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王室からの招待状  作者: 南方
愛と罪
29/30

29.どうすればいい?


 結婚してから数年が経ち、大学を無事卒業したミハエルは研究員になった。

 何事もなく進む時間の中で、一つの問題に直面していた。それは、夫婦となってから四年の月日が流れたと言うのに一向に妊娠する気配がないことだった。

 何度も検査を行ったが、自分には何の問題もないと医師から言われ、仕方なくジャンにも検査をお願いしたが、頑なに拒否をされた。


「そのうち妊娠するよ。まだ結婚して四年だ」

「うん、けど検査を受けて欲しい」

「大袈裟じゃない? 検査なんて必要ない」

「けど……」

「……子供、子供、子供、子供さえ出来ればミハエルはそれでいいわけだ?」


 以前はジャンも子供を作ることに賛成だったのに、近頃はあまり欲しくないような発言をする。ミハエルは仕方なく――、


「実はグレン兄さんに言われているんだ」

「子供が欲しいなら、自分が作ればいいだろうに、グレンもいつまで独身でいるつもりなんだ」

「……ジャンは子供が嫌いなの?」

「そうじゃない! そうじゃないけど……」


 悲しそうな顔をするジャンにミハエルは、「ジャン?」と、まるで幼い子を慰めるように顔を覗き込んだ。


「少し出かける……」


 低く唸るよう言い放つとジャンはミハエルから離れて行った。

 彼の後姿を見ながら、薄々感じていることがひとつあった。ジャンは無精子症なのではないかということ、つまり種を持っていないのだ。

 それに気が付いたのは、エラルドを何度もミハエル達の情交に交ざるよう

に誘うからだった。

 ただ、頑なにエラルドは拒否をしているし、その度にジャンはミハエルの身体を酷使した。

 これだけ身体を重ねているのに、妊娠しないなんて変だと思ったからこそ、自分に欠陥があるのかも知れないと検査をした。

 子宮にも卵巣にも問題ないと、検査する度に結果は毎回同じで、そうなるとやはりジャンの方に問題があると考えるべきだった。

 

 ――エラルドが必要なのは俺じゃ無くてジャンの方だ……。


 実はジャンは自分が種を持っていないことを随分前から知っていたのでは? と考えていた。

 自分では妊娠させることが出来ないから、エラルドにミハエルを世話させていると考えた方がしっくりくる。

 それこそ、発情期のフェロモンで部屋中が噎せる中、彼を呼びつける理由は、動けないミハエルの世話をさせ、いつか間違いが起きることを待っているのだと思う。

 運が良い事にエラルドは髪の色も、瞳の色も、ジャンと同じだ。生まれた子が多少エラルドに似ていても、問題はないのだ。なぜならエラルドを解雇すればいいだけのこと。


 ――本当にそうだとしたら……。


 馬鹿なことを考える自分がいる。エラルドにその話をすれば、彼は仕方なくミハエルを抱くのでは? と卑しい欲がもたげる。

 けれど、瞬時にそんなことまでして彼が欲しいのか、と自分を心の中で叱咤した。


「情けない……」


 ボソっと言った一言に反応するかのように、「何がですか?」とエラルドが背後から訪ねて来る。

 突然の問いかけにミハエルは肩を震わせると、咄嗟に何でもないと返事をして自室へ戻ったが、一度湧いてしまったジャンへの疑念は、なかなか拭い去れなかった――。

 その日からミハエルはジャンに検査の話をするのを止めようと決めた。

 検査の話題を口にして、わざわざ嫌な思いをしたくないし、なにより彼の自尊心とプライドを尊重したかった。

 けれど、彼を安心させるためにもミハエルは誰かの子を宿さなくてはいけない。エラルドが駄目なら、ジャンの兄であるブラッド……、とそこまで考えて、彼に抱かれるくらいなら、それこそ試験管でいいと思う。


 ――試験管……、そうだ、人口受精なら条件に合う人物がいるはず……。


 けれど、問題はジャンやエラルドに知られることなく、どうやって人工授精を受けるかだ。ミハエルの場合、診断してもらえる医療機関は限られており、当然だが、人工授精などを行えばグレンの耳にも入る。

 一人で頭を悩ませていると、ミハエルの携帯が鳴る。画面を見れば映し出された名前はフジタだった。

 結婚したこともあり、グレンからの監視は無くなったため、誰とでも会話が出来る環境になったが、一瞬、電話に出るのを躊躇してしまった。

 なぜなら、今出たら間違いなく彼に頼ってしまうからだ。かと言って一人で考え込んでいると出口の見えない迷路にずっと閉じ込められているみたいで、誰かに聞いて欲しいと思う。

 迷いながらもミハエルは携帯に出た、「今度、論文発表の学会があるんだが、ミハエルも出席するか?」といきなり研究の話から始まった。

 相変わらずだなと笑みを零しながら、「フジタが真面目な顔でスピーチするの見れる貴重な機会ですから、是非、行きたいです」と返事を返した。

 ふと、彼の属性が全属性(キメラ)だということを思い出したミハエルは――、


「あの、そういえばフジタは確か子宮があるんですよね?」 

「あー、まあ、あるにはあるが、俺の場合は卵巣がないから発情期も来ないし、子供も出来ないぞ? なんだ、もしかして子供が出来たのか?」


 以前、彼には付き合っている恋人がいたが、いい別れ方では無かったと聞いている。子供の話に触れるのは躊躇うが、仕方なく差し障りのないことを話した。


「実は子供が出来ないから、どうすればいいかなって……」


 結婚して四年も経つのに出来ないのはおかしい、とミハエルが付けたして言うと――、


「うーん、それは旦那に頑張ってもらうしかないなぁ……、そもそも発情期に情交してるなら宿らない方が珍しいと思うけどな?」

「……そうですよね、やっぱり俺が属性転換者だから難しいのかも」

「あまり思い込まない方がいいぞ?」


 フジタに励まされ、その後は学会と植物の話になり、当り障りのない会話を終えて携帯を切った。

 やはり人工授精のことは聞けなかった。電話を切ってから、しばらくリビングでぼーっと窓から外の景色を見つめた。

 

「大丈夫ですか?」


 不意にエラルドから声をかけられて頭を縦に揺らした。


「もしもさ、子供が欲しい夫婦が居て……、でも、何か障害があって出来なくて……」


 ミハエルは、そこまで言ってから口を閉ざしたが、エラルドは優しい口元を動かし、「夫婦なら障害は乗り越えるべきです」と言いながらこちらを見据えた。


「そうだね、俺もそう思う」


 じっと何かを待つかのように、自分を見つめるエラルドを見つめた。

 彼は、ミハエルが胸の内を晒すのを待っているのだろうか? だとしても、言う勇気が出なかった。

 ミハエルは、もう何も話すことはないという意思表示の代わりに、キッチンへ移動すると、夕飯の準備に取り掛かった――――。

 


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