埋もれ木に花は咲く……のか?
練習作品です。
これらの練習作品は皆様の評価次第では連載するかもしれません。
しいて言うならお気に入り件数か、評価点の合計で決めます。
皆さんは“埋もれ木に花咲く”という諺を知っているだろうか。
この諺は、世間から忘れられていた不遇の人に運が回ってきて、再び世の中に出ることの例えだ。注釈として、土の中に埋もれていた木に芽が出て花が咲くの意からきているらしい。
まぁぶっちゃけると、今までどうでもよいと思われていた人が表舞台に立たされる、ということだと私は解釈している。
ん? 何でいきなりこんな話をしているかって?
まぁ、私にもいろいろあるのさ。
今、私の経営している冒険者の宿『晴耕雨読』(宿の名前は四字熟語の意味を調べてもらえれば分かる。私にはのんびり悠々自適とした生活が性に合ってるんでね)がある、この街『アインスティス』には冒険者があまり来ないということ(この街にあるアインスティス城にいるいくつかの貴族が、冒険者のことを極端に嫌っているらしい。まぁ、私にはどうでも良いがね)だとか、そのせいで客が嫌味なやつか、ウザったい貴族が主(おそらくだが、家に来ているそいつらが冒険者を嫌っている奴らだろうな。金があるだけで、剣の腕や実力も弱いくせにやけにうるさいしな)だとか、な。
後は……そうだな……――――――、
「頼む! どうか俺たちの旅に一緒に来てくれないか?」
――――――宿屋のカウンターに、頬杖をついている私の目の前で懸命に頭を下げる青臭い青年とかな。
「あ~……。すまないがもう一度言ってくれるか?」
私は、最近切っていないせいでまた長くなってきた薄い青色の髪が目にかかっていたので、それをどかして、頭をボリボリと掻きながらその青年に聞き返してみる。
さてと、どんな反応をするかねぇ?
私の返しが意外だったのか、その青年はきょとんとすると、何かに納得したように口を開く。
「え? もう一度か? わかった! 頼む! どうか俺たちの…………」
「違う違う。その前だよ」
私は思わずため息を吐いた。それを見た、その青年の後ろに控えていた、見るからに頭の悪そうな女2人(戦闘正装と神官外套か。服装の質を見ると結構上質な素材。どこかのお嬢様かね?)がこちらをにらんできており、もう1人の青年が2人を抑えているが、私には知ったことではないので無視する。
それよりも、なんだこいつ? さっきは何に納得したんだ? バカか? バカなのか?
私の心の中のそんな罵倒をもろともせず(まぁ、当たり前か)、その少年は意を決したように、さっきこの宿に入ってきて、ろくに挨拶もせずに放ったあの言葉をもう一度繰り返した。
「いきなりで申し訳ないが、どうか魔王を倒す旅に協力してほしい」
ほうほう、魔王ねぇ……?
「魔王って……あいつだろ? あの魔物を率いているあのば…………」
「はい!」
はい! っておい。まだ私が話し終えていないのに話すなよ。はぁ~、まったく、これだから最近の人間は嫌いなんだよ。
まぁ、最近でもないか。人間は昔から愚かだったな。
てか、あいつまた暇つぶしをやっているのかよ。いい加減もう年なんだから普通に生きればいいのに。というか、また人間が先に仕掛けたのかもしれないがな。
それはともかく、まぁ何と言われても私の答えは最初から決まっているがな。
「分かったよ」
「!! それじゃあ!」
私が切り出そうとすると、その青年が目をキラキラと輝かせてこちらを見てくる。
どうやら、私がその旅に付いてくると期待しているようだが、現実は非常であるということを、そのお気楽な頭に教えておくか。
「ああ、もちろん断る」
「「「「はい?」」」」
私の放った言葉に、その場にいた4人の顔に疑問符が浮かぶ。
なんだよその、何言ってるのこの人? って顔は? 当たり前だろうに。
「だから……断る、といったが?」
とりあえずもう一度言っておいてどんな反応をするか見てみるとするか?
