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「わかってたけど、学校、行きたくねぇ…」

9月1日。新学期初日。

旧暦ではもうすでに秋らしいが、そんな秋らしさを微塵も感じられないほどにムシムシとしている玄関前で無常仮寝(むじょうかりね)は靴を履きながら億劫な気持ちになっていた。

簡単に言えば、夏休みの課題を終わらせていなかった。国数社理といった基本的な奴は終わらせていたが、読書感想文や自由研究といったモノは一切やっていなかったのだ。ペンが進まないというか手が進まないというべきか。そのくせ、夏休みはしっかりと満喫していた。杖と財布だけで山に登って滝行をしたり、地元の夏祭りで焼きそば焼き鳥イカ焼きと、バイト代から捻りだしたお金で大食いをして、射的射的射的で店のおっちゃんを泣かせた。最新式のゲーム機を撃ち落としたお陰で5万ほど浮いたので、そのお金でまた焼きそば焼き鳥イカ焼きを食べたのを覚えている。次の日にトイレの便器とお友達になったのも良い思い出だ。


「もうちょい、続かねぇーかなぁー夏休み。」


誰もが患うであろうブルーマンデー症候群は、その休日が楽しければ楽しいほどに重く患う。

無常仮寝は別に学校が嫌いな訳じゃない。

だが、それ以上に夏休みというイベントを楽しみすぎたのだ。

だが、何時までも玄関で座っている訳にもいかない。


「…よし、とりあえず行くか!」


動かなければ、何も始まらない。だからこそ動く。それが無常仮寝の性分だった。


鞄を背負い、つま先を地面へと叩きつける。

壁に立てかけてある重(・)い(・)白(・)杖(・)を手に取って、玄関開けた。


玄関を開けた先には、ムンムンとした熱い熱波。そして、逆立ちをしている人がいた。


「は?」


よくよく見(・)れ(・)ば(・)、スカートを履いた女の子だった。


「はあ?!」


なんだこれは。よく、朝の“遅刻遅刻~”って言いながらパン咥えて曲がり角で激突する奴の亜種だろうか?いや、だとしてもこれはないだろ、これは。

意味不明だ。恐らく、シャーロックホームズだって解けそうにない謎だこれは。

いや、シャーロックホームズでも解きたくはない謎か。


年はわからないが、無常は自分よりも幼いと感じた。背が自分よりも低いというのもあるのだろうが、それを鑑みても、彼の勘がそ(・)う(・)だと結論付けた。


「わ」

彼女の口が開く。


「私は今!パンツをはいている!」

「…」

その瞬間、熱さが消えた。

彼女から発せられたその言葉の真意が無常にはわからなかった。もしかしたら、異性同士でのコミュニケーションでは恐ろしいくらいのカルチャーショックがあるのかも知れない。少なくとも、男子高校生の無常仮寝には理解できなかった。


「聞こえるかあ!私は!今!パンツを!履いている!」

「…」

「私は!今!パンツを!履いている!」

「…」

「パンツを!履いている!」

「…」


思わず、尻餅をついてしまった。人間、理解の出来ないモノには恐怖を抱くと言われているが、それが身に染みてわかった。


「…聞こえて、ない?」

「!」


少女の声が小さく聞こえる。先ほどと変わって自信がない声だ。


さて、ここでの選択肢は3つだ。

1つ。少女に「頭大丈夫か?とりあえず救急車で精神病棟にぶち込むから待っといて」と言って119に電話を掛ける。

2つ。家に戻る。幸い、振り返れば玄関だ。速さには地震がある。これでも反復横跳びは学年第一位だ。反射神経と素早さは問題ない。

3つ。白(・)杖(・)を(・)つ(・)い(・)て(・)、(・)歩(・)き(・)出(・)す(・)。

耳はしっかりと聞こえてはいるが、相手に“あ、この人耳も聞こえないんだ”と思わせて帰らせる。


さて、どれにしようか?



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