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4話 人だかり

 朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいる。ルミエリアはベッドの縁に腰かけ、隣で寝息を立てているルームメイトのフィオレッタをそっと揺すった。


「フィオレッタ、起きる時間だよ」


 柔らかい声に反応して、桜色の髪をくしゃくしゃにしながら少女は目をこすった。


「ん……おはよう」


 寝ぼけ眼で笑うその顔に、ルミエリアはまた少し心を掴まれた。彼女が朝から無防備に笑う姿に、思わず見とれてしまう。


(フィオレッタって、なんだか小動物みたいで可愛いな)


 なかなかベッドから起き上がろうとしないフィオレッタに苦戦しながらも、二人は淡い光が差し込む寮の窓辺で身支度を整え、制服に袖を通した。朝の澄んだ空気が、今日という一日の始まりを告げている。


 フィオレッタを連れて、女子寮の食堂に向かう。女子寮と男子寮それぞれに食堂があり、朝食と夕食は寮の食堂で、昼食は学園内にある大きな食堂でとることになっている。ルミエリアとフィオレッタは、焼き立てのパンと温かいスープをかきこみながら、今日から始まる学園生活のことを軽く話す。


「今日から授業だね、緊張するな~」

「でも、初回は簡単な感じらしいよ。本格的な授業は明日からなんだって」

「よかった~、初日から授業だったら緊張で爆発するとこだった!」

(……爆発?)

「そういえば、ルミエリアはなんでそれを知ってるの?」

「……えっと、知り合いの先輩が教えてくれて……」

「そうなんだ! すごいなぁ、もう知り合いがいるんだね」

「ハハ……」


 (前世の記憶があるから、なんて言えるわけないよ……)


 談笑もそこそこに、ルミエリアたちは教室に向かった。


 談笑しながら廊下を歩く二人。もうすぐ教室に着くのだが……想像以上に、騒がしい声が廊下に響いている。何事だと思い、曲がり角を曲がってみると、そこには人だかりがあった。


「……え、何あの人混み」

「わからないけど……誰か有名な人がいるのかな」


 私たちの教室、1-Aに続く廊下は大量の生徒でふさがれていた。大半は女子生徒なのだが。入学して初めての登校なのだから、浮かれてはしゃいでしまう気持ちはよく理解している。だが、この人だかりは明らかに異常だ。何かあったに違いない。


 少し離れた位置から人だかりを観察する。視力の良さで人だかりの中心になっているものを探してみた。すると、そこには見覚えのある顔が並んでいた。


(……! やっぱり、攻略対象だ!)


 そこにいたのは、『星辰のアストレア』に登場する4人の攻略対象だった。


 グランディア王国の王太子、アルベルト・グランディア。『星辰のアストレア』の顔とも呼べるほどの人気ぶりで、SNSのファンアートタグを漁ると彼がよく出てくる。いわゆる王子枠だ。容姿、知性、性格、立ち居振る舞い……すべてを完璧に兼ね備えているのが彼だった。


(国宝級のイケメンを生で見てると目がしんどくなってくる……)


 その隣にいるのが、噂好きのアドリアン・ルクレスト。噂好きというのは表向きで、実際は裏社会に通ずる情報屋だった。王国一の美男子とも呼ばれるアルベルトに並ぶ美貌の持ち主で、その甘いフェイスを使い、貴族社会の情報収集をしている。


(15歳で情報屋って結構無理があると思う……)


 そして、その隣にもう1人。皮肉屋で知的な眼鏡キャラ、クロード・ベルシア。代々宮廷に仕える文官の家系の生まれで、ゲームではトップクラスの成績を誇るインテリ系。口が悪いツンデレなのだが、ぐいぐい攻められると弱い一面があるので、一部の層にかなりウケていた。


(どこからどう見てもお堅そうなメガネ……)


 最後に、研究オタクのミハイル・レグナ。物腰柔らかで嘘がつけない性格。興味があるものには深く没頭し、興味がないものには全く関心を示さない。彼はいわゆる天才というやつで、ゲームでは多くの高品質なポーションを作っていた。一方で、剣術はダメダメである。


(ここからでも酷いクマが見えるんだけど……)


 攻略対象たちを観察していると、隣で人混みを見ていたであろうフィオレッタが、ルミエリアの制服の裾を掴んだ。彼女は不安そうな表情で、私をじっと見つめている。


「これ、教室入れるかな……」

「そうだね……無理やりかき分けていけばいけるかも」


 ルミエリアとフィオレッタは、人混みをかき分け、なんとか教室に入ろうとした。しかし、イケメンたちに興奮した令嬢たちがアルベルトたちの周囲に押し寄せ、波のように流れる。すると、ルミエリアとフィオレッタの間に、令嬢たちが割り込んできた。フィオレッタが視界から外れ、あたりを見渡すと、フィオレッタらしき人物の小さな叫び声が聞こえた。


「ルミエリア……!」

「フィオレッタ!」


 少し離れたフィオレッタを追おうとした瞬間、押し寄せる生徒の群れに足を取られ、ルミエリアはふらついた。さらに後方から、数名の令嬢たちが勢いよく押してきて、体は宙を舞う。視界が乱れ、天井の明かりがぼんやりと広がった。


(――あ、やばい、転ぶ)


 ぎゅっと目をつむったその瞬間、背中にしっかりとした感触が伝わった。

 

「危ない!」


 低く、でも落ち着いた声が響き、ルミエリアの体を支える手の温もりが伝わる。


「大丈夫?」


 そっと目を開けると、目の前には柔らかい微笑みを浮かべ、明るさと安心感を同時に漂わせる、見覚えのない少年が立っていた。

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