物語る
今回は『友人』視点です。
少々、昔話ということで長めとなっております。
私は煙草を吹かせると、鼻歌交じりに料理を作り始めた。
市場で知り合いの肉商人から譲って貰った豚肉を切り刻む。
そして、炎で温めたフライパンの上に野菜と共に流し込んだ。
ヘラでかき混ぜると肉の焼ける良い匂いがした。
香辛料は高いが、今回は奮発して黒胡椒を少し混ぜて炒める。
どうせ、ファンテリーから盗んだ品だ。三級品で売れやしない。
料理が出来ると葉の皿に乗せた。
「劉鈴、飯が出来たぞ。ああ、あとそっちには行かないでくれよ?」
私が声を掛けると、劉鈴が部屋の奥から子犬を抱えて現れた。
「何であっち行っちゃいけないの?―――あ、美味しそう。」
鈴は嬉しそうに子犬を降ろして料理を見る。
「ん、血生臭い矛とかが置いてあるからさ。―――ほい。」
私がさじを差し出すと、彼女は受け取って美味しそうに食べ始めた。
肉の破片を子犬の方に出すと、子犬はパクパクとそれを頬張った。
「ねぇ、名前、何て言うの?」
と、鈴が食事を食べながら訊ねた。
私は微笑むと、首を振って自分の食事を食べ始めた。
名前は、もう捨てた。答える必要はない。
彼女は少々、機嫌を損ねたようだが、それでも食事の美味しさに顔を綻ばせていた。
私はその様子を見ながら黙って野菜炒めを食べた。
全員食べ終えると、たき火の中に葉の皿を放った。
肉の脂もあるせいか一瞬で燃え尽きる。
私は外で何個かこぶし大の石を拾った。
そして、それをたき火に入れて熱する。
「何やっているの?」
劉鈴は犬と戯れながら訊ねた。
「ああ、これか。焼き石を作っておこうと思ってね。これがあると夜が暖かい。尚かつ、小火を起こさない。便利だろ?」
「へぇ……。そう言えば、孟起も『これを持って寝ておけば病は起きん。』って言って毎夜、暖かい袋を渡してくれるけど、それだったんだ……。」
あいつめ、案外気配りは利くんだな。
「しかし、あいつを呼び捨てにするとは度胸があるよな……。」
私がしみじみ思っていると、彼女は小首を傾げた。
「ああ、何でもない。」
「ね、そう言えば、おじさんって孟起と何年の付き合いなの?」
「おじさんは止めてくれよ。せめて、お兄ちゃんと言ってくれ。そんなに老けていないんだから。」
「だったら、おじさんの名前を教えて。」
「いかんなぁ。そうしたら、あいつの昔話を聞かせてやらんぞ?」
私がそう言うと、鈴は目を輝かせて身を乗り出した。
「聞かせて!お兄ちゃんっ!」
いや、いいなぁ……。
何かはいいのかは言わないけど。
「そうだな。あいつと出会ったのは確か、国で大将軍の訃報があって一年経った―――うん、三年前頃かな?彼はあの時、まだ長髪で少し肥えていたな。」
「え?孟起が?」
「ああ。」
私は頷くと、過去のあの日を振り返りながら語り出した。
***
弱ったな……。
私は木立の間を駆けながら思った。
ひゅんっ。
耳元で矢が掠めて飛び、一拍遅れて恐怖が生まれた。
「あまり人が来ない山地だと聞いていたけど、こういうことか。」
私は呟きながら木立に隠れて、背中に背負い込んだ袋を漁った。
昔持ち歩いていた大きな矛はない。血生臭い道具はもういらないと思ったからだ。
それを後悔する日が来るとはな。私はそう思いながら爆薬を詰められている布袋を置いた。
その布袋には糸が垂れており、油が浸してある。
その糸に火をつけると、追っ手に向かってそれを投げた。
ドカンッ!
一拍遅れて爆発と悲鳴。
私はその瞬間にパッと駆け出した。
「追え!」「逃がすな!」
後ろから声が響く。
ちっ、苦労するぜ。岩塩を仕入れるだけでこんなに苦労するなんて。
と、目の前に男達が現れて私は急停止した。
しまった。先回りされた!
