ケース2 : 猫と腐れマスコミ屋
「一体どういう神経をしているんだ。 マスゴミは違うな。」
この仕事をやっていると、罵倒されない日はない。
私だって、一人娘がぶっ殺された家に、
「娘さんを殺した犯人に何か、メッセージを」とか
ぶっ殺した方の家に、
「息子さんがされたことに何か、コメントを」とか
したくてインタビューをしているわけではもちろん、無い。
しかし、新人の私にやってくるのは、いつもその類である。
上司は、
「誰にでも、こんな時期があるんだ。まぁ、勉強だと思え。」
と言う。そもそもこんな取材をしなければいいと思うのだが。
今日は、最近流行っているらしい、
謎の感染症への対応で追われる病院の取材だ。
患者に直接取材をするわけでは無いし、消毒やマスクなどフル装備で行う。
が、感染症患者がかなりいるらしいその病院に入る。
という事だけで抵抗感を示すものが続出し、いつものように、回りに回って私のところに来た。
この感染症、当初は軽いパニックにもなった。
しかし、死亡者の数があまりに多いため、その数はもはや
ただの統計学上の数字にしか見えなくなったのか、はたまた規模の大きさに
まるで、遠い外国の出来事のように感じたのかは知らないが、
実際、最初ほどの混乱は起こっていない。
『今だ、感染症への効果的な治療法は見つかっていません。
お出かけの際にはマスクを着用するなどして、対策を心がけてください』
『…さて、次のニュースです。
〇〇動物園に、可愛いパンダの赤ちゃんが……』
パンダの赤ちゃんのニュースを、
"さて" で挟まれるぐらいには混乱は起こっていない。
と言うか、私が今やろうとしている仕事は、パンダと同レベルなのか。
なんであんなただ、モノクロだけの熊と一緒にされなきゃいけないのか。
第一、アイツら、繁殖する気有るのかよ絶滅したいのかよこの野郎。
などと毒突きながら、例の病院へ向かっていると、
一匹の黒い猫と目があった。
目があった、というよりも、
あちらが一方的に睨みつけている、とでも言った方が正しいだろうか。
なんだよ。パンダはお前の親戚か何かか?
わかったわかった。 パンダ様の悪口は言いませんよ、金輪際。
そう思いながら、こちらも睨みつけてやると、
「パンダ?ヤっただの、ヤらないのだのがニュースになるような奴と、
一緒にされてもらったら困るね。」
前から声がする。 驚き目を凝らす。
だが、私の前には、ただただ猫が一匹、居るばかり。
「いや、俺だよ。俺が喋ってんの。」
何という事だ。 喋る猫とは。 感染症よりよほどニュースになりそうだ。
どうにかして捕獲できない物か。
「いやいや、俺を捕まえようっての? 無理無理…だって、」
猫はそう言いながら、光に包まれていき、次に私が目を開けたときには
人間の姿へと変わっていた。
何だこれ。 もはや、テレビ局に負える代物ではない。
NASAか何かに渡そうか。
「いやいやいや、宇宙人でもないからね。天使だよ。天使。
大体、さっきからアンタ、テレパシーで会話してるぞ。それが証拠だよ。」
確かにそうだ。 鍵カッコの付け忘れではなかったのか。
「鍵カッコ?何言ってんの。それよりもさ、その眼の下のクマ。
オンナとしてどうなんだいそれは。」
この仕事やってると、あんまり寝る暇なくて……
「おっビンゴ」
ビンゴ?
「ああ、こっちの話だから気にしなくていいよ。
じゃあ、天使の俺が何とかしてやろう。」
なんとかって?
「そうだな、お前の仕事が減るような世の中にしてやろう。
さぁ、目を瞑って。
……いち、にの、さん…ポカン。」
……ジリリジリジリジリ
……ジリリジリジリジリ
……ジリリジリジリジリ
目覚まし時計のけたたましい音が、頭に響く。
目を覚ますと、そこはいつもの自分の部屋だった。
何だ夢だったのか? それにしても妙な夢だったな。
まあいいや。そう思いながら、ベットから重い腰を上げ、
カーテンをシャっと開ける。 今日も一日頑張ろう。
ふと窓の外を見やる。
いつもの見慣れた、ビル、道路、家、人、死体。
…ん?
まだ私は夢を見ているのだろうか。
こんな、街のど真ん中に、死体?
いや、どこにあってもおかしいんだけどさ。
とにかく、様子を見てみよう。
携帯電話を手に取ると、パジャマのまま、私は家を飛び出した。
「あ、あの~だ、大丈夫ですか…」
一応声を掛けてみる。
だが返事はない。ただの屍のようだ。
医学の知識などない私でも、"コレ" がすでにこの世のものではない。
という事は触らなくてもわかる。
よく見ると、死体の顔にはウジが湧いていた。
え、えっときゅ、救急車?
いや、もう手遅れでしょこれ……
と、とりあえず、110番。110番に掛けてみよう。
…ぷるぷるぷるぷるぷるぷるガちゃん。
「はい、こちら警察です。 事件ですか? 事故ですか?」
「い、いえ、事件と言うか、なんというか……」
「はぁ。…落ち着いて話してください。 何があったんですか。」
「そ、それが、家のすぐそばにですね、」
「はい」
「し、死体が…」
「死体? …人間のですか?」
「は、はい。」
「…なんだ、そんなことで…。 そういうのの"撤去" は、
そこの道路の管理してる人とか、市役所に言ってくださいね。それでは。」
「え、ちょ、ちょっと!」
私は確かに、「人間の死体」と言ったはず。
それなのに、まるで猫の死体か何かのような…
いったい、なにがどうなっているんだろう。
ここは私の知っている町ではないのかもしれない。
きっと夢だろう。ふらふらしながら、町をそのまま歩く。
ほどなく、いつも通勤に使うバス停を見つける。
バス停の名前に、特に変わりはない。
すぐ近くに、掲示板が有った。なんとなく眺める。
「新春爆笑お笑いショー 市民会館にて。」
「万引きは犯罪です。 法律によって罰せられます。」
「殺人は犯罪です。法律によって罰せられます。」
え。 どういう事。 お笑いショーはともかく、
万引きと殺人が一緒に並んでるなんて…
"殺人は犯罪です"? 何をまた…
背後にいた男が、ナイフを振りかざしているのが、
掲示板に反射して見えた。




