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馬乗り

人間に跨っている方ではなく、普通に馬に乗っています。

今回は『友人』視点です。

 ひひひんっ!

 突如、馬が嘶いた。

「うわわわっ!」

 劉鈴は悲鳴を上げながら馬の首にしがみついた。

「どうどう。」

 私は手綱を引いて馬を大人しくさせる。

「焦るべきではないぞ。ゆっくりとな。」

「でも……。」

「焦っては事を仕損じる。あいつの足を引っ張りかねない。」

 私がそう諭すと、鈴は唇を噛んで馬上で姿勢を立て直した。


「馬、だと?」

 馬の乗り方を教えて欲しいと鈴が言ったのは今日の早朝だ。

「うん……いつも孟起に乗せて貰っているから……自分でも乗れて孟起を助けたいから……。」

 鈴は目を足下に落とし、健気にそう言う。

 私はその気持ちがひしひしと伝わってきたが、何分、馬がこの住まいにはない。

 あるにはあるが、それは商品だ。

「その気持ちは分かるが……。」

「お願い、お兄ちゃんっ!」

 キラキラとした瞳で懇願する少女。

 ―――あー、損な役回りだな。

 馬は傷をつけなければ問題ないだろう。

「仕方がないな。大人しい馬が確かいたはずだ。」

 私は一つため息をつくと、立ち上がったのだった。


 しかし……。

 私は鈴の馬捌きを見ながら、ふむ、と声を漏らした。

 ここまで上達が早いとは……。

 鈴はすでにその馬を乗りこなしていた。

 さっきのように不意に嘶かれてコントロールを失うこともあるが、もう少し練習すれば慣れるだろう。

 ひひんっ、とまた馬が嘶いた。

「おっ、とっ、とと……。」

 鈴は手綱を引きながら制御する。

 ほら、もう呑み込んだよ。早い。

 もう、私が補佐する必要はないかもしれない。

「うまいな。何かコツでもあるのか?」

 私がそう言うと、鈴は微笑みをこっちにくれた。

「孟起を想ってやったの!」

 ―――あー、妬けてくるなー。

 良い子を拾ったなぁ。あいつ。

「じゃあ、賭けでもしようか。」

 少し意地悪になって言ってみた。

 鈴が馬の手綱を引きながらきょとんとした顔をする。


 私は愛馬―――赤い馬を連れて歩いていた。

 鈴とその馬ももちろん一緒だ。

 目的の場所につくと私は鈴の方を向いて言った。

「今、のんびりと歩いてきた道、分かるか?」

「う、うん……。」

「これで六里ほどだ。」

 ちなみに、西暦二千年ほどの日本だとこれが三キロと表記されるがこれはまたの話だ。

「馬の走りやすい平坦な道を選んだつもり。ここで最も早く走れるはずだ。」

 私は説明しながらひらりと馬に跨った。

 まぁ、そのせいで途中にある急勾配が激しい丘を避けた訳だが。

「ここが始め。歩いてくる途中に赤い枯れ木があっただろ?そこが終わりだ。」

「分かった。それで賭けの内容は?」

「そうだな。これは競走だ。鈴が勝ったらその馬をあげよう。もし私が勝ったらその馬を買って貰う。いいかな?」

 私はさらっとそう言うと、鈴は顔を強張らせた。

 これは負ければあいつ……孟起に負担を掛けることになってしまう。

 さぁ、どうする?

 鈴は長いこと沈黙していたが、やがて口を開いた。

「分かった。やってみる。」

「ほぅ。」

 乗ってきたか。意外だな。

「よし、じゃあやるか。」

 私は頷くと、鈴は馬に跨った。

 そして始まりの場所に並ぶと、私は微笑んで言った。

「好きなときに始めて良い。」

「分かった。」

 鈴は真剣な表情で頷くと、一つ深呼吸した。

 そして、馬の腹を蹴り飛ばした。

 一拍遅れて私は軽く馬の腹を小突いた。

 鈴は懸命に馬を操って走っていく。

 だが、所詮は素人。昔、それなりの職場にいて、馬の扱いに慣れている私が颯爽と抜いていく。

 馬の健脚もあって、ぐんぐんと距離を開いていく。

「ふん、あいつへの想いはそんな物か。」

 そう呟きながら手綱で方向を調節した。

 そして、丘を回り込んで目的の場所へと馬を駆る。

 これならば余裕だろう。

 私はその目標の木が見えてきたときにそう思いながら、手綱を握る目を緩めた。

 しかし、嫌に遅いな……。

 そう思いながら視線を後ろに向けたが、来る気配も見せない。

 ―――道に迷ったか?

 そう怪訝に思いながら目線を横の方に向けて―――凍り付いた。


 鈴は、険しい丘を駆けていた。


「ハイアッ!」

 掛け声をかけて加速する鈴とその馬。

 抜かった!

 私は歯噛みしながら馬の腹を蹴り飛ばした。

 この可能性を考えていなかった訳じゃない。

 ただ、このことをするのは孟起並みに肝が据わっていないと出来ない。

 それほど険しい丘なのだ。

 それはあの小娘は易々と……。

 視線を再び横の丘に移すと、鈴は凛々しい顔つきで馬を駆っていた。

 美しい……な。

 私はふっと息を吐き出した。

 今だけ、若さという物が眩しく見えた。


「勝ちだね!お兄ちゃん!」

 鈴は嬉しそうに言った。

「ああ、負けだ。あそこで丘を駆けるとは思わなかった。」

「私もその予定はなかったんだけど……孟起だったらやるだろうな、って思って。」

 そうだよ。やるさ。

 私は苦笑しながらため息をついた。

「んじゃ、その馬はくれてやるよ。さ、帰るぞ。」

「うんっ!」


 しかし、この小娘を奮い立たせる孟起……。

 奴はこの子のことをどう思っているのだ?

ハヤブサです。


深夜に焼き蜜柑を食べながら更新中。


いや、鈴も格好いい。

それに対して友人が親父クサイ。うん。


次回辺り、孟起が帰ってきます。


どうぞお楽しみに~。


あ、感想待っています!遠慮無くどしどしお願いします!

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