「さぁ、荷物を渡しな。」
男は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
私は後退しながら背中の袋に手を掛けた。
「こんなのが欲しいのか?」
「ああ。そうだ。大人しく渡せ。」
爆薬は後一個。ここで使っても逃げ切れないだろう。
だが、これは特大だ。たまたま、鉱石発掘用の爆薬を持ってきていたのだ。
「貴様ら、何者だ?」
私は喋りながらそれを掴んだ。
「我々は盗賊団、ファンテリー。ここらを支配する軍隊だ。今、この国で叛乱を起こし―――。」
彼の台詞は途中で費えた。ついでに、彼の命も。
次の瞬間、首なしの死体がそこに突っ立っていた。
ドサッと軽く首が落ちる音でそれに気づき、仲間達が動揺した。
と、同時に春雷のような物が駆け抜けて次々と賊を沈黙させていった。
「商い人よ。怪我はないか。」
そして、その春雷のような物は動きを止めて訊ねた。
常人離れした動きをしていたが、人間だったらしい。
凛々しい顔つきを返り血で染めていたが、それでも尚、その美男の具合が伺える。
私と同じぐらい身長が高く、それに見合った巨大な剣を持っている。
「あ、ああ、助かったよ。兄ちゃん。」
私はほっと安堵しながら言った。
「兄ちゃん、何者だ?強者のようだが―――。」
「聞くな。それより、あれを始末せねば。」
緊張を孕んだ声でその男は言った。
私は視線の先、つまり、背後を振り返って戦慄した。
そこには数十人の賊がひしめき合っていた。
そして、何人かは弓矢を構えている。
男は賊達に殺気を放ちながら私を庇っている。
私は咄嗟に背中の袋に手をやって爆薬を取り出した。
そして火をつけて賊の方向に投げると叫びながらひれ伏せた。
「伏せろ!」
ズドンッ!
次の瞬間に爆発が起きた。
人間を殺傷するには十分、いや、強大すぎる爆薬だ。
私は平伏していながらも爆風で吹き飛び、木に叩きつけられた。
爆風が収まると同時に私は顔を上げると、あの男はその場で地面に剣を突き刺して耐えていた。
そして、剣を抜くとまだ動いている賊を持ち上げた。
「ふん、涼州の賊の残党がここに来て粋がっていたか。」
男はつまらなそうに言うと、賊を離して剣を振り上げた。
「まさか、貴様!あの将軍の一人の錦―――。」
「喋るな。最期だ。」
賊がまくし立てている中、男は遮るように言うと剣を振り下ろした。
そして、沈黙した賊達の懐に手を突っ込んで銭や金目の物を取り上げて私の方に来た。
「商いの者、これで俺がここにいたことを黙っていてくれ。」
「あ、ああ、別段、喋る予定はないが受け取っておこう。」
私は頷いてそれを受け取ると、男は木立の中を歩いていった。
私は慌てて追いかけながら問うた。
「なぁ、兄ちゃん、何処の者だい?」
「言う必要はない。」
「じゃあ、これからどうする予定だい?」
「―――山で隠居する予定だ。」
隠居。
その単語とさっきの賊の台詞、そして、男の風貌で誰だか悟ってしまった。
―――なるほど。
「なぁ、兄ちゃん、もしかしたら兄ちゃんの助けになれるかもしれないぜ?」
木立の中を歩いていた男の足が止まった。
「何?」
「ああ、もし、死んだふりをして隠居しているような奴の助けは何度もしてきたんだ。」
私が重要単語を含めながら言うと、男はくるりと振り返った。
その瞳は殺気で溢れている。
「死にたいのか?」
「死にたくはないさ。口止め料も貰った。だから話す理由もない。だがな。」
私は一拍おいて反応を見ながら言った。
「隠居するっつったって、こんな山奥で隠居していて衣食住とかはどうするんだ?」
「………。」
男は沈黙した。痛いところを突いたらしい。
「だったらよ、私が面倒を見てやろうよ。」
「面倒、だと?」
「私はここの山の隣の山に拠点を置いているんだ。そこで商売をやっている。そこから君を支援しよう。あそこは人はあまり来ないし、ここにも来ない。もちろん、無償で支援するのは不可だが、その辺はここらの賊を討伐する程度でいい。将軍だった孟起様だったら容易いだろ?」
私は最後の文を脅しを含めて言うと、男は考え込むように沈黙した。
そして、口を開く。
「ここらに、いい住まいはあるのか?」
「この木立を北に百歩ほど進めば木こりの小屋がある。今は空き家だ。」
「なるほど。そこに住む。何かあれば、改めて来い。」
男はそう言うと黙って北に歩き出した。
「まだ、断った訳じゃないんだな。」
私は笑むと道を引き返した。
それが、私と孟起の出会いだった。
ハヤブサです。
あー、いいですなー。友人さん。
正直、この人の名前は付けない予定です。
名前があるのは主人公とヒロインだけ。
それが一番美しい恋愛って感じがしますね。
あ、今更ながら、これは恋愛ですからね?
まぁ、ご存じだとは思いますが。
次どうしようかな……孟起か、友人か。
う~ん。
感想、お待ちしています!