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(自称見習い)魔法使いの放浪の先  作者: 橄欖石
第一章 魔法具商店手伝い時々ボランティアの日々
6/8

6話

アルトによる一人称です。

「お~!!!このシチュー超うめぇ。初めて食ったけど、病み付きになりそうだ。って、肉まで入ってる。・・・サラ様大好きです。今までの数々の無礼、お許しくださいませ。」

「クラト、アンタって・・・。でもこのシチュー絶品ね。匂いからして食欲そそる感じだし、この独特の辛さも・・・・後で作り方教えてもらってもいいですか?」

「・・・師匠、このシチュー香辛料使ってますよね。一体どうやって手に入れたんですか?すごく高価なものですよね。金貨を使って取引をするって聞いたことがあるのですが。それにこのライスも。森の中では手に入らないはずですよ。」


 アトリエール・サラのリビングは、基本的に二人しか利用者が居ないので小じんまりとしているはずなのだが、さらに二人増えても十分スペースがあるような気がする。明らかに何かがおかしい気がするのだが、気にし出したらきりがない気がしたのでスルーすることにした。流石に今まで4年間暮らしていた家が3階建てだったことを知った時にはたまげたが、この師についている限り、常識はずれな事柄がそこかしこに転がっていることには最早慣れたのだ。


結局、無事に夕食までに家までたどり着けるかを気にしていた二人の心配は杞憂に終わった。(いつの間にか)差し入れを持ってきてくれていた時に、後先考えずに作業に打ち込む俺たちを見て、クラト及びリティーヤの親に(何と言ったのか知らないが)連絡を入れていたらしい。俺が明日からの肉体労働に思いをはせ、半ば放心状態になっている間に、二人が今晩この店に泊まることが決まっていた。この建物に客室などなかったはずなのだが、...きっと何処かにあるのだろう。


「ふふっ、アルト君はいい子ですね。突っ込んでも無駄だとわかっていても丁寧にツッコミを入れてくれるのですから。それでこそ突拍子のないことの遣り甲斐が有るってものです。」

「アルトはここぞと言うときにしっかり突っ込んでくれる奴だもんな。いつもツッコミ役はリティーヤだけど、こいつの場合、妙なところで今までのボケを霞ませてくれるような大ボケをかましてくれるからな。頼りになるよ。・・・モヤシだけど。」

「ちょっと、クラト。このあと食後の運動に付き合ってくれるかしら。かるーい運動だから、勿論武器は無しで、ね。」

「待て、リティーヤ。まずは話し合おう。日頃の打てば響くようなツッコミには、マジで感謝してるんだって。俺バカだからその気がなくっても呼吸をするようにボケかましちゃうし。・・・大ボケをやらかしてくれるのも、ある意味美味しいといいますか何て言うか・・・」

「確かにあんたとは真剣<ガチ>に話し合う必要がありそうね。」

「ア、アルト。助けてくれ。」

「無理に決まってるだろ。...俺、モヤシだし。」

「アルト~~。」


クラトには悪いが、いくら苦労性自覚があるとはいえこの状況で火中の栗を拾うつもりはない。それよりも師匠・・・・泣いてもいいですか?

 無意識のうちに相当恨みがましい顔をしていたらしい。いつも余裕な態度を崩さない師が、一瞬だが苦笑いのなかにすまなさそうな感情を滲ませた不思議な表情を浮かべ、言い合う二人(というか一方的にリティーヤが口撃を浴びせ、クラトが必死に食い下がろうとして失敗している)に向き直った。どうやら仲裁をしてくれるつもりらしい。それがこの場を納める最上の方法であるのは間違いない。なんだかんだ言ってクラトは師に無条件降伏がデフォルトだし、リティーヤに至っては...。


「リティーヤさん。プリプリした顔も可愛らしいですが、やはり笑顔の方がずっと素敵な女性に見えますよ。クラト君にも悪気と言うものが無いのは分かっているしょう?デリカシーが無いのは考えものですが、ね。それに、おぼけうんぬんの話ですが、普段しっかりもののお嬢さんがたまに抜けたことをするというのは、我々男性にとってとても愛らしく写るものなのですよ。」

「あ、愛らしい・・・///」

「ええ、とっても。」


クラトが食後の運動いう名目でボコボコにされる未来は無くなった。クラトの剣の腕は同年代の少年少女の中では飛び抜けていて、腕の立つ大人達に混じっても遜色のない実力を示せるのだが・・・武器が使えないとなると余りにもあんまりなことになる。相手がリティーヤとなると。何せ彼女は村準最強の格闘家なのだから。クラトは師匠に頭が上がらない理由がまた増えてしまったようだ。・・・にしたって。


「アルト、魔法使いってジゴロのスキルの修行もやっているのか?」

「んなわけないだろ、馬鹿。師匠・・・いや、シャラジャユエ・ナージュという人物は大抵女性が相手になるとこの調子なんだよ。お陰で俺が勘違いした人たち相手にどんだけ苦労させられてきたことか。」

「・・・14歳にして色んな経験してんだな。ある意味で尊敬するぞ。」

「お二人とも好き勝手に言っていますが、覚悟は出来ているのでしょうね?」

「「滅相もございません。」」

ヒソヒソ声で話していたのに、しっかり聞こえていたらしい。

因みにリティーヤには聞かれなかった。彼女は今、目が覚めているにも関わらず、夢の世界に旅立っている。

「ジゴロ、とは心外ですね。女性とは常に敬意と誠意を込めて接するべき存在なんです。一部の例外を除いて、ですが。それを怠ったとき、どのようなことが起きるかは、君たちも少ない人生経験中でも色々と見聞きしているでしょう?・・・特にこの村の女性たちは凛々しいと言いますか、逞しいと言いますか。...命の輝きが眩しいばかりの方が沢山いらっしゃいますし。」

「あ~。うちの親父、お袋に頭上がんないもんな。尻にひかれてるってヤツ?」

「クラト、それはちょっと違うんじゃないかな?」

「ええ、何となく近いのですが違いますね。...因みにアルト君の解釈は?」

「え...?えーっとそのー・・・何事も女の人が気分よく受け取ってくれるように接することが物事を円滑に進めるコツってことですか?」

「魔術で解明されることのない世界の真理の一つです。確とその心に刻んでおきなさい。」

「「・・・・。」」


俺とクラトは顔を見合わせた。師匠、あなたのその人生に何があったのですか?


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