ま、大体どんな反応をするかは、様子を見ていれば分かるけど。特に青年の後ろにいる2人。
「こちらが下手に出ていれば、何なのよあんた! 」
「そうですよ! 少しぐらいは協力しなさい! ゾエラ神もご立腹ですよ!」
「お二人とも、どうか落ち着いてください」
私の予想通り(この場合、予想通りではなくて様子見通りが近いか?)、私が言ったことが気に入らないのか、後ろに控えていた女2人が私に詰め寄ってくる。そして、その2人をもう1人の青年がとめている。
あー、うん。こいつも苦労しているような顔と魔力をしてるな。どんだけ苦労してんだよ? 精神力と魔力の歪みが半端じゃないんだが。
それよりもさ、私の目の前にいるこいつや、あんたらを抑えている奴はともかく、お前らがいつ下手に出たよ? さっきから私を睨んできていただけだろうが。
「…………すみませんが、理由を聞いても?」
2人のお嬢様方が騒いでる間に立ち直ったのか、私の目の前にいた青年がそう尋ねてきた。
理由ねぇ? おいおい。それくらいさぁ、この宿に入ってから今までのお前らの行動から何か思い当たらないのか?
「いきなり入ってきたと思ったら、名乗りもせずに『魔王を倒す旅に協力してほしい』とかいうやつらが信用できるわけないだろうが」
「それは……」
私の言葉に2人の青年が言葉に詰まる。
そうなのだ。こいつらは入ってきた途端に、自分たちは名乗らずに一方的に話し始めたのだ。
まぁ私が経営しているこの宿は冒険者の宿なので、一方的に話されることは多々あるが、それでもそういったやつらは宿が目的なので、部屋は開いているか? と、聞いてくることが多い。
つまりは(自分で言っておいてなんだが、何がつまりなんだか)、今のこいつらは私にとってのただの迷惑客、だってことだ。
「さぁ、宿を使うつもりじゃないんなら、さっさと帰ってくれ。一応、こんな宿でも泊まりに来てくれる奴らがいるんだ。そいつらの邪魔になるだろ? ほら、帰った帰った」
私はそう言って、虫を追い払うかのように手を振ってみる。
てか、さっさとどっかいけよ。あんたらが何者であるかは知らないけどさぁ、そこに居座られるとほんとに邪魔なんだよ。
「えっと……もしかして伝わっていないんですか?」
「何がよ?」
そんな私に、お嬢様(笑)2人を抑えていた青年(今更ながら、その青年がこの街の騎士団の鎧を着ていることに気付いた。てか、こいつは今の騎士団長じゃね?)が遠慮がちにそう聞いてきたので、聞き返してみる。
騎士団長(暫定)がそう聞いてくるなんて、一体全体何のことだろうね?
「はい。実は魔王を倒すために、国宝である聖剣により勇者が選出されましてね」
「ああ、もう言わなくてもいい。そいつが勇者で、お前らが従者なんだろ? 騎士団長殿」
「ははは……。私の正体にお気づきでしたか」
話の最初を聞いて、こいつらの目的(まぁ、最初に聞いたとおり、魔王退治なんだが)をある程度理解した私がそう指摘すると、騎士団長(断定)の青年は気まずそうにそう返す。
やっぱりこいつ、騎士団長だったのか。鎌をかけたつもりだったんだが。
ん? そういやこいつ、何回か街中で見たことがあったが、あんまり覚えてないな。
…………なんか特に記憶に残らないやつだな。
「今、何か失礼なこと考えませんでした?」
「ん? いや、おまえは特に記憶に残らないやつだなぁ、とな」
「ははは……気にしていることを」
そう言ってなんか黒い空気を纏いだす騎士団長。
なんだよ。気にしてたのか。でもまぁ、事実だし、私自身嘘はつきたくないしな。
「で? そんな勇者御一行がなんでこの宿に来た? ここは冒険者専用の宿なんだが?」
私は黒い空気を纏っている騎士団長を無視して、勇者であろう青年に問いかけてみる。
ん? お嬢様(笑)の二人には話しかけないのかって?
当たり前だろ? あいつらはどう見ても、私と話し合いなんてする気はなさそうだし、私自身もあいつらとは話そうとする気はない。
こいつのことが好きなのはわかったから、睨むのをそろそろやめろ。というか、むしろきもい。勇者が他の女を見たりしたときに睨んだりするくらいなら、さっさと告ってしまえ。
今のままじゃあこれから先の旅で、周りに迷惑をかけるぞ?
「はい。ここの王様に、頼りになる仲間を探している、と伝えたらここを紹介されました」
おおっと。そんなことよりも今はこっちが先決だったな。
というか、この国の王だと? あの野郎……。人を売りやがったな……! まぁ、私は人ではないけどな。
「あのバカ……!! 絶対に殺してやる……!!!」
「む、無理に決まっているわ!! 私のお父様は剣も魔法も国一番なのよ!! あんたなんかが勝てるわけ……!!」
私の口から思わず漏れた呪詛に、戦闘正装を着た方のお嬢様(笑)が反応した。
ん? お父様? ・・・・・・!! こいつ、王様の娘かよ!!
