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心惑う

「ほぅ、こいつから馬をふんだくったのか。」

「うんっ!」

 鈴は馬に乗って見事に手綱を捌きながら微笑んだ。

「―――ったく大損さ。」

 友人は苦笑しながら荷物を俺に渡した。

「よし、じゃあ行くか。鈴。」

「うん。」

 俺は愛馬に跨ると、馬の腹を蹴った。

 同時に鈴が馬を駆る。

 彼女は前に出て颯爽と馬を扱う。

 なるほど、うまく扱えている。

 ここまで教え込むとは、奴も侮れんな……。

 俺はそう思いながら馬の腹を軽く小突いた。


 俺の小屋に戻ると、鈴は一緒に乗せていた子犬の胡桃を降ろした。

 胡桃は嬉しそうな鳴き声を上げてその場で飛び跳ね回った。

 俺達は馬を小屋の脇の木に結わえ付けた。

「さて……二頭もいると馬小屋が欲しいな。」

 俺は呟きながら小屋の扉を開けた。

 中は暗く、少し汚れていた。

 囲炉裏に火をいれると、鈴は何も言わずにせっせと掃除を始めた。

「薪を切ってくる。」

 俺はそう言うと、外に出た。


 俺は森から木を剣で斬り倒すと、持てるような適当な大きさで寸断して小屋の近くに積み上げた。

 そして、それを薪の大きさに切り分けながら、ふぅ、とため息をついた。

 何となく、鈴と一緒にいると気まずくなっているのだ。

 たかが子供だというのに……。

 自己嫌悪しながらますます力を込めて木を斬る。

「孟起……大丈夫?」

 と、その音が小屋に響いたのか、鈴が心配そうに除いてきた。

「いや……何でもない。少し素振りして汗を流してから戻る。」

 俺はそう言うと剣を取って一心不乱に振った。

 型は乱さない。だが、端から見たら何か変だろう。

「分かった……。」

 鈴は少し声を抑えて言うと、小屋に戻っていった。

 何て馬鹿なことをしているのだろうか。

 鈴にこんな心配させるなんて。

 自嘲の笑みを浮かべながら剣を振る。汗が滴り落ちていた。

 機嫌を損ねていないだろうか。今日は少し味噌を多めに……。

 そんなことを考えていて気づいた。

 何故、俺は機嫌を取ろうとしているのだ?天下の猛者であり、その手腕を買われて将軍になったことのある俺が?

 俺は剣を降ろして再度、自嘲の笑みを浮かべた。

 仲間が言っていた通りだ。

 女は、毒だ。

 俺は小屋の近くの川に行くと、剣を洗って岸に置くと水の中に身体を沈めた。

 ひんやりとした感触が俺に冷静な思考をもたらした。

 考えてみても、鈴は純粋な小娘だ。

 俺の思考を犯す術を心得ている訳ではない。

 となると、俺自身が……好感を抱いている?

 俺はまたしても激しく自己嫌悪の感情を抱いた。

 胸を掻きむしりたくなる衝動を堪えきれずに、俺は頭まで水に浸かると豪快に水を掻いて泳ぎ始めた。

 激しく上流に向かって泳ぎ、力尽きた。

 何をやっているんだ……俺は……。

 仰向けで水に浮きながら苦笑した。身体は川の流れに任せて流れていく。


 何となく、好感を抱いていた同じ立場の将軍のことを思い出した。

 女は毒だ、と彼の兄はいつも言っていたにも関わらず、彼は女に入り浸りその上、大酒飲みだった。

 だが、彼はそれが身を滅ぼすことが分かっていたのだろう。

 奴はある日、俺と酒を飲み交わしながら言ったのだった。


『いい女を見つけろよ……。適度に目を覚まさせて、目を曇らせてくれる、お前の真実の目になってくれる女を……。ただ、勘違いして悪い女を拾ってちまったら……毒で身を滅ぼすぜ。』


 奴は数日後、酒と女で酔っている時に部下に殺された。


「孟起ー?どこー!?」

 鈴の声で我に返った。

 大分下流の方に流されてしまったらしい。

 俺は方向転換をすると、静かに水を掻いて上流に昇り始めた。

 火照っていた身体はもう冷え切っていた。


 そのせいか、俺は翌日、病にかかってしまった。

「くぅ……不覚……。」

 熱で頭がぼーっとする。

 抜かってしまったようだ。

「孟起……大丈夫……?」

 鈴が心配そうに訊ねてきた。俺は苦笑を漏らした。

「大丈夫だ。申し訳ないが、あいつに薬草を貰ってきてくれないか?代金はツケで。」

「……分かった。」

 彼女は小さな声でそう言うと、外に出て行った。

 暫くすると蹄の音が響き、遠ざかっていった。

「情けないな……。」

 俺はあはは……と笑い声を口に出して笑った。

 ここ数年、こんなことはなかった。

 そう共に笑ったのは軍で同僚だった将軍のあいつだけだ。

「情けないよな……翼徳……。」

 奴の名を呟きながら俺はもう一度笑った。


 俺は俺自身が毒だったのかもしれない。

ハヤブサです。


孟起が倒れてしまいましたねー。

昔の初な人はこんな感じだったんでしょうかね……。


それとも開き直って?


いろいろ想像力が掻き立てられます。


感想お待ちしています!

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