1話 スライムになった
いきなりだが、もしもいきなり魔王になって異世界に転生したらどう思うだろうか?
困惑?喜び?
魔王というのは絶対的強者で人間の敵だ。今まで人間だった奴がいきなり魔王になれば普通は驚く。
次に、もしもいきなりスライムに転生したらどう思うだろうか?
スライムといえばよくRPGで出てくる最弱のモンスターだ。そんな食物連鎖の最底辺に生まれ変わったとしたらどうするだろう?
では、ここからが本題だ。魔王でスライムに転生した俺はいったいどうすればいい?
◇◆◇◆◇
気がついたら俺は青いゼリー状の奴らに囲まれていた。
「っふ。」
どうやら俺は疲れ過ぎて変な夢でも見ているらしい。
俺が今いるのは祠のような場所で、周りには青いゼリー状の物体がうようよいる。おそらくスライムだ。俺のよくやるネットゲームに似たような魔物がいたから間違い無いだろう。
さて、そんなスライムの中心に立つ俺は何なのかというと、驚くことに銀色のスライムだ。
なんと不気味な夢だろう。
そんな風に夢が覚めるのを待っていると、人型のスライムがやってきた。
「銀とは珍しい。」
俺のことを指差す人型スライム。
「変な夢。」
ぷよぷよした体が震え、俺の声が発せられた。
「ほう、もう喋れるのか。」
しばらく経ち、続々と現れる人型スライム。
よく見ると人型スライムの体型もそれぞれ違う。女っぽいのもいれば男っぽいのもいる。ただ、どれもノッペラボウみたいな顔しているのは変わらない。
「村長、銀の子です。」
村長と呼ばれたのは少し腰の曲がった年寄り型スライム。
「なんと、儂も長年生きておるが、銀の子など初めて見るわい。」
俺の周りに集まり包囲するスライム達。正直怖いんですが。
「まずは子供達を村に運ぶのじゃ。この銀の子については後ほど話すとしよう。」
という訳で人型スライムに運ばれる俺と、その他のスライム達。
今の話を聞く限り、俺達はどうやらスライムの子供らしい。夢にしては随分と凝った設定だ。
祠を出るとそこにはスライムの村があった。木製の建物や、塀などもしっかりした驚く程文明的な村だ。
スライム以外の種族も見受けられる。巨大な芋虫が荷物を引いたり、オークだと思われる魔物が木を運んでいたりしている。
それと、スライムにもいろいろな種類がある。人型もいれば四つ足で歩く獣型、巨大な体を持つ巨人型などだ。
「面白いな。」
スライムが人間と変わらないような生活をして暮らしていたとは知らなかった。
まぁ、夢なんだけど。
そんな風にスライム村観光をしていると、いつのまにか木造の建物についていた。
俺も含めたスライム達はその木造の建物の中に運ばれた。
中には多くの人型スライムがいた。これから会議でもするのかもしれない。
「銀以外の子供はいつも通り選別を行う。
異議はあるかのう?」
村長さんが話し始めた。
「いいえ。
銀の子は大変珍しいのは確か。選別とは別にするのは当然でしょう。」
「しかし、銀の子を成長させる為にはいずれ森には出さなければならないのでは?」
村長以外のスライムが発言する。
余談だが、村長スライム以外のスライムは外見的特徴がほぼないので分かり難いくて困る。
「うむ、それに関しては儂の孫娘を銀に付き添わせようと思うとる。あの子もそろそろ試練の時じゃから丁度良いじゃろう。」
「つまり、この銀を次期村長にすると?」
「それは孫娘次第じゃよ。」
「ですが最悪の場合、銀も村長のお孫さんも死んでしまいます。」
「その時はその時じゃ。儂の孫娘と銀が弱かっただけということ。」
「分かりました。
では銀以外の子供を撒いてまいります。」
今の話の内容が全然分からない。俺の夢のくせに不親切だな。
とりあえず、分かることをまとめると、
・俺以外の子供はどこかに連れて行かれる。それは選別である。
・俺は村長の孫娘と共に試練を与えられる。
こんなところだろうか。
村長以外のスライムが俺以外の子供スライムを連れて行く。
そして残ったのは俺と村長だけになってしまった。
「銀よ、そなたは既に言葉を扱えるそうだな。」
「まぁな。」
一瞬、敬語で返すか迷ったがここは夢だからな、別に敬語じゃなくていいだろう。
「自分が銀色であることがどういう意味か分かっておるか?」
「全く、分からねぇ。」
「銀というのは高貴な色でのう。生まれながらに魔力や身体能力が高いんじゃよ。」
へぇ。細かい設定だな。
「だから俺に期待しているわけか。」
「そうじゃ。儂らスライムは弱い魔族じゃからのう。強き戦士を望んでおるのじゃ。」
あ、やっぱりスライムだったんだ。型が変わったりしていたからスライムじゃないのかとも思ってたけど。
「俺はいつあんたの孫娘さんと試練とやらに出されるんだ?」
ここまで来たら夢が覚めるまではこの夢を楽しむとしよう。
「明日かのう。今から孫娘に説明するとなると。」
「俺はどうすればいい?」
「お主は儂の家に来てもらおうかのう。そこで孫娘にも合わせるとしよう。」
という訳で村長の家にお邪魔することになった。
村長の家はこの村の中でも一際大きい。他の家の約二倍くらいはあるだろうか。
「ここが儂の家じゃ。中に儂の孫娘もおる。仲良くしてやっておくれ。」
村長の家に入ると、人型スライムに迎えられた。
「あらお父さん、遅かったわね。」
どうやら、この人型スライムは村長さんの娘(体型が女性だから)らしい。
「少し問題が起きてな。銀の子供が産まれたんじゃよ。」
俺は丁度、村長さんの陰に隠れてしまって村長の娘さんからは見えないようだ。
「まあ。
銀色の子供が自然発生だなんて、よっぽど世界に愛されて産まれてきたのね。」
「明日、銀とレイシアを試練に出そうと思っておる。」
今の文脈から推測するに村長さんの孫娘の名前はレイシアというらしい。
一応、覚えておくか。
「明日!?