「その得意な剣も魔法も、誰があいつに教えたと思っているんだ?」
「「「「え!?」」」」
その場にいた、私以外の人間が驚いたような表情をして私のほうを見る。
まぁ、そうだろうな。
「あいつに剣や魔法を教えたのは私だ」
あいつは結構要領がよかったから楽だったがな。ほかのやつらはいつまでたってもへなちょこだったしなぁ。
まぁ、神官と魔法使いに剣や魔法剣は無謀だっただけだろうが。
「…………失礼ですが、あなたの種族は?」
先ほどまで黒い空気を纏っていた騎士団長が、ちらっと、後ろにいるお嬢様(笑)を見てから(騎士団長の視線からして、おそらく2人のうちの神官外套を着ている方だと思う)声のトーンを落として話しかけてくる。
なるほど。私の見た目は16くらいの女の子だからなぁ。私があいつに教えた、といっても信じられないのも当然か。
それに、そのお嬢様(笑)の魔力には面白いくらいの負の感情が見える。大方、長寿系の種族と何か因縁があるみたいだな。それも私の種族だろうな。
「あんたの推測通り、私は吸血鬼族だよ。年は140くらいか? ま、人間にすれば14。エルフにすれば7といったところか」
吸血鬼の寿命はやけに長い。人間の10倍、エルフの5倍といったとこか。
もっとも、同じく長寿種族の神族の1.5倍くらいもあるんだが。やけに長いよな、まったく。
「吸血鬼……!!」
私の種族を知ったとたん、神官外套を着ている方のお嬢様(笑)が殺気立つ。
ふ~ん……。
「なるほどな。かつて吸血鬼族に家族を殺された、か。だからって私に当たるな」
「黙れ!」
そういって私に向かって光属性だろう魔法を構築し始める。
単純だね~。確かに吸血鬼に光が聞くっていう噂は有名だけど……甘いよ。甘すぎる。
「なっ!?」
私は構築された光の魔法を素手で掴むと、そのまま握りつぶす。私に握りつぶされた魔法は、そのまま四散すると魔力となって私の中に入ってくる。
うん。魔力はやっぱりうまいな。
「基本的に吸血鬼族には魔法は効かん。それと、伝承では光や十字架に弱いとかなんとか言われちゃいるがな、そんなのは迷信だよ」
「そ、そんな……!?」
驚いているようだが、実際にそうなんだよな。長く生きているから効かないんじゃなくて、元から効かないんだ。
というかさ、
「吸血“鬼”なんて言われちゃいるが、吸血鬼族もあんたらが信仰するゾエラの野郎と同じ神、いや神に近い存在なんだよ」
「「「「!?」」」」
まさかの事実だろ? 私もびっくりだよ。だけど30年ほど前に、ゾエラのやつから直接聞いた話だし、まず間違いはないだろうな。
「かつて、あいつらといった旅で、やつから直接聞いた話だ。それ以上気になるなら、かつての勇者、そいつの親に聞け」
私はそう言って戦闘正装を着たお嬢様(笑)を指さす。すると、他の三人の視線が彼女に視線が集まる。
どうやら知らないようだな。
「あいつら、つまりそいつの父親と母親、そして他に、今は何しているか知らないが、クリスっていう神官と私。それが初代勇者と言われている奴らだ。それとやつっていうのはゾエラのことな?」
「「「「!?」」」」
さっきから驚きすぎだろ……。まぁ、私のことは伝えてもらわないようにしていたし、あいつら自身も目立つことを嫌っていたしで、知らないのも仕方がないと思うけどな。というか、むしろ知っている奴が怖いな。
てか、神官様どうしたよ? 顔が真っ青だぞ?
「ま、まさか……! あなたの名前はメア・ヴィネス様ですか……!?」
「……確かにそうだが、まさかおまえら、あいつに名前も聞かずに私のところに来たのか?」
本当に馬鹿かこいつら。てか今度は様づけか?
「…………す……」
「す?」
「すみませんでしたーーーーーーー!!!!!!」
そう叫んで、急に土下座をする神官お嬢様。
いきなりどうしたよ? ほら見ろ。今の叫び声と絶賛公開中の土下座の所為で、周りの奴らドン引きだぞ?
「まさかあなた様が父の言っていたメア様だとは思いませんでした! これまでのご無礼、どうか、どうかお許しください」
額を床に押し付けたまま、そう懇願する神官お嬢様。
ん? お父様? あいつが言っていたお父様は王。ならこいつの父ってもしかして……!?
