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帰還す

 俺は愛馬を引いて友人の元に戻った。

 愛馬の鞍袋の周りには盗賊達の首がぶら下がるというあまり絵にはならない光景を醸し出しながら歩かせていく。

 もう朝になってしまった。生け捕りにした鹿を捌いて朝飯にしよう。

 などと考えていると、奴の住まいが見えてきた。

 ―――む?

 俺は立ち止まって奴の住まいの前を見た。

 誰かが木刀で素振りをしている

 まさか……。

 目を凝らして見ると、予想通りの人物だと分かった。

 劉鈴だ。

 毎日欠かさずやっているようだ。

 嬉しいものだな。

 俺はそう思いながら馬を引いて、ふと考えた。

 こんな気持ちになったのは久しいな。

 これは……甥の(たい)が敵将を討ち取った時以来か。

 岱―――達者にしているだろうか。まぁ、武人たるもの、不養生はしないだろう。

「劉鈴。」

 住まいの方で声がした。どうやら、奴が鈴を呼んだらしい。

 俺は十分、近付くとゴホンと咳払いをした。

「あ、孟起!」

 鈴は俺に気づいて駆けてきた。

 俺は二三歩進み出ると、彼女に生首を見せないよう配慮しながら鈴に近付いた。

「お帰りっ!孟起!」

「ああ、ただいま。鈴。」

 俺はそう言うと近付いてきた彼女の頭を撫でてやった。

 すると、彼女は気持ちよさそうにとろんと目を閉じた。

 猫のような奴だな。

「帰ったな。孟起。」

 友人は微笑みながらゆっくりと俺に近付いてきた。

「とりあえず、依頼の品はその馬にどっさりとまとまっている。」

 俺がそう言うと、友人は頷いて馬を引いて住まいの方に誘導していった。

「少し臭うよ。孟起。」

 すんすん、と彼女は鼻を鳴らして言う。

「血生臭い。今回の相手にしていた人って強かったの?」

「うん?何でそう思うんだ?」

 俺は奴の住まいの方に歩き出しながら訊ねた。

 鈴は俺の後ろを歩きながら笑っていった。

「だってね、孟起はいつも返り血を浴びないじゃない?」

「……そうか。次からは気をつける。」

 俺はそう言うと、鈴は慌てて言った。

「あ、そういう意味じゃなくてっ!」

「分かっているさ。だから、お前を守れるように頑張っていく。」

 俺が微笑んで言うと、彼女は嬉しそうに笑った。


 夜となった。

 俺の生け捕りにしてきた鹿の肉で旨い夕餉を終えると、鈴はすぐに寝てしまった。

 俺と友人は火を囲んで報告などをしていた。

「―――ということだ。盗賊の頭領格のを三人、その他雑多な奴が何人かだ。」

「確かに首を確認した。報酬だな。」

 友人は頷くと、袋を俺に放った。

 チャラチャラと小気味いい音を立てて俺の掌の中に収まる。

 俺はそれを懐にしまうのを、友人はニヤニヤと笑いながら見ていた。

「中身は確認しないのか?」

「大事なのは銭よりも衣食住だ。」

 俺は素っ気なく言うと、奴はますますニヤニヤと笑う。

「何がおかしいんだ。」

「いや、本当に鈴のことを大事に思っているんだな。と思ってな。」

「何を馬鹿なことを。」

 俺は少し殺気を飛ばしながら言うと、友人は呵々と笑った。

「怖い怖い。だがな、以前の貴様だと、守ろうなんて気はおきていたか?」

 言葉が詰まった。どうやら、朝の鈴とのやりとりを聞かれていたらしい。

「いい加減、自分に素直になったらどうだ。」

「ほざけ。」

 俺はそう言うとそっぽを向いた。

 だが……彼の言葉もまた、真実なのだ。

 ここ数日間で鈴の存在は大きくなりつつあった。

 軍の上司から頂戴した女でもそんな気持ちにならなかった。

 何故、鈴という少女はこう、私を揺るがすのだ?

「鈍い奴め。」

 友人は笑いながら、脇に手を伸ばした。

「貴様から預かった木簡……これはいろいろ書かれていた。貴様の仕えていた軍のこととかな。聞きたいか?」

「いや、俺はその時の俺ではない。」

「そういうと思った。」

 奴は頷くと、パラパラと木簡を並べた。

「この中で鈴の文字が出ていたのは数カ所のみだ。となると、軍の関わりのある少女ってことになるな。将軍の娘か……。兄妹……。ないしは人質か……。」

「そんなのはもはや関係ないと思うがな。鈴は鈴だ。」

「だが、帰すのではないのか?」

 友人の指摘にまたも俺は言葉を詰まらせてしまった。

 そうだ……。その方が鈴や俺にとっても……。

「重要な部分は汚れていて分からない。復元に時間が掛かるが、気長に待っていてくれ。」

「おう。それであの輝く石は何だったんだ?」

「―――貴様、知らんのか?」

「ああ、何しろ無学だったからな。」

 俺がそう言うと、奴はため息をついた。

「胸を張って言うことか……?まぁ、いい。これは龍鉱石。超貴重な石でこれを持つ物は龍から国を作る権威を授かった、ということを示している。つまり―――。」

「皇帝になれるって訳か。」

「そうだ。それから推測するに、彼女は皇帝麾下の将軍の娘で、その将軍は皇帝に反感を抱いていたため、これを盗み出して鈴に持たせて逃がした、って所かな。」

「ほぅ、貴様が言うのならそうかも知れぬが、それはどうするのだ?売るか?」

「阿呆。こんな目立つ物を売ったら私らはここにいられなくなる。出所が分かってな。」

「ふむ……。」

「だから、これは貴様が預かれ。」

 そう言うと、奴はそれを小箱にしまうと小袋に入れて俺に渡した。

「俺からしたらこれは石ころだぞ?」

「だったら捨てるなりしろ。だが、これだけは肝に銘じておけ。」

 そう友人は言うと、剣を抜いた。

 殺気も動きもない行動だったので俺は油断してそれを許してしまった。

 俺の首筋に剣の先が突きつけられる。


「不用意な処分をしたら、貴様らだけでなく、俺にも害は及ぶ。これまでの暮らしは出来なくなるぞ。」


 俺は剣を払いのけながら頷いた。


 その背中を嫌な汗が一筋流れ落ちた。

ハヤブサです。


孟起さんが戻ってきました。

いや、孟起さんの正体を悟れるように分からないように頑張って書いております。

ストレートに書ければ良いのですが……。


ネタばれおkの人は是非、ググッて下さい。


さて、鈴の正体はいかに……?


次の話はどうしましょうかねー。


感想お待ちしていますー。

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