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王室からの招待状  作者: 南方
愛と罪
26/30

26.久しぶりに王国へ


 それから数日後、ジャンとの結婚を早めたと聞いたルイードが早朝訪ねて来る。


「ミハエル、本当にソレ(・・)でいいのか?」

「はぁ? ソレってなんだよ」


 相変わらずのやり取りに頭痛がしたが、ミハエルは二人の間に割って入り、「ルイードには申し訳ないのですが、俺にはジャンが必要です」とハッキリと意思表示をした。

 もちろん今までも気持ちは表してきたつもりだったが、ルイードのような王国育ちの王子アルファは、幼い頃から自分が望まなかった物が手に入らなかったことがない、そのせいでなかなか諦めてもらえなかった。


「ルイードの気持ちも分かるのですが、どちらにしても中東問題は国が統合すれば解決しますし、俺と結婚しなくても国の問題は上手く行きますよ」

「はぁ……、確かにミハエルとの結婚は政治が絡んでいるが、それだけで決めるわけがないだろう?」

「けど……」

「それと俺は君を困らせるのが大好きなんだ」


 ルイードは顔に似合わず子供っぽいことを言い始める。


「それが本音と言うなら、もう充分に困ってます」

「そのようだな、ところで今週中に国に帰ると聞いた」

「ええ、そうなんです。式はあちらで行うそうで、伝統的な結婚式の盛装を作るのだと聞きました」

「なるほど、ならば私も一緒に帰ろう。その盛装姿が誰の物になるのか楽しみだ」


 ニヤっと笑うとルイードはジャンを煽った。


「俺も一緒に行くことになってる。ミハエルに指一本触れられると思うな」

「ミハエル、本当に結婚相手はコレ(・・)でいいのか? 子供過ぎるだろ……」


 呆れたような顔をしたルイードは、親指でジャンを指さしながら揶揄う。二人の言い合う姿を見て、恐らく昔からこんな感じのやり取りをして来たのだろうな、と交流の深さを感じた。

 ミハエルと一緒の時は滅多に見せない子供っぽい姿を晒したルイードは、一通りの嫌味を言うだけ言って帰って行ったが、彼が帰ってからもジャンはずっと不機嫌だった。

 だからと言うわけじゃなかったが、夕方を過ぎた頃、「ちょっと出かけない?」とミハエルはジャンを誘った。

 出かけると言っても家の周辺を歩くだけのことだったが、それでも多少は穏やかな雰囲気になった。


「はぁ、それにしても()は何処でもついて来るんだね……」

「しょうがないよ、エラルドの仕事なんだから」

「ミハエルのお気に入り(・・・・・)だから仕方ないけど、最近、ちょっと邪魔に思うよ」


 そう言ってジャンは数歩距離を置いたエラルドをチラっと見た。ミハエルは会話を変えたくて、以前から思っていたことを口にした。


「あ、そんなことより、ジャンに聞きたかったんだけど結婚したら住まいはどうする?」

「あー……、それね」

「俺は離れて暮らしてもいいよ? 発っ、発情期の時だけ会えば問題ないからさ……」


 自分から言っておきながら、何だか恥ずかしい気分になった。

 ミハエルの提案は発情期に身体だけ重ねようと言っているような物だし、いくら合理的とはいえ、それだけが目的みたいな発言をした気がして、気まずくなる。けれど、元々はその予定だったのだから、その辺りのことは重要だった。


「……一緒に住むのは嫌なわけだ?」

「違う、ジャンの提案を思い出しただけで、別に一緒に住むのが嫌ってわけじゃない」

「うーん? 別々に住めばミハエルはエラルドと二人きりだしなぁ……」


 含みのある言い方にドキっとした。

 まるでミハエルの心を見透かされているようで、居心地が悪くなる。しばらく考え込んでいたジャンは、「そうだな」と言ったあと一呼吸置き、静かに口元を動かした。


「しばらくは、一緒に暮らした方がいいかな。それに発情期だけに絞らなくても回数は多いに越したことはないしさ」

「え……」

「もちろん、エラルドの部屋も用意するよ、それが条件だし?」


 予想外のジャンの答えにミハエルは反応が遅れたが、「ありがとう」と彼にお礼を伝えた。

 確かに結婚してすぐに別居生活はグレンも色々と口煩いことを言ってきそうだ。それを考えれば、半年くらいは一緒に居るべきなのだろう。

 ふるっと肩を震わせたジャンが、「肌寒くなってきたな、そろそろ戻ろうか」と言ってミハエルの手を取る。その手を振り払えないまま家へと戻った――――。


 

 週末を迎え、長いようで短かったフランス旅行を終えたミハエルは、久々にサルスジャミン諸王国の地を踏んだ。

 ここで過ごした期間は長くないのに、砂漠の都市を眺めていると、不思議と懐かしさを感じた。


「相変わらず、この景色は絶景だ」

「そうだね」

 