「おまえ、クリスの娘だったのか……」
「……はい。父がお世話になったそうで」
私が指摘すると、ようやく顔を上げた神官お嬢様は先ほど見せた憎悪に満ちた目ではなく、尊敬の意が込められた目で私を見つめてくる。
あいつ、こいつに私のことをどう説明したんだよ。ん? それよりも吸血鬼族に両親が殺された? てことは……、
「あいつ、死んだのか」
「ええ、吸血鬼族に囲まれて……」
わたしがそういうと、神官お嬢様は顔を伏せ、ぽつりぽつりと話し出す。私は彼女の説明を聞いてある疑問が浮かんだ。
「…………本当にクリスを殺した奴らは吸血鬼族か?」
「え?」
頭に浮かんだ疑問が思わず口に出ていたようだ。だが、実際に気になることがある。
「そいつらの特徴は?」
「え? あ、はい。闇属性の魔術を得意としていて、ものすごくすばしっこかったです」
私の急な質問に対しても、すぐにそう返してくる神官お嬢様。
だが、これだけじゃ情報が足りないな。もう一つ重要なことを聞いておこう。
「クリスを殺した奴らに魔法は効いたか?」
そう、これでそいつらがあの時の奴らか吸血鬼族か、が分かる。さぁ、どっちだ?
「ええ、父の魔法は効いていました」
「!! てことは……」
これで確定したな。これは魔王ではなく、奴の仕業ってことだ。そうと決まれば……!
「気が変わった」
「「「「え?」」」」
私とテンションの移り変わりの激しい神官お嬢様の会話についてこれず、宿の隅っこで話し込んでいたやつらが聞き返してくる。
というより、その聞き返しをやめろ。
「気が変わった、と言った。その旅付いて行ってやる」
「本当ですか!?」
そういって私の手を掴んでぶんぶんと振る勇者。
手が痛いから止めてくれないか? てか、そっちのお嬢様(笑)は睨むのをやめろ。あれ? なんで神官お嬢様は私じゃなくて、勇者を睨んでいる?
まぁ、いいや。
「改めて名乗るが、メア・ヴェネスだ。これからよろしく頼む」
先ほど名乗ったが、一応名乗っておくか。てか、私はこいつらの名前を誰一人知らないんだが?
……騎士団長は知っているが。…………別に忘れていただけだ。
「はい! よろしく頼む。俺はクライス・ベルティアだ」
「わ、私はメシア・アインスティスですわ。あなたとは仲良くする気はありませんわ!」
勇者がクライスで、現国王の娘がメシアね。
安心しろ。私もあんたと仲良くする気はない。馬鹿がうつる。
「私の名前はルクシア・ヴェルです。よろしくお願いしますね、お姉さま」
「僕の名前はシリア・クウェルス。騎士団長です」
神官お嬢様がルクシアで、騎士団長がシリアか。そうそう、そんな名前だったな。
てか、ルクシア。お姉さまってなんだ、お姉さまって。私を見る目つきが若干危ない様な気がするんだが。
まぁ、それはともかくとして、
「今から、私がいない間のこの宿の管理の話だとか準備をしてくるから、また明日にここに来てくれ」
店の経営はこういったことが面倒なんだよ。畑の管理とかもあるしなぁ。
「分かった」
私の言葉に勇者、いやクライスだったな、が頭を下げて宿を出ていく。それを追う様にして、あのバカの娘が、こちらを振り向きもせずにさっさと出て行く。
その様子に苦笑しながら騎士団長(シリア……だったけ?)とルクシアが宿を出ていく。もちろんこちらに向かって一礼するのは忘れない。
できたやつらだなぁ。まぁ、神殿や騎士団にいるんだから、当然と言ったら当然か。むしろあのバカの娘の教育というか礼儀がなっていないだけだな。
…………旅に支障が出ないといいんだが。
それにあいつらが相手となると、勇者一行には荷が重すぎるな。最悪、私しか戦えない可能性もある。
「……出来る限りのことはしておくか」
誰に言うわけでもなくそう呟くと、店の奥へと入っていく。
やれやれ、せっかく落ち着いてきたと思ったのにすぐにこれか。まぁ、もっとも、
「そうであるから面白い」
その呟きは、私以外、誰も居なくなった店内に木霊した。
続く……のか?
この作品を含む短編は全て思いつきで書いたものですが、感想をもらえればうれしいです。
時間があれば他の作品を読んでいただければ、より嬉しいです。