朝日
――満月が私たちを照らしていた。
私は、弟を背負って砂浜を一人歩いていた。
時は戦国。
あらゆる所で合戦が起こり、世の中は乱れきっていた。
それは私たちの住む村も例外ではない。
ある日、突然村が盗賊に襲われ、大半が殺され、散り散りになった。
私は燃える我が家から骸となった両親に泣いてすがっていた弟を助けだし、連れて逃げた。
逃げて、逃げて、逃げて…しかし行くあてのない旅だった。
私は12歳、弟に至ってはまだ一桁。
ツテもお金もない私たちはどこにも行けず、野宿を続けた。
住むところがなく、食べ物も乏しい生活に耐えられるはずもなく、弟は病に倒れた。
看病するにも、栄養のあるものなんて食べさせてやれないし、宿代なんてとても足りない。
私は今、瀕死の弟を背負い、白け始めた空を見ながら、砂浜を歩いている。
「ねぇ………」
私は、背中の弟に話しかけた。
返ってくるのは、余りにも細い吐息と、小さすぎる心音。
「ねぇ…、一緒にいようね。 辛いことはあったけど、生きていればなんだってできるからさ。 まだ遊び足りてないでしょ?」
「そうだ、また料理作ってあげる。 前は少し顔をしかめてたけど、あれは美味しさを顔に出せないだけだもんね?
その後も頑なに避けていたのは私の手を煩わせないためって言ってたよね?
もう少ししたら、きっと平和な世の中が来る。そしたら私がどこかで働いてお金を稼いで長屋を借りて…
だからさ、だからさ…一緒にいようね?」
返ってくるのは、か細い吐息と、小さな心音だけ。でも心なしか大きくなった気がした。
「そのためにはまずは私、頑張るからね。とりあえずは自由の町と噂で聞いた堺に行く。がんばるからね………あ」
いつの間にか朝日が昇っていた。 幾重もの光線が僕達を照らす。
体が少し軽くなった気がした。
「ねぇ…朝日だよ。 私達を照らしてるよ。 好きだったものね、朝日。 こんなに綺麗に見えるよ?」
太陽に向かって手を伸ばす…そのときだった。
ヒュー…、と空気を切る音が近づいてくる。 しかも数が増えている。
(これは…あの時、村が焼かれたときに聞いた矢の音!?)
体をひねる…しかし、何かに矢が突き刺さる音が何度も聞こえた。 そして、すぐに何に刺さったのか気付いた。
弟だった。 私の背負っていた弟に無数の矢が刺さっていた。
「あ…」
何が起きたのか、理解する暇も無くさらに矢が飛んでくる。
弟に刺さった矢の威力に押され体勢が崩れ、かわしきれず、全身に鈍い痛みが走る。
砂浜に倒れる。 二人の血で砂が赤く染まっていく。
「ああ…あああ……」
喉から声にならない声が漏れた。 …言葉が見つからない。
しかし、周りの声はしっかり耳に残っていた。
「なぁんだ、人間か。 猿かと思って殺しちまったじゃねぇか」
「お頭~、最初から分かってたでしょ~? こんなでけぇ、とろい猿がいねぇってww」
「はっはっはっ、さあな。 まぁ殺しちまったものはしかたねぇ。着物も血が付いて売れねぇな」
「ま、こんなぼろいの二束三文にもなりゃしねえですがねw」
「「「ギャハハハハ!!!」」」
下卑た笑いを聞きながら首を振り、弟を探す。
弟は私の横で波に揺られていた。 血が海へ流れていく。
私は最後の力を振り絞り、起き上がって這って近寄る。 男達が何か言っている、どうでもいい。
抱きかかえ、顔を覗き込む。
形のよかった目を見開き、さらさらだった髪を血と海水の混じったものに濡らされながら……死んでいた。
私の全てが壊れる音がした。
弟に折り重なるように倒れた…全く力が入らない、いや、力を入れようという考えさえ起きなかった。
もう、どうでもよかった。
朝日が目に映る…その光は眩しすぎた。
……昼、砂浜を通った旅人は折り重なって海を見つめる、二人の少年少女の遺体を見つけたとか………




