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王室からの招待状  作者: 南方
愛と罪
25/30

25.教会へ


 外へ出る準備が整い、玄関先へ向かえば、室内にインターフォンが鳴り響く、丁度、玄関先にいたミハエルはそのまま扉を開けた。


「あ……」


 二人同時に出た言葉に、お互いどうしていいか分からない雰囲気が漂う。取りあえずミハエルから挨拶をすることにした。


「先程は挨拶出来ませんでしたね。ミス・セリーナ」

「ええ、本当よ、ミスター・ミハエル」


 堂々とした女性だと一目見た瞬間そう思った。

 スレンダーな身体に似合わない豊満な胸をチラ付かせた彼女は、真っ白な肌と琥珀色(アンバー)の瞳を持ち、赤く染めた髪色が良く似合っていた。

 

「ジャンなら、先程出て行きましたよ?」

「知ってるわ、私が用事があるのは貴方よ」

「そうでしたか……、あー、俺、今から出かけるのですが、宜しければ一緒に行きませんか?」


 彼女は分かり易く、どうして私が一緒に? と言いたげに眉根を寄せた。


「病弱な弟のために、奇跡のメダイを買いに行こうと思うんです。間違えて愛のメダイを買ってしまったから」


 そう言って、ミハエルはキーホルダー付けたメダイを見せた。


「病弱って……?」

「詳しくは教えられません」

「……いいわ、なら有名なメダイを買いに連れて行ってあげる」


 そう言って彼女は、門前に停めている自身が乗って来た車へと乗り込んだ。


「何してるの、早く乗りなさいよ」

「護衛も一緒ですが、宜しいですか?」

「何だっていいわ、けど、ボディーガードが付いて回るようなオメガなんて珍しいわね」


 彼女がエラルドを見ながら、ふぅん? と目を眇めた。彼女の視線は街中を彼と歩いている時に、よく見かける女性の目と一緒だった。

 貴方に興味があるわ、とエラルドに対して露骨な視線を送って来る女性、そんな女性を今まで大勢見て来たのだから、セリーナが興味を示しても不思議なことではない。


 ――まあ、気持ちは分かるけど……。

 

 分かっているのに……、それでも彼女がエラルドに興味を抱くのが、どうしても嫌だと思ってしまう。セリーナがジャンに向けて、そんな目で見ても一向に構わないのに、エラルドに向けられるのは気に入らなかった。

 ミハエルが不貞腐れていると、車を走らせる彼女は、「今時、政略結婚なんてナンセンスよね」と言う。


「俺も、そう思いますよ」

「形だけの結婚なんでしょう?」

「ええ、お互いにそういう話をしました。だから、ミス・セリーナが怒る必要はまったくないんです。恐らくジャンは結婚が落ち着いたら、貴女とやり直すつもりなのかも知れません」


 よくよく考えれば、そう意図もあるのでは? とミハエルは無きにしも非ずな話をした。

 

「……ハァ、なるほどね。取りあえず私と別れて、貴方と結婚して子供を作って、それで頃合いを見て私と付き合うわけ……、つまり愛人になるってこと? この私が? はっ……」


 彼女は急に笑い出しながら、「冗談やめてよ、愛人なんて、私はそんなの望んでないわ」と言って彼女は鼻で笑う。


「でも好きなんですよね?」 

「そうね、好きよ、彼って不思議な魅力があるし、それに仕事や財力にも魅力があるわ。ラカトッシュ貿易会社と言えば、フランス国内ではトップの会社よ。結婚してくれるなら喜んでするわ」


 と彼女は、ミハエルに挑戦的な目を向けて来る。野心のある人間は分かり易くていい。しっかりとした目的があって彼と付き合っていると言うセリーナは、逆に好感が持てた。

 

「さっきは悪かったわね、属性の偏見語を使ったわ」

「いえ、気にしてません」

「へぇ……、つまり、蔑まれても平気ってこと?」

「あー、そうではなく、ミス・セリーナが本気で『性欲処理するしか脳の無いオメガ』と言ったとは思ってないと言う意味です」


 ミハエルがそう言い切ると、セリーナは大きな溜息を吐き、「しっかり覚えてるじゃない、気にしてないなんて嘘ね」と苦笑いをした。

 確かに彼女の言う通り、まったく気にしてないわけでは無かったが、セリーナがアルファであるなら、オメガに恋人を取られるなんてプライドが許さないだろうと思ったし、だから、あの発言もミハエルなりに納得しているつもりだった――。


 車を走らせて一時間、何の変哲もない場所へ辿り着くとセリーナが車を停めた。

 小高い丘の上に立つ教会は、こじんまりしており、奇跡のメダイを販売してる教会の中で、とても人気なのだと言う。

「それにしても……」と後を付いて来るエラルドを見ながら彼女は、ミハエルに言う。


「素敵なボディーガードじゃない?」

「ええ……」

「恋人はいるの?」

「それらしき人はいると思います……」


 言いながら、ちくちくと胸が痛くなる。


「それらしき人って?」

「……俺はプライベートに口を出しませんので、詳しく知りたいなら本人に聞いて下さい」


 ミハエルは内心――、信じられない、さっきまでジャンのことで怒り狂っていたのに……、と心変わりの早いセリーナに驚くが、羨ましいと思ってしまった。

 そんな風に簡単に気持ちを切り替えられたらミハエルだって苦しまないで済むし、誰かに罪悪感を抱くこともない。

 ジャンに抱かれる度に脳裏にチラ付くエラルドの顔をどうやって消せるのか、彼が傍にいると思うだけで、勝手に高鳴る胸と鼓動をどうすれば止めることが出来るのか、彼女に教えてもらいたいくらいだ。

 セリーナは、「エラルド?」と呼びつけると「恋人は?」と訊ねる。


「おりません」


 エラルドのバッサリ切り捨てるような口振りに、ミハエルは安心してしまった。 

 彼は誰にでもそんな風なのだろう。ただ、あのジゼルと言う女性とは、親しみのある顔を見せていたし、余ほど親密なのだと思う。そんなことは考えたくないし、勘繰りたくもないのに、恋する思考回路は自分の思うようにはいかないようで、悶々としながら教会の中へと足を踏み入れた。


「この教会……、ネット販売もしてるんですね」

「そうよ、まあ、最近は転売も多いから、教会も率先してネット販売してるわ」


 有名な教会のメダイは人気もあるらしく、倍の値段でも売れる時は売れるのだと言う。


「弟さんの病気、何処が悪いのか知らないけど治ると良いわね」

「ありがとうございます」


 最後に彼女は、「携帯の番号交換しない?」と言うが、すかさずエラルドが説明をした。ミハエルが王族だということや、個人的な通話は現在出来ない状態だということを伝えると――、


「え、やだ、王子様?」

「見えませんよね、だから言うの嫌だったんです」

「見えるわよ! で、独身のご兄弟はいる?」

「……ミス・セリーナ、居るには居ますが、あなたとなら毎日喧嘩になりそうです」


 背後にいるエラルドが小さな声で笑う。


「エラルドもそう思ったんだ?」

「……ええ、その場面が簡単に想像出来ます」


 セリーナは、こちらの話を聞きながら、「次期国王なんでしょう? 少々の性格の悪さくらい我慢するわ」とすっかり乗り気だった。もちろん、彼女がグレンの花嫁になる未来は来ないと分かっているけど、グレンの隣に並ぶ姿を想像してミハエルは笑みを浮かべた――――。



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