娯楽
「嫌だー! 助けてくれー! 俺が悪かったよー! 反省してるからー!」
今この男は此処から外に放り出される。
此処は国民が納めた血税を湯水のように使って造られた、恒久的核シェルター。
シェルターのルールを破った男は核シェルターから放り出されて死ぬ運命。
30年前、国会が開会する為に上下院に属する全ての議員が集まったあの日、仮想敵国が核ミサイルを発射した事を知らせる警報か国会議事堂内に鳴り響く。
上下院の議員や国会周辺の官庁街で働いていた主に上級公務員が、国会議事堂の地下に造られていた核シェルターに逃げ込んだ。
着弾するまで10分弱の猶予しかない、国会内にいた議員や職員は全員避難する事ができたが、官庁街で働いていた公務員たちの内、血相を変えて走る上級公務員たちに訳も分からすついて来て逃げ込もうとした下級公務員の殆どは逃げ込めず、泣き叫び入れてくれるように哀願していたが下級公務員なんて税金を搾り取る国民と同じ、泣き叫ぶ声など無視して核シェルターの扉は閉め切られる。
核シェルターの扉は1度閉め切られると、警報が誤報であっても72時間は開かないように設定されている、此れは誤報が誤報であった場合を想定しての防御策であった。
だから可哀想に思っても開ける事はできないのだ。
男が核シェルターの扉から外に押し出される。
「助けてくれー! 謝るから! 謝るから許してれー! 死にたくないよー!」
扉が完全に閉め切られるまでに、外の者たちに引きずられて行く男の泣き叫ぶ声が聞こえ続けた。
数日後、シェルター内にある大会議室のステージの壁一面のディスプレイに、国会議事堂と官庁街を取り壊して造られたコロッセオのド真ん中に立てられてる磔柱に、縛り付けられた男の姿が映し出される。
コロッセオの客席の大部分を埋める大観衆からは、「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」と言った罵声が飛ぶ。
そう、あの日の警報は誤報だったのだ。
そして閉め出された官庁街の下級公務員たちは見捨てられた事に怒り、国民に全てを話した。
減税を望む国民の声を無視して造られたのが恒久的核シェルターであり、その中で悠々自適な暮らしを続ける為に必要な大量の物資を購入する為に湯水の如く血税が使われた事を。
それを聞いてブチ切れた国民によって、国会議事堂から地下の核シェルターに入る扉以外は外側から鉄筋コンクリートで封鎖され、電力を得るために地下水脈に造られていた水力発電所を破壊され、溜め込まれていた大量の物資を全て奪い尽くされる。
その後、国会議事堂や官庁街は全て取り壊され、代わりにあのコロッセオが造られた。
だから核シェルター内に閉じ込められた私たちは、食料も空気も電気も全て地上から渡される細々とした物資で生かされている。
あの男はその細々と渡される食料を誤魔化して、少し多く食べるというルール破りを行った為にあそこで磔にされているのだ。
コロッセオの中で動きがあった、顔を真っ青にした恰幅の良い男が立ち上がり「殺せ!」「殺せ!」と叫ぶ観衆に静かにするように身ぶりで伝える。
コロッセオの中が静まると男は喋り始めた。
「此れより減税を求める国民から搾り取った血税を私利私欲の為に使った、非国民の処刑を行います」
喋ってる男は今現在の総理大臣、男の周りにいる者たちは全員国会議員や官公庁の上級公務員。
処刑はお前たちも同じ事を行えばこうなるぞという見せしめなのだ。
核シェルター内にいる私たちにも同じように見せしめの為に見せているのだろうが、細々と生かされている私たちは何方かって言うと、核シェルター内で楽しめるたった1つの娯楽として眺めているのだった。




