射撃つ
「敵襲……随分、間が良過ぎるやしないか?」
川で襲撃を受けた翌日、俺と鈴は友人の居住まいを訪問してそのことを伝えた。
彼はしかめっ面をして腕を組んだ。鈴は心配そうな顔で俺の脇でそれを見守る。
「知らん。だが、奴は第四皇帝……とか言っていた。もし、鈴と例の石が目的なら―――。」
「うむ、確かに危険だな。しかし、場所を移動するにしても場所が限られているぞ。」
「暫く、連中は泳がせておく。」
俺がそう言うと、意外そうに眉を吊り上げた。
「ほぅ?鈴を餌にするのか?」
「いいや。餌になんかはしない。俺が必ず守る。」
俺が剣を掴んでそう断言した。
「孟起っ!」
鈴は嬉しそうに俺の腕に抱きついた。
「全く、軍人らしさを失ってきているな。」
友人は呆れ顔で言った。
「それでいい。俺はもう死んだのだ。」
俺は当たり前のように言うと、鈴の頭をわしわしと撫でた。
「わうっ!」
すると、胡桃も甘えるように飛びついて尻尾を愛らしく振った。
「おうおう。よしよし。」
俺は笑いながら空いている手で仔犬の頭を撫でてやる。
そんな光景を見て友人はまたため息をついた。
「貴様、一介の農夫に成り下がったようだな。」
俺は苦笑すると、剣を取り上げて言った。
「農夫は剣を持たん。」
まぁ、今のところは、だな。
友人は肩を竦めて、やれやれと言わんばかりに首を振った。
雨はしとしとと降り続き、馬は鬱陶しそうに首を振った。
そんな中、俺は奴から亜麻仁油の取り引きをしていた。
「もう少し安くならんのか。」
「今は高いんだ。これでも安いと思え。」
男が二人唸りながらお互いの手にある銭と瓶を見比べている。
その様子を楽しそうに見る鈴。その腕の中には胡桃もいる。
と、そうにらみ合っていたが奴は不意に視線を外した。
一拍遅れて俺も気付いた。
「殺気か……?」
「誰かが侵入した。南へ一里も離れていない……。行ってきてくれるか?」
「弓を借りるぞ。」
俺はそう言うと奴の弓をひっつかんで外へと飛び出た。
木に登って木から木へと飛び移っていくと、その侵入者らしき奴が目に入った。
何者だ……?
ファンテリー……なのか?
いずれにせよ、我等の領域に入ってきた。然らば、排除すべきだ。
「俺の矢は、絶対に、」
俺は弓を構えると、キリリィ……と音を立てて弓を引き絞る。
「外れない。」
ぱしゅっ。
空気が擦れるような音と共に矢は放たれた。
それは違いもなく、侵入者の胸に吸い込まれていった。
倒れる、侵入者。
念のため、俺は頭に矢を放って完璧に絶命させると木から飛び降りてそいつに近付いた。
それは鎧を身に纏った男だった。
この鎧は……どこかで……。
俺は少し怪訝に思いながらそいつを担いだ。
「む……。」
それを見た途端に友人は怪訝そうな顔をした。
洞窟に戻った俺だが、俺もその鎧の存在を思い出していた。
「国が動いたのか?」
「恐らく、哨戒に来たのだろう。ファンテリーの存在が明るみになったか……。」
「いずれにせよ、移動については考えねば……。」
奴はそう言いながら地図を広げた。
「今回の礼で少し亜麻仁油は負けておいてやる。」
彼はそう言いながら奥から木炭を取り出して言った。
俺は頷くと何枚かコインを置くと亜麻仁油の瓶を二本拾い上げた。
「鈴、帰るぞ。」「うんっ!」
鈴は胡桃を抱えると立ち上がった。
「気をつけろよ。いつ、襲ってくるかは分からん。」
友人の言葉に俺は手を振って応えた。
そして、剣の柄をコンコンと叩く。
何か手出ししようなら、こいつが答えるぞ。
という意味だった。
「なるほどな。大切な人はちゃんと守れよ。」
友人はクスクスと笑いながら言って俺を見送った。
いよいよ、国の軍隊が出たとはいえ、俺は正直、まだ猶予があると思っていた。
その油断はかつて将軍だった俺には無い物。
つまり、軍人離れした故の綻びであった。
そして、それが俺達を窮地に追い込むとは……鈴はもちろん、俺も考えていなかったのだった。
ハヤブサです。
第四皇帝、将軍、お国の軍隊。
キーワードが揃ってきました。
さぁ、読者の皆様はこれがどこに世界か分かりますか?
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