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王室からの招待状  作者: 南方
奇跡のメダイ
22/30

22.映画鑑賞へ


 翌日、朝起きてリビングに顔を出すと、大声をあげるジャンを目にする。


「どうして断らないんだ⁉」

「……兄さんからの命令なんだ」

「命令って……」

 

 どうやらルイードに誘われたらしく、ミハエルはしぶしぶ出かける用意をしていた。

 ジャンがシンクに向かってコーヒーカップを放り投げるとガチャンとグラスが割れる。余ほど頭に来ているのか、そのまま彼は無言で外へと出て行った。

 何度も溜息を吐くミハエルにエラルドが、「嫌であればお断りしても宜しかったのでは?」と声を掛けると、グレンに花婿候補と平等に接するようにと言われたらしく、仕方が無いと肩を竦めた――。


 呼び出されたのは有名なホテルのロビーで、民族衣装ではなく割とラフな格好でルイードはミハエルを出迎えた。


「今日は映画でも観ようと思ってね、どうだろうか?」

「はい、構いません。前から思っていましたが、ルイードさんは、そういった物が好きなんですね」

「そういった物?」

「以前はオペラに誘って頂いたので、観劇などが好きなのかと」

「んー、まあ、時間を無駄に使うのが一番の贅沢だと思ってる。だから贅沢な時間をミハエルと過ごそうと思ってね」

 

 会話を楽しみながら、彼達は劇場へと歩いて行く、その後ろをルイードの護衛とエラルドが付いて行く形となった。

 近くにはブランド店が立ち並んでおり、ミハエルは関心など無さそうだったが、ルイードは頻りに何かを見つめていた。

 ブランド品でミハエルの気持ちが動くことはないと思うが、プレゼントは有効な手段だと言える。その品が目に付くような物であればあるほど、自身を思い出させることが出来るからだ。

 目的の場所に到着し、エラルドとルイードの護衛は近くで待機することにした。

 不意に、「君はどうして、この仕事を?」と、年齢的にはかなり年上の護衛の人間に声を掛けられて、エラルドは正直に話をした。


「本当は一般職の警察官を申し出ていたのですが、運よく護衛の推薦を頂きました」

「へぇ、サルスジャミン諸王国の王子の護衛なんてなかなか回って来ないのに君はかなり運がいいな」 

「そのようです」


 軽く不審には思っているが、深くは追及する気はないようだった。

 彼は、二人が入って行った映画館を見つめながら、「それにしても」と一呼吸おくと――、


「珍しいこともあるな、ミスター・ルイードは来る者は拒ばないが、追いかけることはないのに」

「……」

「まあ、確かにミスター・ミハエルは、あまりお目にかかれないレベルのオメガだから気持ちは分かるが……」


 どういう意味で言ったのだろうか、とエラルドは彼の顔を見た。「そんなに怖い顔するな」とこちらを見て笑う彼は、顔を斜め向こうへ向ける。


「俺達が普段相手にするオメガは大抵がああいうのだからな」

 

 そう言って彼が指を差したのはオープンカフェで働くウェイターだった。

 確かに、大半のオメガの職業は接客が多い。ベータも含めて接客に関してはオメガほど適切な人種はいないだろう。大企業でも秘書にオメガを使うことが多いのはそのせいだ。


 ――理由はそれぞれだが……。


 こちらの話を聞いていたもう一人の護衛が肩を竦めながら、「エリートアルファでも、ミスター・ミハエルほどのオメガにはそう簡単に近付けないだろうな」と若干皮肉めいた言葉を吐いた。

「そう、羨ましがるな」と年配の護衛が笑いながら宥める。

 ミハエルを高級娼婦のような扱いをされて、軽く怒りが湧いたが未だに属性に関する差別は多いのも事実だし、こればっかりは個人の力だけでは覆るような物ではない。

 国がもう少し属性転換に関する医療費負担をしてやればいいのだが、莫大な医療費を免除する努力をするよりは、薬で規制した方が国としては楽なのだろう。

 この後も彼らと他愛もない会話を続け、互いの主が帰ってくるのを待った――。

 映画鑑賞が終わった二人が出てくると、ルイードがそのままミハエルを連れてジュエリー店へと入って行く。

 映画館へ行く前に、頻りに気にしていた店で、ミハエルに何かプレゼントでもするのだろうとエラルドは軽く考えていた――。



 ジャンの待つ家へと戻れば、今か、今かと待ち続けていたのが想像出来る様子の彼がミハエルに飛び付いた。


「やっと帰って来た!」

「ジャンっ……っ⁉」


 自分は席を外した方がいいだろう、とエラルドが与えられた部屋へ向かう時、ミハエルが、「痛っ」と声をあげた。

 振り返れば、腕を掴まれており、一体どうしたのかと思ったが、直ぐに理由が分かった。


「何これ……」

「ルイードに無理やり付けられたんだ。外そうにも鍵はあっちが持ってて……」

「はぁあ?」


 ルイードが宝石店で購入した恋人同士が付けるブレスレットだ。

 まさか、ジャンがそんなに反応するとは思っても見なかったエラルドは、ざっとミハエルの前に立った。


「乱暴な真似はお止め下さい……」

「分かってる。ちょっと苛っとしただけだ……、悪いけど二人きりにさせてもらう」


 そう言ってジャンはミハエルを自室へ連れて行こうとする。

 けれど、連れ去られる彼を見て、エラルドは条件反射で身体が動いてしまった。それに気が付いたジャンが、意味ありげに口端をあげると部屋の扉を閉めた。


 ――今、俺は何を……。

 

 咄嗟にミハエルの腕を掴もうとしていた自分が信じられなかった。

 アルファの所有欲が強いのは好意からではない場合が多い。単純に自分の支配下にいるオメガが奪われることが許せないという心理がある。 


 ――俺が彼を愛してないなら……。


 それなら所有欲と考えるのが妥当だった。けれど、護衛しなくてはいけない相手に欲を抱いたことが許せなかった。

 そんなことを考えている間に、ミハエルの啼く声が聞こえ始め、エラルドは咄嗟に外に出た。

 車にキーを差し込み、ガツっとハンドルに頭を置く、別にジャンとミハエルが何をしようと大したことでは無かった。

 大学の時も部室をホテル代わりに使っている部員とばったり出くわしたこともある。だから、今さら動揺するようなことでもない。

 それなのに、ミハエルに対して様々な感情が湧くのをどうして抑えられないのだろうか、とエラルドは自分の気持ちがよく分からなかった。

 今も込み上げてくる怒りは吐きそうなほどだ。


 ――誰が誰に?


 その怒りが誰に対して放っている物なのかも分からないのだから、どうしようもないな、と自嘲気味に笑った。

 エラルドは車から出ると、そのまま敷地内を出て、気持ちを落ち着かせるため周辺を歩き、頃合いを見計らってから家へと戻った――――。

  


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