3話
魔法
それはこの時代において“再発見された”神秘の力の総称だ。
何も無い処から火を起こしたり、真夏に水を凍らせたり、物を宙に浮かべたり。およそそれまでの常識では割り切れない事象を現実にしてしまうこの力は、使い手がまだまだ少ないこともあってとても貴重なものだ。
とは言っても、魔法そのものは、理論上どんな人間であれ“おこす”ことは出来るらしい。それを自由自在に“使う”ことが出来るかどうかは、一人一人の才能の有無や知識の有無にかかっているのだそうだが。
しかし、魔法を操る才能に恵まれた人間は決して少なくはない。では何故魔法の使い手が少ないのか。それは魔法に関する知識というものが貴重で且つ限定的なものだからだ。
魔法は大きな力だ。使い方によっては今までの世の有り様を一変させてしまうことも有り得る。
その為世界中のどの国も魔法使いを囲い込み、知識の集積と独占に躍起になった。結果、魔法に関係するありとあらゆる知識は強い権力の周りに集まり、その外にいる世の大半の人々から魔法は縁遠いモノとなってしまった。仮に才能があったとしても、使い方が分からなければ世に出ることはない。
よって魔法使い予備軍は己が予備軍であることを知らぬまま一生を終えてしまう。何時までたっても現状が続く限り魔法の使い手が増えていく見込みはない。
だが何と言っても魔法が希少な最大の原因は、魔法の歴史というものが、まだたったの30年そこそこしかないところにある。
冒頭でも述べたが、魔法は“再発見された”力だ。
嘗て大魔導時代と呼ばれた太古の昔、魔法は誰もが扱えた力で、武力や学問、芸術に文化、果ては日常生活に至るありとあらゆる物事全てに用いられていたという。
文明の水準も、今とは比べ物にならないレベルで、今遺跡として残っている建造物やそこに残された道具の大半は、未だに使い方が判っていないという。
そんな大文明を育んだ魔法だが、天変地異が頻発した、後に“厄災の時代”と呼ばれた時期の終わりと同時に、何故か突然欠片も残さず消えてしまった。
突然の魔法の消滅は、そのまま“混乱の時代”を生み出し、“厄災の時代”に唯でさえ減少していた人間は大きくその数を減らしてしまう。漸く世に秩序が再生した頃には、嘗ての栄華の欠片すら残っていなかった。
荒廃した文明において必要とされるのは即効性ある力である。それは武力であり、物力であり、有用生のある知識である。魔法の力は強大で絶大ではあったが、“厄災”とともに世界から消え去った。何もかもが“混乱”に飲み込まれた時代にとって、いつ復活するとも知れない魔法の知識を保つことは不可能であったし、無意味だった。
そんな時代から何千年も経った現代、消滅したときと同様に、30年前のある日突然、何の前触れもなしに魔法は復活した。
そんな天変地異とも云うべき事態を、人々は魔法の“再発見”と呼び、新たな発見を目指して人は、国は、世界は競いあって一度失われた力を魅入られたかのように探し回った。いや、実際に世界中が魅入られていた。
魔法を求めた人々は、やがて他者の手に入れた力を欲し、争い合い、やがては世界を巻き込んだ戦争を引き起す。
泥沼化した争いは弱者を駆逐し、強者が他の強者と睨み合う中で、仮初めの平穏が生まれた。
いつそのバランスが崩れるのか、誰にも予測がつかないなかで、誰もが息を潜めて平和なときを謳歌している。