【半狂い昔話】百桃
むかしむかしあるところに、ジジイとババアがおりました。ジジイは山へ柴刈りに、ババアは川へ洗濯に行きました。
ババアが洗濯をしていると、川のせせらぎをずっと聞いていたせいか、しっこがしたくなりました。
ババアはふんどしを脱ぎ、川に向かって放尿しました。
「うぃ〜ゃ、落ち着くのぅ⋯⋯ハァッオ!」
最後の1滴が落ちた瞬間、ババアはバランスを崩して川へ落っこちてしまいました。
「あぼば! おばば! あぼばぼばぼばぼ!」
もがけばもがくほど、安定から遠ざかります。
「ごぼぼぼぼ! わしはもう! ごぼぼ! 終わりなのかぁ! ごぼぼぼぼ!」
その時でした、岸のほうから物音が聞こえたのです。
ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロ⋯⋯
「ごぼぁ! ごぼっ! あっ! あれは!」
ババアの目に映ったのは、それはそれは大きな桃でした。桃が流されるババアに合わせて転がっているのです!
「そこの桃! 助けとくれ! 助けとくれぇ!」
桃はこくりと頷き、ババアに手を差し伸べました。
間一髪で助かったババアは桃を担ぎ上げると、そのまま家に向かって歩きました。
家にはもうジジイが帰っていました。
「よっしゃ! さっそく切ってみっか!」
ジジイは台所から巨大な包丁を持ち出し、ババアを頭から真っ二つに割ってみせました。
すると、ババアの中から小さな仏様が出てきました。
「私を呼びましたか」
仏様は微笑んでおられます。
「呼んでません」
ジジイは確かに呼んでいません。
「私は実に900年ぶりに目を覚ましました」
「寝過ぎは体に良くないっスね」
「おじいさん、私を目覚めさせてくださったご恩は忘れません。なにか叶えたい願いはありますか」
「そうじゃのう⋯⋯あ、そういえば最近鬼ヶ島の鬼たちがこっちに来て悪さをしているそうなんじゃ! そいつらを皆殺しにしてくれんかの!」
「そういうのはちょっと」
「じゃあ、この桃を人間にしてくれ!」
「いいでしょう」
仏様が目をお閉じになると、桃の全身が光り輝き、爆発しました。
「なにやっとるんじゃあ!」
ジジイの怒号がオンボロ屋敷に響きます。
「まあまあ、見ていなさい」
砕け散った桃の破片がなにやら蠢いています。
ウネウネ
ムニムニ
モニュモニュ
それらは必死に体を動かして、しばらくすると人の形になりました。全部で100体くらいいます。
「おじいさん、仏様、僕たちはこれからお碗の船で鬼退治に行ってきます! ですので、お椀を100個買ってきてください!」
「おやおや、それでは別作品じゃありませんか」
仏様がまた微笑んでおられます。
「そうじゃそうじゃ、それじゃ目玉おやじじゃぞ」
「いや一寸法師でしょ」
1000年に1度と言われる仏様のガチトーン突っ込みが出ました。
「一寸法師100体もおらんじゃろ」
「目玉おやじもいませんよ」
「なんかワシら」
「気が合いますね」
ジジイと仏様は肩を組んで楽しそうに揺れています。
「ワシら、マブ!」
「それなら僕たちも!」
100人の桃が肩を組んで揺れています。
「Na-Na-NaNaNa NaNaNa NaNaNa Na-Na-NaNaNa♪ Bounce with me Bounce!」
「DJ OZMAだ」
「アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士だ」
「そういうわけなので、僕たちはこのまま鬼ヶ島へ行こうと思います。待っててくださいね」
「待っててって、買い物とかどうすればええんじゃ?」
「買い物とかは行って大丈夫ですよ」
「じゃあ待っててってなんなんじゃ?」
「なんというか⋯⋯僕たちが鬼に勝つと信じててくださいって感じですかね」
「じゃあサイソからそう言えよ!」
「怒りで最初がサイソになってるけど指摘したら余計にブチ切れそうだから言えない!」
「お前怒られとる立場でなんじゃその物言いは!!!」
「ほら怒った!!!!」
なんだかんだ仲良しのジジイと桃。
「おじいさん、あなたは私とマブだったのではないのですか」
仏様が怒っておられます。
「あなたは私の初めての人だったのですよ」
タコっておられます。
「そんなに桃がいいというのならもう知りません。あなたと私は別々の道を歩むべきなのでしょう」
「そんな! ワシはただ⋯⋯」
「ただ?」
「ワシはただ、びっくりドンキーが食べたい!」
「私はコストコが食べたいです!」
「なんじゃコストコって! 何が食べたいか分からんじゃないか!」
「おじいさんこそ、びっくりドンキーは店名ですよ!」
「いやワシのは分かるじゃろ! ハンバーグ食べたいって分かるじゃろ! それにひきかえお主はなんじゃ! コストコて!」
「ロティサリーチキンが食べたいです」
「ワシも!」
「私たちって」
「気が合うのぉ!」
こうしてジジイと仏様は末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
その頃、鬼ヶ島に着いた100切れの桃は鬼に爪楊枝でつままれていました。おいしそう。