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ケース3 : 猫とへっぽこフリーター屋

「あ、ちょっと日曜、シフト入ってくれる? 皆休みとっちゃって…」


「ああ、連休ですもんね。」


「ひょっとして、貴方も何か予定入れてるの?」


「いえ、全然オッケーすよ。 10時からでいいんすか?」


「ありがとう。助かるわ。」


「いえいえ、どうせ暇だったんで…」



正直、定職につかなくても今のご時世、十分やっていける。

むしろ、ブラックな会社に入ってヒーヒー言っているよりも、

時間的なゆとりのある、フリーターは数倍マシかもしれない。


けれども、フリーターという肩書に対する。

世間の風当たりは悪い。

だが、そんな風当たりを一瞬にして変えてしまう魔法がある。


「夢を追ってます」という設定にすることだ。

例えば、売れないミュージシャン。


音楽の仕事だけでは食っていけず、月のほとんどはバイトである。

しかし、ほぼ毎日バイトをしているのにも関わらず、

彼をフリーターと呼ぶ者はいない。 誰もが売れないミュージシャンと呼ぶだろう。

これを応用したのが、『夢を追ってますよ僕』作戦だ。


「僕はただのフリーターじゃないんですよ。仕方なくバイトしてるんです。」


感を全開にプッシュしていく。 ミュージシャンだとボロが出る可能性が

高いので、個人的には、小説家か何かがおすすめである。

そんな暮らしを続けている僕に、ある日、電報が届いた。


「電報? ああ、お袋か」


お袋は、このスマートフォンなるもが跳梁跋扈する世の中で、

未だに連絡には、電報を使用している。

正直、電報がいまだに使えることにも驚くが。


「イモウト キトク スグニカエラレタシ」


え?



――


「正直に申し上げますと、娘さんの脳には深刻なダメージが与えられてしまっています」


「はぁ…」


いきなり病院に呼び出された。まったく訳が分からないまま、

医者の説明を聞く。

横では、お袋が、今にでも泣き出しそうになりながら、

医者の言葉に耳を傾けている。


「現在の医学では、この状態から意識を回復させることは…」


「そ、そんな。 どうにか、どうにかならないんですか、先生。」


お袋が医者の裾を掴む。


「……アメリカには、この分野に詳しい先生がいるそうなんですが、

そんなことをするためには莫大なお金がかかりますし、第一、それまでに…」


「・・・・・」


お袋と俺は、無言で部屋を後にした。

正直、なんで妹がこんな状態になっているのか、俺はまだまるで全く分かっていない。

とりあえず、お袋に……


「」


駄目だ、完全に事切れている。

どうするかな……

向うから歩いてくる看護師を捉まえ、話を聞く。


「あの、504号の、妹の事なんですが…」


「あら、あの子のお兄さん? お気の毒ね、あんなに若いのに…」


「なんで妹はこんな目に」


「あら?聞いてないのかしら… …よほど混乱してまだ整理がついてないね

だってそうよ、最近よくあるからって、いくらなんでも、身内が刺されるとは思わないものね。無理もないわ。」


「え? 刺された……」


「その様子じゃ、ほんとに知らずに来たみたいね。 …後ろからぐさりと、ナイフで一発。」


「………」

 

                                 ●



重い足取りで、病院を後にする。


医者の説明では、妹を助けるためには

フリーターの俺じゃどうしようもない金額がいるらしいしなぁ……

あ、そういえば、明日バイト入れてたんだった。


……バイトどころじゃねぇよなぁ・・・


ぼーっと、遠い目をしていると、

ふと、黒い猫が、塀の上でボーっとしているのが目に入った。


…良いなお前は、悩みがなさそうで。 

俺なんて、妹は死にかけてるし、金もないし…


そう思っていると、猫が突然、塀から車道の方に飛び降りようとした。

おいおい、危ないぞ、ここ結構車通りあるんだから。

猫をキャッチしようと、とっさに塀の下に立った。

猫は俺の姿を確認すると、ピョンと飛び込んできた。

うぇ。 猫って結構重いのな。


「重いとはなんだ。 せっかく助けられているというのに。」


え? なんだか、今コイツが喋ったように聞こえたんだけども。


「そうだ。 コイツが喋っているのだ。」


な、何だこの猫。 …スピーカーでも付いているのか?


「やめろ。スピーカーなんてついてない。まさぐるな。」


猫は俺の胸からジャンプすると、空中で一回転し、

着地した時にはすでに、人間のような姿に変わっていた。


「う、うわぁ。ば、化け猫」


「…違う違う。俺はそんなおっかないものじゃない。」


「じゃあなんだってんだよ。」


「俺は天使だ。天使。下界だと、猫に化けてるんだよ。」


「…もうお前が何者とかどうでもいいや。で、その

天使さんが何の用ですか? 妹もろとも俺も連れて行くのかい?」


「お前俺を、悪魔か何かと勘違いしてないかい。…ゴホン、俺は

お前のガッツに感動した。 よって、 お礼になんでも一つ願いを叶えてやろう」


「な、何でもだと。 …じゃ、じゃあ」


「…みなまで言うな。 俺は天使だ。 お前の本当に望んでいるものくらい、

聞かなくてもわかる。 そうだな、こうしよう。」


「お前の家の枕元に、『お前が心の底から欲しがっている物』を置いてやる。

それで文句はないよな。」


「…で、でも・・・」


「安心しろ。 俺は天使だ。 その気になれば、生死だって操れるんだぜ。」


「そ、そうか、ならいいんだが。」


「ん、これでお前も納得したな。 …これで確実だな。 それじゃ。アデュー」


天使はそう言い、俺が次に瞬きをした時には、もう跡形もなくなっていた。


何だったんだろう今のは。 とりあえず、アイツもそう言っていたし、


一旦家に帰ろう。


                           ●



家に帰ると、留守電が入っていた。


「OO病院です…妹さんの容体が急変して…」


え。 おいおいおいおいおい天使。何がアデューだ。

何が生死も操れるだよ。


…ん、確か、そうだ、枕元。 アイツは、枕元に

『お前が心の底から欲しがっている物』とかいうのを置くって言ってたな。

天界の、どんな病気でも直せる魔法の薬、とか、時間を巻き戻せるスイッチ、とか置いてないだろうか・・・


わらにもすがる思いで、寝室に入る。



枕元には、溢れんばかりの札束が、ただ置いてあった。




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