いくら何でも早過ぎます。」
「仕方あるまい。それにいつかはレイシアも試練には出さねばならないのじゃからのう。」
「それはそうですけど。」
「それに銀と共に行くのならば普通よりも遥かに生き残る確率が上がるじゃろうて。」
「確かにそうですね。」
「では、母であるお主からレイシアには伝えておいておくれ。」
「分かりました。」
「それと、今日は銀が家に泊まることになった。面倒を見てやっておくれ。」
そこで俺は村長の後ろから村長の娘さんに見えるよう前に出た。
「あら、ごめんなさい。気がつかなかったわ。」
「いや、気にしてない。」
「凄いわね、既に言葉を喋れるなんて。自然発生なら人の血も入っていない筈なのに。
銀色だからかしらね?」
そう言えば最初にあった奴も俺が喋れることに驚いていたな。
本当は人間なんだから喋れて当たり前なのだが。
「銀にはレイシアと会ってもらおうと思うとる。」
「では早速、レイシアに話をしてきます。」
村長の娘さんはそう言うと二階に上がっていった。
「銀よ、待つ間に儂が魔族についての基本を教えてやるわい。」
「頼んだ。」
夢の中での魔族設定はどんなことになっているのか興味がある。
俺は村長と共に村長の書斎だと思われる部屋に案内された。
「まずは儂と銀の違いについて話そうかのう。」
それは俺も気になっていた。俺のこと自然発生したとか言っていたしな。
「儂等スライムの生まれ方は大きく分けて二つ。
一つは生殖による繁殖。儂や儂の家族はもちろんこの方法じゃな。
もう一つは自然発生。あの祠から何故かスライムが産まれるのじゃ。この村も元々自然発生したスライムが集まってできた村なのじゃよ。」
「生殖で産まれたスライムと自然発生したスライムの違いはなんだ?」
「その質問に答えるなら、生殖には細かく分けて更に二つあることを説明せねばならんのう。
生殖にはスライム同士との交配と、スライムと異種族との交配がある。
異種族との交配で産まれた子供は異種族とスライム、両方の力を持っていることがあってのう。その子孫も代々異種族の力も持つようになるのじゃ。
例えば儂等には人間の血が混じっておる。だから知能も高いし、言葉も喋れるのじゃよ。
しかし、自然発生したスライムは純粋なスライムじゃ。そのような能力はない。」
なるほど、だから純粋スライムの俺が喋れることに驚いていたのか。
「あと話しておかねばならないのは儂等スライムの力についてかのう。」
「スライムの力?」
スライムの力なんて体が伸びることくらいじゃないのか?
「まずは職業とスキルについて話すかのう。これは別にスライムに限った話じゃないのじゃがな。
職業というのは主に人が手に入れられる力で例えば【戦士】というものがある。【戦士】の職業についた者は剣を上手く扱えるようになり力や速さが増す。このように職業に合った能力に体が変化するんじゃ。
次にスキルじゃが、これは多種多様の現象を起こす力でのう。スキルは種族、職業、経験、血筋、などによって様々な種類のものを覚えられるのじゃよ。
で、儂等スライムの力、つまりは覚えるスキルは二つ、【変身】と【変形】じゃ。
【変身】は儂等が人型になるような変身をするスキルで、【変形】は肉体を自由に変形させるスキルじゃな。」
夢のくせに何て複雑な設定なんだ。
「俺も【変身】とやらで人型になれるのか?」
元々人間の俺だ。できれば人型でいたい。
「そこで先の生まれの違いが出てくるのじゃ。
人の血を継ぐ者は人型に変化できるし、獣や亜人の血を継ぐ者はその形に変化できる。
だが、自然発生のスライムは基本的には【変身】は使えないのじゃ。
お主は銀の子じゃから分からないがのう。」
村のスライムの形が多種多様だったのはそんな理由があったのか。
「最後に魔法についても話しておこうか。
魔法は知恵があり、魔力のある生物なら使うことができる。しかし、それには才能が必要でのう、儂等の中で魔法が使えるのは儂の孫娘、レイシアだけじゃ。」
魔法まであるのか。なんてファンタジーな夢なんだ。
「スキルや職業はどうやったら分かるんだ?」
「望めば感覚的に分かる筈じゃ。」
試しにやってみるか。
おぉ、これは確かに感覚的なものだな。
……え?
待て待て、嘘だろ?
いや夢だからなんでもありなのか?
とりあえず、この感覚的なものを視覚化してみよう。そうすれば俺の驚きも理解できる筈だ。
《銀》
種族:【白銀のスライム】職業:【魔王】
<スキル>
【変身】
【変形】
【魔王の刻印】
どうやら俺、魔王らしいぜ。