを正式にゲットでございます。目立たず陰に隠れられる絶好ポジション。夜空に浮かぶ月たるイザベラ様、それに隠れる五等星くらいな私。


 果たしてお母様は喜んでくれるでしょうか?




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