 建ち並ぶ世界遺産を眺めながら、迎えの車の中でジャンが言う。それも束の間で直ぐにパソコンを立ち上げて仕事の確認をし始めた。


「結婚式当日に来てくれても良かったんだけどな……」


 ミハエルが独り言のように呟くと、ジャンがパソコンをパタンと閉じた。


「駄目だ、ルイードがちょっかい出しに来るに決まってる」

「だとしても、エラルドもいるんだし、大丈夫だと思うけど……」

「俺としては、それが一番の問題なんだけどな」

「……エラルドが?」

「こっちはさ、気が付かないフリしてるんだ。あまり苛つかせないで欲しい」


 珍しく厳しい口調だった。言いたいことを言い終えたジャンは、またパソコンを立ち上げると仕事に戻った。

 ミハエルがエラルドを好きだという気持ちには気が付いているとは思っていたけど、改めて警告を受けると気まずく感じた。

 だからと言って、どうすればいいのか分からなかった。ジャンとの結婚に関しては、もう覚悟を決めているし、今さら辞めたいとは思ってない。

 それに彼が言ったのだ。お互いに他に好きな人がいてもいいと、それなのにジャンの束縛が酷くなっている気がして怖く思う。

 彼に気付かれないように小さく溜息を吐くとバックミラー越しにエラルドを見つめた――。


 久々の宮殿に戻り、二人でグレンと母の元へ挨拶に行った。

 母がとても喜んでいるのを見ても、ミハエルは親孝行した気分は味わえなかった。

 どうしても彼女が自分の母親だと思えなくて他人を見ている気分でいると、隣にいるジャンが母へ向かって腰を折った。


「この度ミハエル様との婚姻を認めて頂き嬉しく思います」


 滅多に聞くことのないジャンの丁寧な言葉使いを聞き、わぁ……、と自分の中で、くすぐったいような恥ずかしいような感情が湧いた。

 グレンと母は顔を見合わせ、「こちらこそ、うちの子との結婚を決めてくれて嬉しく思います」と母が言う。

 婚姻に関する報告と日取りなどを決めると、久々に自室へ向かったが、その途中で――、


「ジャン……、良かったら客室じゃなくて俺の部屋に泊る?」

「え、いいの?」

「いいよ、それか俺がそっちに泊っても良いんだけどね」


 今更、別々で過ごす意味もないし、ミハエルの部屋にもゲストルームがあるし、仕事に集中したいならその部屋を使えばいいとジャンに伝えると――、


「ンー、やっぱり客室を使うことにするよ、一応、婚前前だから禁欲する」

「そ、そう」

「あ、何? して欲しかった?」

「違う!」


 くすくす笑うジャンは、「さっきグレンから聞いたんだ」と言って話を続ける。


「今月末にミハエルの避妊の薬が切れるって、だから、その日まで我慢しようと思ってる。発情期で理性のないミハエルを見るのが楽しみだよ」

「そ、そんなの、楽しみにしないで欲しい……」

「今までも十分に可愛いけど……、ねぇ? エラルド、君も興味あるだろ?」


 ジャンの言葉にビクっと自分の肩が揺れた。いつの間に背後にいたのかエラルドが、「お答えしかねます」と抑揚のない声で言った。


「つまらない男だなぁ……」

「ジャン、エラルドは真面目なんだ。変な質問するのは止めて欲しい」

「真面目ねぇ、けど彼は男でアルファだ。俺と変わらない欲くらい持ってる。それこそ目を付けたオメガが発情するのを首を長くして待ち望んでいるのがアルファだ」


 厳しい顔をしたままジャンはエラルドの元へ向かうと、彼の横に並んだ。


「ミハエルは知らないんだよ。俺達は君達オメガが発情したら全てを注ぎ込まないと気が済まないほど、支配欲に溺れるんだ。アルファなら普通で当然のことだ」


 ポンとエラルドの肩を叩くとジャンは、「初夜は勘弁して欲しいけど、今後はいつでも交ざっていい、歓迎するよ」と言い残すとその場を去って行った。

 この理性の塊のような男が、ジャンの提案にうなずくわけがないし、そんなの絶対に嫌だと思う。


「ハァ……、本当に誰とでも張り合うんだから、ジャンって子供っぽい所あるよね。さっきのことは気にしなくていいよ」

「はい、分かってます」


 自室へと足を踏み入れようとした時、「ジャン様は……」と珍しくエラルドから話し掛けられた。

 

「うん?」

「ミハエル様を好きなのだと思います」 

「そんなわけないよ、資料を見てないの? 彼の好みのタイプはセリーナのような女性だよ」

 

 躊躇う素振りをしたエラルドが大きく息を吸い込み、それをゆっくりと吐き出すように言葉も乗せた。


「……本来、好きでもないオメガを抱く時は発情期だと決まってます。それ以外で――」 

「エラルド! それ以上は聞きたくない……」


 ミハエルは彼の言葉を遮断し、部屋へと入ると同時に、ずるずると床に腰を落とした。

 好きな相手から〝ジャンに抱かれている〟ことを指摘されて、今更のように傷つく自分にも嫌になる。それに、アルファが男のオメガを発情期以外で抱くことがどういうことなのか、薄々気が付いてた。

 けれど、ジャンに抱かれていることをエラルドに指摘されたことは、山のロッジで彼に〝抱いて欲しい〟と自分のささやかな願いを否定された時よりも惨めな気分だった――。




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