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ケース1 : 猫と死体焼き屋

「棺桶ってこんなにするものなんですか。 どうせ燃やしちゃうのに……」


この仕事をやっていると、客にこの手の質問をされない日はない。


その度、


「そういうものですよ。故人の最期を、美しく飾ろうとすると、どうしても、それくらいの額にはなってしまいます。 

別途、こちらのワンランク低いタイプもご用意させていただくこともできますが、こちらですと如何しても、多少・・・」


「……わかりました、人生の最後ですものね。」


「ご理解いただけたなら幸いです。」


このようなやり取りを繰り返している。 



人間という物は、死なないようで、割と毎日それなりに死んでいる。

だがしかし、同然の事ではあるが、客は限られている。

こんなことを繰り返していても、今日のように暇な日も出てきてしまう。

こうなると、その限られた客から少しでもおこぼれを頂戴しようとするのは当然だろう。 

客が途絶えたからといって、他人様がボコスカ死んでくれますようにと、祈るわけにもいかないし、


「今なら棺桶が半額です! 死ぬならお早めに!」


などとセールスするわけにもいかず、かと言って、一日中家にいるのも、

どうも退屈でしょうがない。


ドアを開けると、雨が降るか降らないか、微妙な顔の雲が空を漂っていたが、構わず出た。


河川敷沿いを歩いていると、わらわらと猫達が寄ってきた。

この道を歩くと、いつもどこからか寄ってくるのだ。

所謂、霊感というものが、猫に備わっているという話を聞いたことはある。

だが、死者で飯を食う人間のオーラを感じ取って、

私に近づいているのかまでは知らない。

第一、霊だとか、神だとか、天使だとか、そういうものを信じてはいない。

そんなものがいたら、死体燃やしが日課の私は、とっくに呪い殺されているだろう。


などと考えていると、少し離れた位置に居座っていた一匹と目があった。 

ジッと、こちらを見ている。


河川敷に屯する猫は、大抵把握しているつもりだが、記憶にその一匹は無かった。

そう思って、猫を観察していると、尾が二股になっているのに気づいた。

突然変異? それとも私が知らないだけでそういう品種があるのだろうか。

時代が時代なら妖怪の一つにでも数えられてそうだが。


くだらないことを考えている間も、二股の尾の猫はずっと此方をにらみつけている。

猫は、ニヤリと私を見て笑っているようにも見えた。

猫が貴重な品種なのか、はたまた妖怪の類なのか、この際どうでもよかったが、

なんだかいい心地はしない。 

足の周りをぐるぐる回る猫達を、踏まないように注意しながら、

その場を離れようとした。


その時、ドボンと川の方で大きな音がした。

川に目を向ける。 先ほどの猫が川に浮かんでいるのが見えた。

さっきの音は猫が川に飛び込んだ音だったのだろうか。

だが、私の知る限りでは猫というものは、泳ぎが不得意なはずだ。

それでも私の目には、猫はわちゃわちゃと、溺れている様にしか見えなかった。

猫が泳げる貴重な品種なのか、はたまた泳げる妖怪の類なのか、この際どうでもよかったが、

このまま放っておくと、午後はうちの火葬場で、猫の焼ける匂いがしそうだ。


幸いにも、川は人間とっては、大したことのない水深だった。

服を濡らしながらも、ズブリ、ズブリと川に入り、猫をぐっと掴み、外に放り投げた。

その時、私の耳に...いや、頭にと言った方が正しいだろうか。 声が響いた。


「お礼になんでも一つ願いを叶えてやろう」


驚いて周りを見回した。 

だが、人間の姿は見えない。居るのはわらわらといる猫達だけだ。

まさか。 二股の尾の猫を見た。 猫は、こちらをジッと見て笑いかけていた。


瞬間、猫は眩い光に包まれた。 

まぶしい。 そういう品種なのか。


次に目を開けたとき、私の前には幼い少年が立っていた。 


ただ一つ、特出した部分を上げるとするならば、その少年に羽が生えている、

という事だろうか。


「驚かせちゃったかな。ごめんごめん。 


俺は天使だよ。 ほら、よくあるだろ、こういうシチュエーション。」


有ってたまるか。 夢でも見ているのだろうか。


「あら、信じてない? 目の前で猫が変身したんだぞ。 信じるしかないだろう。」


「それはそうだが……」


「まぁ、それはいいよ。 それよりも願いだよ。 

願い。 何かないのかよ。 俺はそれがしたくてわざわざ来てるんだぞ。」


「願い?」


「そう、願い。 なんでもいいぞ。 金か?女か?名誉か?」


「そんなこと急に言われても……」


「……あ、そうだそうだ、おいニンゲン。 お前、会社かなにかやってないか?」


「……やってると言えばやってるが。」


「そうか! ……よろこべニンゲン! お前の会社を大繁盛させて、立派にしてやろう。」


「し、しかし……」


「まぁまぁ、いいじゃなねぇか。 それじゃあな! 頑張れよ! ニンゲン!」


「ちょ、ちょっと待て」


そう言い残した自称天使は、バサッと羽を広げ、何処かへ飛び立ってしまった。


そこには、群がる猫と、私が、ぽつねんと残された。




・・・・・・・・・・・



....続いてのニュースです。


ヒノモトを中心に発祥が確認された、謎の新型ウイルスの感染が、拡大を広げています。

この新型ウイルスは、致死率が非常に高く、先週初めて感染が確認されてから、

これまでに死者は50人を超えています。

今のところ、このウイルスへの有効な対抗手段は無く、依然として治療法は不明です。

お出かけの際は、マスクなどをして、体調管理には十分お気を付けください……


さて、続いてのニュースです………





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